表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
PR

「俺に譲る」と言われた親友の妻と一線を越えた。離婚が成立した瞬間、俺は捨てられた

作者: KaZM
掲載日:2026/05/14

目の前で壊れていく女性と子供を、放っておくことはできなかった。


親友からの「譲る」という最低な言葉。

暴力を振るう親。

救いたいという一心で踏み越えた一線は、果たして純粋な正義だったのか。それとも、ただの身勝手な傲慢だったのか。


泥沼の中で差し込んだ光が、偽物だと気づくまでの物語です。

その男の背中を見つめながら、俺はいつも胸の奥で、苦い泥のような嫌悪感を飲み込んでいた。


男の名は、さとし。小学校からの同級生で、中学の卒業間際から急速に距離が縮まった、いわゆる「親友」の枠にいる男だ。聡は昔から女癖が悪かった。結婚してからもそれは変わらず、浮気、不倫、風俗通いを日常茶飯事として繰り返していた。

「おい、今夜ガルバ行こうぜ。いい子紹介するからさ」

悪びれもせず俺を誘う聡の横顔に、俺は愛想笑いを返しつつも、冷ややかな視線を向けていた。俺はそういう男が一番嫌いだ。女性を舐め腐った態度、平気で物を壊す粗暴さ、約束を破っても謝れない傲慢さ。

だが、聡は俺のことを「親友」として慕っているようだった。ここで彼を無下に突き放すのも、どこか自分の器が狭いようで惨めに思え、ずるずると関係を続けていた。


聡が「できちゃった婚」をしたとき、紹介されたのが妻の香織かおりだった。香織は遠く離れた地方の出身で、この街には知り合いもいないという。二人の間には、真央まおという名の、ひまわりのように笑う4歳の娘がいた。


転機が訪れたのは、俺が当時同棲していた女性と別れ、実家のある地元に戻ってきた頃だった。

地元に残っていた聡の家族と、俺。自然と4人で会う機会が増えていった。宅飲みをし、週末には4人で出かける。傍目には、仲の良い友人グループと幸せな家族の風景に見えただろう。


だが、異変は静かに、確実に始まっていた。

4人で出かけている最中、香織と真央が席を外して二人きりになった途端、聡は煙草をふかしながら、信じられない言葉を吐き出すようになった。


「なぁ。香織と真央、お前に譲るわ」


冗談だと思った。だが、聡の目は笑っていなかった。

「もう離婚するんだよ。俺たち夫婦は、とっくに破綻してる。このお出かけが終わったら、それを切り口に離婚を切り出すつもりだ」


「……何言ってんだよ。そんなこと言ったら、二人がかわいそうじゃんか」

俺は慌てて引き止めたが、聡は「もういいんだ」とだけ言って、話を打ち切った。そんなことが何度も繰り返された。家族をまるで、いらなくなった荷物のように「譲る」と言ってのける聡への不信感は、俺の中で限界まで膨らんでいった。


ある日、俺の家で宅飲みをした。3人が帰宅した直後、俺のスマホが震えた。香織からのLINEだった。


『真央が勝手にパパのスマホ見ちゃって……LINEに「りな」って名前があったんだけど、誰か知ってる? 聡、また浮気してるのかな……』


「りな」なら知っている。聡と一緒に行ったガールズバーの女の子だ。

最初は巻き込まれたくなくて「知らない」としらを切った。だが、聡がこのまま不倫という重罪で責め立てられるのも、どこか哀れに思えてしまった。それが間違いだった。

『ごめん、嘘ついた。ガルバの子だよ』

そう返信してしまった。


数日後、香織から「聡のことで相談があるから、家に行きたい」と連絡があった。面倒なことには巻き込まれたくない。断ろうとした。しかし、俺の脳裏に、かつて自分自身が経験したDVの痛みの記憶がフラッシュバックした。もし、彼女が今、追い詰められているとしたら……。手遅れになることだけは避けたかった。俺は考える間もなく、彼女を部屋に招き入れた。


香織は、静かに泣いていた。

「浮気なんて、今まで3回も許してきたんです。もう、どうすればいいのか分からない。離婚したい」

俺が知っている以外にも、聡の不貞は数え切れないほどあったのだ。さらに香織は、声を震わせながら信じられない事実を口にした。

「あの人と義理のお父さん……真央を納屋に閉じ込めるんです。叩くし、怒鳴るし……」


児童虐待。そしてDV。

「……そんなことがあったんだ。それは辛かったね。暴力は、絶対によくないよ」

俺は精一杯、当たり障りのない言葉で彼女を慰めた。他人の家庭に深く踏み込む勇気は、まだなかった。


一通り話し終え、香織が帰宅した直後だった。

激しく、狂ったように我が家のインターホンが連打された。不審に思い居留守を使っていると、聡からLINEが届いた。

『逃げんなよ』


直後に着信。恐る恐る電話に出ると、受話器の向こうで聡が泣いていた。

「ごめん……俺はお前を疑った」

聡は、俺と香織が不倫関係にあると勘違いして、怒り狂って乗り込んできたようだった。

「ガルバの子のことを言ったのは悪かった。でも、不倫と思われるよりはマシだろ? お前も、不倫を3回も見逃してもらってるんだから、奥さんに不満が募るのも当然じゃないか」

俺がそう一喝すると、聡は急にトーンを落とし、「お前は悪くない。俺が撒いた種だ」と力なく呟き、電話を切った。


これで終わる。そう思っていた。

しかし、聡の身勝手さは、俺の想像を遥かに超えていた。


しばらくして、香織から再び写真付きのLINEが届いた。

『何ヶ月も夫婦生活がないのに、これ。おかしいよね』

そこには、聡の財布から見つかったコンドームの写真。あの一悶着の直後ですら、奴は不貞をやめていなかったのだ。さらに、香織が子供のために封筒に貯めていた10万円を、聡が盗んだという。


他人の家庭のことだ。好きにやってくれ。そう思おうとした。

だが、回想が頭を駆け巡る。

『お前に譲る』『破綻してる』と言いながら、いざとなれば逆上して怒鳴り込み、自分は裏で泥棒と浮気を繰り返している。そんな男の勝手な保身のせいで、俺は振り回され、一人の女性と小さな子供が暗闇に取り残されている。


激しい憤りが、俺の理性を焼き切った。


再び、耐えかねて俺の家に逃げてきた香織がそこにいた。

もう、聡のことなんてどうでもよかった。あいつの嘘に付き合わされるのも、都合よく立ち回らされるのも、全部終わりにさせてやる。


俺は香織を抱き寄せ、スマホのカメラを向けた。彼女の頬にキスをする写真を撮った。

それは、一線を越えた証。もう後戻りはできないという、俺なりの決別だった。

同情もあった。だが、確かに彼女に惹かれていた。この傷ついた母子を、俺が守らなければならない。無駄な英雄気取りだったと、今の俺なら笑える。だが、当時は本気だった。


「俺に譲るって言ったよな? 自分は何回も裏切ってるんだから、これくらいで騒ぐなよ」

自分にそう言い聞かせ、俺は香織を抱いた。考えが甘すぎた。


すぐに聡にバレた。聡は血相を変えて単身で乗り込んできた。

「もう二度と連絡しない、会わない」という約束を強引に取り付け、少し揉めた末に聡は帰っていった。

(離婚するんじゃなかったのか? 破綻してるんじゃなかったのか? なぜそこまで執着する?)

そんな約束、最初から守るつもりはなかった。


後になって、香織から信じられない事実を聞かされた。

聡は、香織のスマホに密かにGPSを仕込み、帰宅するたびに車のドライブレコーダーを確認し、カーナビに足跡機能をつけ、写真フォルダを勝手に共有していたという。夫婦間で「絶対にしない」と約束していたはずの、異常なまでの監視。香織は完全に、逃げられない籠の鳥にされていたのだ。


やがて、香織と聡の調停が始まり、同時に、俺と聡の裁判が始まった。

香織は真央を連れて、遠い実家へと帰っていった。


「お互いに調停と裁判が終わるまで、心のケアをしていこう。離婚が成立したら、結婚しよう」

俺たちはそう約束を交わした。俺はほぼ毎週、車を走らせて、遠い彼女の地元へと通い詰めた。傷ついた彼女の心を慰めるため、そして裁判の情報交換のため。俺は、彼女たちの未来のために全てを賭けていた。


数ヶ月が過ぎた。

香織の調停が、俺の裁判よりも一足早く成立し、離婚が決まった。


その、わずか数日後のことだった。

香織から、冷たいトーンで別れを切り出された。


頭が真っ白になった。唖然として、言葉が出なかった。

男女の別れに理由があるのは分かる。だが、なぜ今なのか。

俺は、あなたたちを守るために戦場に飛び込み、そのせいで今も聡から訴えられて、裁判の泥沼の中にいる。


「俺の裁判が終わるまで……待って、くれなかったのか」


静まり返った部屋で、俺の呟きは誰に届くこともなく消えた。

彼女は、自分が安全な場所に辿り着いた瞬間、俺という避難所を、用済みと言わんばかりに捨て去ったのだ。


カーテンの隙間から差し込む光が、やけに冷たく、俺の影を床に長く伸ばしていた。


END

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


世間的に見れば、主人公の取った行動は決して許されるものではありません。「不倫」という形でしか彼女を救えなかった時点で、彼の敗北は決まっていたのかもしれません。


戦場に飛び込み、全てを賭けて守ろうとした男と、

安全な場所へ辿り着くための「避難所」を求めた女。


最後に残ったのは、冷たい光と、独り残された裁判の泥沼だけでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ