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いないとわかっていても、いて欲しいから探してしまう。

哀しいものです。

参加者達がイベント中におこなった各種のストリーミング放送や、

ブログのリアルタイム更新、またはツイッター上では、

誰もが彼女の不在に触れてそれを話題にしていました。

どれもこれもそこで語られる内容といえば、

「期待をあっさりと裏切られとても残念ではあるけれど、でもしかし、

湧いてくるのは怒りではなく彼女への興味ばかりだ」

・・・と言ったところでした。


とはいえ、彼女がいないからと言って、

表面上イベントの進行自体に大きな影響を与えたわけではありません。

さしたる問題も無くイベントはその日程を予定通り無事に終えました。

このイベントが終わるとその近々には大きな催し物は無く、

ファン達は束の間、その活動に一息入れる事ができるのです。


・・・だけど、今回はそうはいかないのかもしれません。

僕があのアカウントで新しい動画を投稿するからです。


前回の動画を投稿してからすぐに製作を始めていたものです。

先のイベントに参加したくなかった大きな理由の一つが、

その作業になるべく多くの時間を使いたいから、という事でした。

せっかく、漸くここまで育て上げたのです。

彼女の人気を貶めることの無いよう、

ギリギリまで追い込んでクオリティを高めたかったのです。

少なくとも前回と同じ・・・いえ、それを凌ぐ出来でなくてはいけません。

僕はイベントを早々に切り上げると、

食事も寝ることも忘れて詰めの作業を進めていきました。



そしてイベントが終わった翌日、どうにか動画を投稿する事が出来ました。

彼女のイベント不参加から突然の新作投稿です。

なかなか面白いタイミングだと思い、最初から予定していたものです。

今回の作品も彼女を「出し惜しみ」した、見たものをとても焦らす作りです。

前回に似たタイプの作品ですが、それをもう少し洗練したものです。

色々な人の色々な作品を参考にし、ウケの良さそうな優れた演出は貪欲に吸収し、

躊躇わず作品に取り入れるということもしました。

とにかく演出には時間をたっぷりかけました。

曲自体の製作よりも多分に労力を注いだものです。

前回にも増して、見た者が感じる彼女の「肉体」を、

実際に肉体をもった存在であるという印象を希薄にするものです。

そういった情報を重ねて公開することで、

その結果の先に神性ともいえる一種のカリスマを付与できると考えたのです。

もはや、曲自体の出来不出来はあまり問題では無くなってきました。

大切なのは彼女のビジュアルです。

作品を見た人の目に、狙い通りにしっかりと彼女の姿が映るかどうかです。



動画の反響はなかなかのものでした。

再生数の増え方は、他の歴代ボカロ動画に迫る、

まさに怒涛と言うに相応しい勢いでした。

コメントの量もそれに劣らぬ溢れかえり様で、

少しでも古いものは次々と消ていきました。

その内容は、どれもこれも彼女の素姓を探るもので、

殆ど飢えた動物のような、少なからずの狂気を孕んでいるように見えます。

彼女はもう、僕らの目の前に、モニター越しなどではなく、

生身の姿を現してくれることはないのか?

そんな、彼女への渇望が画面の向こうでうねりをあげているようでした。



ファン達の想像がネット上を飛び交います。

過去にイベントで見せた、彼女の姿を頼りにして・・・。


現在ネット上に出回っている彼女の画像は、

僕が彼女に関わる前に参加したらしい極々小さなイベントでの僅かなものと

その後の数回の、僕が「プロデュース」したものだけです。

そういった僅かな手がかりからでも、人物が特定される危険性があります。

僕と組む前に参加したイベントがあるといのは大きな不安でしたが、

しかし幸いなことにそれは脅威となることはありませんでした。

普段の生活を、隠れるように送っていた彼女の努力の賜物でしょうか。


・・・少しずつ、みんなが望む彼女の「素姓」が作られていきます。

僕が投稿したあの動画も良く機能しているようです。

日が経つにつれて、その形は明確になってゆきました。

彼女はまるで、見えるけれど触れられない、

実在しない架空の存在のような、

ファンの間ではそんなキャラクターとした扱いになってきました。

ネット上を行き交う情報が生み出した、一人の人格。

触れる事のできない、幻のように虚ろで、でも確かにそこに在る。

僕たちは過去に、これに似たような事を経験してきた覚えがあります。


そう、まるで初音ミクという「人格」発生の軌跡のような・・・。




つづく


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