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「やっぱり君は表に出るべきじゃない」


ハッキリと彼女にそう伝えました。

彼女の態度は変わらず、強い不満を表します。

そして、もしそうするのならば、今までの成果を台無しにする・・・

要は彼女と僕の、これまでの詳細を全て明かすということのようです。

強い口調で僕にそう言い放ったのです。

これは彼女にとっては特にデメリットがないように思います。

そもそも彼女がその気になればいつでも全てをバラせるし、

みんなに、自分こそがネットを騒がせたミクの「成り代わり」であったと

知らしめることができます。

だけど僕自身にとっては、全てを明らかにされてしまってはそこで終わりです。

僕自身のことだって公開する情報はよく選ばなくてはならないのです。

不利なのはどう見ても僕の方です。


分かっています。例えそうされても僕らの実績自体は消えるわけではありません。

みんなも、なるほどそういう企画だったのかと納得するでしょう。

だけど、それで得られ賞賛はほんの一瞬のまるで花火のようなものです。

その瞬間に祭りは終わりを迎えるのです。

祭りが終われば神様は元の世界に帰ります。

彼女はコスプレを楽しむボカロファンの一人に戻り、

僕もただのいちボカロPとして、多少は華やかになるかもしれませんが、

今と比べたらとても退屈な日常に戻ることになります。

このままでいれば、ずっと語り継がれる一つの「物語」にだって

成り得る可能性があるというのに。

余計なことをすれば、ただの人気者として一瞬で消費されて終わってしまいます。

それを重大な喪失だと思えない彼女に、僕はとても驚きました。


繰り返しますが、もちろん理解できないわけではないのです。

彼女には「姿を晒すな、事情を明かすな」と指示し、

自分だけが全てをコントロールして創り上げたと告白する。

たしかに、一見すると僕だけが得しているようです。

しかし、それは大きな間違いです。

神格化されたアイドルは、その匿名性が命なのです。

存在を明らかにした瞬間、自分が当人であると明かした瞬間、

彼女は単なる一人の人気レイヤーに成り下がります。

神格化されたアイドルでいながら、

自分の存在を明らかにしてその身で直接に賞賛を浴びようとする事は

絶対にと言っていいほど、両立が難しいことなのです。

手に触れられる身近な存在になると言う事は、陳腐化を早める原因です。

自分を安売りするようなものです。

手垢にまみれた肉は腐るのもはやいでしょう。

僕の言う通りにしていれば、お互いに得をするのです。

彼女は神のまま、ミクのままでいられるというのに。

直接的に、分かりやすい形で賞賛を得たいと考えるところは、

やはり少しだけ幼さを含んでいると言わざるをえません・・・


・・・まぁもっとも、僕が言えたことではありませんね。


とにかく、このままではまずいことになります。

しばらく思案した後に、次のような提案をしました。


「最後の頼みだから、どうか一週間だけ黙っていてほしい」と。


提案というより、懇願です。そして日数に大きな意味はありません。

彼女を押さえ込める時間がその程度かなと思ったからです。



彼女は、ミクは動画の中で死んだのです。

いまさら表に出てこられても、みんな興醒めでしょう?

お粗末な自己顕示欲で、いままで築き上げたものを崩してしまう、

そんな危険を冒す必要はありません。

僕に任せておけばいいのです。



その日、僕は一方的に事の全てを告白しました。

質問は一切受け付けません。

動画も曲も、全て僕の製作・投稿である事。

彼女をブランディングした、創り上げたのは僕であるという事。

未公開の映像や音声のソースを使うなどして、

僕との関連を理解してもらえる、しかし彼女の詳しいディティールが

明らかにならない程度の材料で説明を行いました。

そういう情報を小出しにするやり方だったからか、

最初は誰もが半信半疑、いまいち飲み込めてはいない様でした。

ただそういった状態も長くは無く、瞬く間に真相が理解され、

その事実の大きさに多くのファンが驚き、最大のトピックスとして扱いました。


そんな彼らにとっての大きな関心事の一つは、

彼女自身の素性はもちろんですが、僕との詳しい関係性もそうでした。

予想した通りの反応です。

このような反応に対してとった対応は、

まるでゴシップのようで品性があったものではありませんが、

彼女との肉体的な関係があることを仄めかすこと。

慎重に、あくまで薄く淡く、曖昧なままにして明確には明かさないように。

これは、もちろん更に人の興味を煽る意味もありますが、

(人の興味は結局、喰う事とセックスに収束するのでしょうか)

もっと重要なのは、あくまで彼女の存在は蜃気楼のように不確かだけど、

でもしかし、確かに「現実」に存在する「らしい」という、

そういう非常にデリケートな立ち位置にいる事を強調することです。

その存在自体をハッキリとは明言せず、しかし肉体の匂いも僅かに漂わせる。

これは、今までとってきた方針に大きく逆らうものではありませんが、

危険があることも承知の上です。それを冒すに値すると考えてのことでした。


そういった細かい情報のコントロールをとることで、

あくまで僕が創り上げたという「事実」の修飾を行いました。


そう、大切なのは僕がぜんぶつくりあげたという事実です。




つづく


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