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一度回りだした奇妙な仕組みは、その勢いを増す一方です。
最早、本物のアイドルと言っても過言ではない、
少なくともネットの上では・・・彼女はそういった存在となりました。
実際がどうであれ、この高い知名度と神秘性が作り出すカリスマを
彼女が持ち抱えて見えるという状態が大切なのです。
みんなが、彼女は現実に降り立ったもう一人のミクであるような、
そんな存在であると感じることに、あまり違和感を感じなくなっていました。
それは、ネット上でよく見られる「お祭り」騒ぎ的なノリなのかもしれませんが、
そういった状態を広く浸透させることも大きな狙いの一つでした。
既に多くのファン達は、あまり疑問なく雰囲気にのまれていきました。
この頃、「ミクさん?どっちの?」などという、
奇妙なやり取りがきかれるようになりました。
※
彼女を作り上げたのは僕です。
生きた伝説、本物の偶像に仕上げたのは僕です。
そして僕は、少しでも多くの人に彼女の素晴らしさに触れて
感動してもらいたいと思いました。
だから彼女を、初音ミクの現実への顕現を、
映像作品という形で分け与えているのです。
どうぞもっと彼女を愛してあげてください。
そして優しくしてあげてください。
その無邪気で柔らかな笑顔は、望んだみんなに与えられるのです。
※
だけど同時に、限度を弁える事も大切です。
踏み越えてはいけない一線があります。
神様の遣いである天使には、それと等しい敬意を示さねばならないのです。
彼女は、その彼女の笑顔は、まさに天使の祝福そのものです。
そして天使は人間とは違います。
天使には天使の、人間には人間の、それぞれにそれぞれの領分があります。
いつまでもこの世界ににとどまることは出来ません。
ここにいつづければ、純真無垢な彼女のイメージが、
ミクとしてのイメージが穢される可能性となります。
僕にとってそれは、おそらくみんなだって、とてもつらくて悲しい、
そして許し難いこととなるでしょう。
※
何事も、最後の仕上げが大切なのは言うまでもありません。
彼女が「ミク」として保存される、永遠に語り継がれるに必要な、
大切な仕事が残っています。
最後に投稿した動画の終盤。
彼女が、ミクがミクとしての情報を失い、その存在を閉じる・・・
人間で言えば命を失う、天に召されるという、そんな演出がなされています。
もう二度と、新しい彼女の姿を目にする事はないと言う暗示でした。
「会えなくなるかもしれない」という状況は、人にとって非常につらいものです。
視聴者の悲鳴が聞こえてきそうな、実際にコメントは悲痛なものばかりでしたが、
事実とても切ない、悲しい作品に仕上がるよう製作をしたつもりです。
つづく




