追放された万年荷物持ち、配信の切り忘れで【世界のデバッグ】を披露してしまう
「――悪いが、お前はここでクビだ。囮として死んでくれ」
S級パーティ『暁の天剣』のリーダーが冷酷に言い放った。
場所は、前人未到の深層ダンジョン。目の前には、最強のボス『魔龍』が鎮座している。
「……クビ? 僕を消したら、この場所の『ルール』が壊れて全滅しますよ?」
荷物を下ろしながら、静かに問い返した。
だが、リーダーは鼻で笑った。
「ルールだぁ? お前はただの荷物持ちだ。【ポイント指定移動】なんてゴミスキルしか持たない無能が、選ばれし俺たちに意見するな」
彼らは転移石で逃げ去った。
残されたのは、静かに僕を映し続ける配信カメラ。
そして、眼前には食い殺さんと迫る巨大な魔龍。
溜息をつき、空中に指を滑らせた。
「……まったく。あんな雑な戦い方をするなんて。『バグ』を直す身にもなってほしいよ」
【ポイント指定移動】。
世間では「自分を動かすだけ」のハズレスキルだと思われている。
だが、この目に映る景色は違う。
世界は一種のプログラムのようなもので、その『設定』を自在に書き換える権限が、僕にはある。
「対象:魔龍。……あぁ、ここのデータ、記述ミスだらけだ」
空間の数値(座標)を、指先で強引にいじくり回す。
「エラーを確認。……『修正』完了。不要なゴミデータを消去します」
指をパチン、と鳴らす。
次の瞬間。
最強の怪物だったはずの魔龍が、文字通り「消しゴム」でこすったように、跡形もなく消滅した。
断末魔すら上げられない。存在そのものが「なかったこと」にされたのだ。
「よし、これでバグは直った。……さて、荷物を整理して帰ろうかな」
【掲示板の反応】
127:名無しの探索者
は????????
128:名無しの探索者
今、何が起きた????
129:名無しの探索者
魔龍が……消えた!? あの荷物持ち、指鳴らしただけなのに!
130:名無しの探索者
待て、今のスキルの使い方おかしいだろ。
131:名無しの探索者
【悲報】S級パーティ、世界最強のデバッガーを捨てて逃走wwwww
132:名無しの探索者
同接100万人突破! これ、歴史が変わる瞬間だぞ!!
リリアンは悠然と深層を歩き出す。
「おっと、ここも『設定ミス』で足場が浮いてるな。直しておこう」
彼が指先で空間をなぞると、崩落していた道がパズルのピースがはまるように修復される。
本来、数ヶ月の工期と国家予算級の魔力が必要なのに、彼は散歩のついでにこなしていく。
【配信スレ:特定班が過呼吸】
405:名無しの探索者
おい見ろ、今さらっと「地形データ」書き換えやがったぞ!!
406:解析ガチ勢
ありえない。あれは神の権限だ。座標指定の極致……。
あいつ、ただの移動スキルを「世界そのものを動かす」レベルまで昇華させてる。
407:名無しの探索者
ゼオンたちのパーティ、地上で「感動の会見」の準備してるらしいぞww
408:名無しの探索者
今のリリアン見たら泡吹いて倒れるだろこれ。
リリアンは、道中に現れるS級モンスターたちを「配置ミス」として次々とデリートしながら、最短距離で地上へと向かう。
地上。ダンジョンの入り口前には、多くのマスコミが集まっていた。
S級パーティ『暁の天剣』のリーダー・ゼオンが、嘘の涙を浮かべてインタビューに答えている。
「……リリアンは勇敢でした。僕たちの身代わりになって、魔龍に立ち向かったんです。彼の犠牲を無駄にはしません!」
会場が同情の渦に包まれた、その時。
「――あの、すみません。そこ、僕の荷物置き場なんですけど」
人だかりを割って、大きなマジックバッグを背負ったリリアンがひょっこりと現れた。
静まり返る会場。ゼオンの顔が、見たこともない色に染まる。
「リ、リリアン!? お前、生きて……いや、どうやって逃げた!」
「逃げた? いえ、普通に『デバッグ』して帰ってきましたけど。あ、ゼオンさんの転移魔法、記述がガバガバで危なかったですよ。次から気をつけてくださいね」
リリアンがスマホを取り出すと、そこには同接続数300万人を超えた配信画面が。
ゼオンが彼を突き飛ばし、囮にした瞬間の映像が、大画面でリピート再生されていた。
「これ……配信されてたのか!?」
「ええ。仕掛けられたドローンが『強制公開モード』だったので、そのままにしておきました」
逃げ場を失ったゼオンたちは、その場で探索者協会に連行されていく。彼らの「誇り」も「名声」も、リリアンの指摘通り「消去」されたのだ。
数ヶ月後。
リリアンは世界中の政府や研究機関から「神のエンジニア」として勧誘されていたが、本人はいたってマイペースだ。
彼は小さな事務所を構え、看板を掲げる。
『世界設定・修正事務所:リリアン』
「リリアン様! 隣国のダンジョンで無限増殖のバグが!」
「はいはい、今行きます。……まったく、この世界の『仕様』は設計が雑すぎるんだよな」
彼は「運命の相手」として再会した幼馴染と共に、今日も世界の歪みを直しに出かける。
彼の目には、昨日よりも少しだけ「整合性」の取れた、美しい世界のプロットが映っていた。
【最終スレ:伝説の始まり】
999:名無しの探索者
結論:世界最強は、戦士でも魔法使いでもなく「デバッガー」だった。
1000:名無しの探索者
リリアンさん、俺の給料の低さも「設定ミス」として直してくれませんかね……。
(完)
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
荷物持ちだと思って追い出した無能が、実は世界のバグを直すデバッガーだった……というお話でした。
ゼオンたちの自業自得な結末と、リリアンの淡々とした無双を楽しんでいただけていれば幸いです。
もし「面白かった!」「掲示板の反応に笑った」「ざまぁがスッキリした」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、執筆の励みになります!
ブックマークや感想も、すべて大切に読ませていただきます。
リリアンの「デバッグ」な日常が、皆様のひとときの清涼剤になれば嬉しいです!




