-21-
生身の人間は、架空の、実態をもたない存在と比べて大きな優位性があります。
それは「確かにそこに在る」という圧倒的なリアリティ。
何か物や人を愛でる場合、これは決定的です。
もしかしたら実際に出会えるかもしれないという可能性は、
多くの場合はファンを熱狂させる大きな原動力となります。
誰だって、スターをこの目で見てみたいいと考えます。
そしてあわよくば、この手で触れてみたいと。
だけどそれは、同時にデメリットにもなり得るのです。
歳をとりますから、永遠に美しいわけではありませんし、
人間だって生物です。生理現象を抑えることはできません。
(もっとも、それも美しさのうちだと言う人もいますが)
良くも悪くも、どうしたって「生々しさ」を感じさせてしまいます。
そしてこれは、アイドルにはあまり必要な要素ではありません。
だからこそ、彼女の露出を強くコントロールしてきたのです。
※
彼女にはとても負担をかけたと思います。
あまり目立つ行動をとらないようにと言い聞かせ、多くの制限を課してきました。
それを貫徹するに、その難度を高めるのは学校での生活であると思いました。
彼女は学校で、イジメにあっているような事を、
それとなしに漏らしていたからです。
なるべく目立たない存在でいようとする場合に、
それは少なからず障害であると考えられます。
しかし幸いだったのは、彼女がある意味での二面性を持つ、
そういうタイプの人間だったと言うことでしょうか。
普段はとても地味な女の子ですが、しっかりと手をかけてあげると
元の姿からは想像も付かない、なかなかに見栄えのする顔立ちとなるのです。
さらにはその立ち居振る舞いも大きく変わって、
自信に満ち溢れた堂々としたものとなります。
普段は地味でおとなしい彼女が、まさかイベントなどに参加し、
増してやコスプレをして人前でそれを晒すなどととは思いも寄らず、
当然、いまネットを賑わせている存在だとは誰も考えなかったようです。
一方で、普段の大人しく素直な性根は僕にとっては都合がよい物でした。
そして人並み以上に自己顕示欲を持っている事も―――。
ともかく、若い女の子にとっては色々とツラく面倒な事だったと思います。
しかし、彼女のその苦労と努力の甲斐あって、
ある一つの高みに、そこに手に届くかというところまできたのです。
ネット上で多くの人達が羨み憧れる、「本物」のアイドルという到達点です。
ただの人気者ではありません。
僕も相当な時間とお金を投資してきました。
仕事もほとんど休職状態です。
お飾りのような有給を強引に使い果たし、さらには欠勤を繰り返しました。
いよいよ仕事を失うことになりそうです。
でもそれは仕方ありませんし、もうどうでもいいことです。
自分で望んだことだから。
そして、使い途を知らないだけで無機質に貯まっていたお金も
この計画のためにあったのかもしれないと感じています。
自分の注ぎ込めるリソースは、殆ど全てを使いました。
あとは成るように成るに任せる他はありません。
レールは敷きました。
あとは神様がその上を上手く走ってくれるかどうかです。
※
僕の動画に出演した、ミクを演じる彼女は、
実は3DCGのモデルかなにかではないかという、
そんな憶測も見かけるようになりました。
さらには極端なことに、彼女がミクの現実世界に顕現したものだと
冗談ながらに言う人もでてきました。
素晴らしい想像力です。
全てを知る身としては大袈裟な笑える話に聞こえますが、
ネット上での情報の伝達は素早く爆発的、そして酷く悪戯好きで、
根も葉もない噂話は人々の願望を少なからず反映し、拡散していきます。
身勝手な情報は、交錯し混乱し混沌としながら癌細胞のように成長を続け、
当初の意味や目的は加工されて大きく姿を変えてしまいます。
ネットワークが身近になってそう時間が経ってはいませんが、
僕たちは、良くも悪くもそういった「ドラマ」を度々目撃してきました。
そして今回は、彼女の存在をさらに大きく謎めいたなものにするという、
そういった作用をもたらしたようです。
このような、ネットでのみんなの動向は、
僕にとっては非常に望ましい状態と言えます。
そろそろ良い頃合だと思います。
※
これから新しい動画を投稿します。
ほとんど前回の焼き直しみたいなものですが、
これには新しく重要な演出が加えてあります。
おそらくはこれが最後の作品となる事でしょう。
そしてタイミングをはかって、僕の関与を明らかにしようと思います
つづく




