第三話:選んだ命の代償
その地下室は、祈りの匂いがした。
湿った石壁。
粗末な寝台。
そして震える一人の少女。
「……助けて」
魔族混血。
角は切り落とされ、背中には鞭の痕。
アルトの【解析】が、即座に情報を吐き出す。
――戦闘能力:極めて低い
――魔力反応:不安定
――精神状態:恐怖、被虐、依存傾向
(……無害だ)
そう、判断した。
「もう大丈夫だ。俺が連れて行く」
少女は涙を流し、何度も頷いた。
だが【解析】は、表示しなかった。
――「憎悪」
――「信仰」
――「覚悟」
その夜。
隠れ家に戻ったアルトは、異変に気づく。
静かすぎる。
「……リシア?」
返事はない。
血の匂いが、遅れて鼻を刺した。
床に倒れていたのは、
――リシアの部下の若い騎士だった。
喉を裂かれ、即死。
背後で、声がした。
「……ありがとう」
振り向くと、あの少女が立っていた。
手には、血に濡れた短剣。
「これで、やっと一人……」
少女の目は、狂気ではなかった。
――正気だった。
「魔族に殺された家族のために。
魔族を憎む人間を殺すために」
アルトは、言葉を失った。
彼女は泣きながら、笑った。
「あなたは正しい人。
だって、私を“可哀想”だと思ってくれた」
その瞬間、アルトは理解した。
自分は――
彼女の正義を、完成させてしまったのだと。
遅れて駆け込んできたリシアが、剣を抜く。
「……アルト。下がって」
その声は、怒りではなかった。
深い、深い失望だった。
「君は……選んだ」
アルトは、震える手で拳を握る。
初めてだった。
【解析】が、何の答えも出さない夜は。




