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第十三話 「消された記録」

焚き火の音だけが、夜を刻んでいた。


アルトは眠らない。

リィアも、眠らなかった。


「……話すよ」


先に口を開いたのは、リィアだった。

自分から過去を差し出すような声音。


「王都技術局にはね、“白室”って部署がある」


アルトは黙って聞く。


「実験が失敗した時、

人じゃなくて記録を処分する部屋」


火が爆ぜる。


「街一つ分、丸ごと“無かったこと”にする。

出生記録、税、地図、墓地、全部」


アルトの眉が、わずかに動いた。


「私の仕事は、

“人が住んでいた痕跡を、最初から無かった形に直す”こと」


リィアは自嘲気味に笑った。


「ね、綺麗でしょ。

血も出ない」


だが、声は震えていた。


「ある時ね、

削除対象の中に――

生存者名簿が混じってた」


アルトは、初めて彼女を見た。


「生きてた?」


「生きてた。

実験は失敗したけど、完全じゃなかった」


沈黙。


「上司は言った。

“誤差だ。次で消える”って」


リィアの指が、無意識に握り締められる。


「私は……

命令通り、消した」


焚き火が揺れる。


「数日後、

その街で生き延びた子供が

王都に密入国してきた」


アルトの胸に、嫌な予感が走る。


「捕まった。

処分対象になった」


リィアは、顔を覆った。


「私は、止めなかった」


長い沈黙。


「……だから私は、

あんたが“処分対象”になった時、

初めて分かった」


顔を上げ、アルトを見る。


「私は、もう一度

同じことをする気だったんだって」


アルトは、静かに言った。


「俺は、許さない」


リィアの肩が、びくりと跳ねる。


「でも――」


剣の柄を、地面に置く。


「その罪は、俺の復讐に使える」


リィアは、ゆっくりと息を吐いた。


「……最低」


「そうだな」


アルトは、目を逸らさなかった。


「だから、一緒に来い」


その言葉に、リィアは

救われたような、縛られたような顔をした。


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