一話 灯される記憶
–––読む前に–––
推理は今回ないです
探偵と書いてあるけれど推理はあんまないかも
最後まで見ていただけると幸いです
ガタンゴトン(電車の中)
元住んでいた町とは無縁のこの地でやり直そう。
私のことなんて知る人なんていない、この地で。
「なあ、知ってる? この辺の高校で探偵やってるやつがいるらしいよ」
「へえ、そんなことやってる奴いるのか。実際どんなことしてるんだろうな」
探偵……かあ。私の高校じゃないといいな〜。わざわざ遠い高校に来たのに。
♦︎
(学校のチャイム音)
はぁ、やっぱ人と接することができない……
この学校に転校してきて数週間。まあ、転校してきてるわけだし、もうほとんど友達グループみたいなのはできてますよねー。
昼休みは寝てよっと────
「ねえ、君」
「は、はい?」
急に誰かが話しかけてきた。
「私から一つアドバイス。あまり自分を責めないほうがいい。自分を見失うよ」
「ん?」
何を言っているのかわからない……。
「言いたいことはこれだけ。バイバイ」
なんだったんだろう、急に変なことを言って帰って行った。
さっきの言葉に引っかかることなんて……ない。
♦︎
放課後。
なぜかあの人を探していた。
何年生なんだろう? 身長は——私より少し上? 高校2年生かな?
––––いない!
今日はもう帰るか。
「ち、違う! 僕じゃない!」
なんの騒ぎだろ、校舎裏かな?
そこに向かうと男2人とさっき話しかけてきた人がいた。
「僕はこ、こいつの机に落書きなんかしてない!」
「いいや、お前だね。」
なんかさっきの人と男の人が言い争ってる?
「じゃあ証拠を出してみろ! 根拠はあるのか!?」
「最後の授業は体育だろ? さらに体育の前は給食、みんな手を洗っているはずだ。お前、手少し黒くなっているぞ? ついでに体育の時間抜け出したのお前だけだ」
「手を洗ってないやつだって1人くらいいるだろ! 全員調べたのか?」
「ああ、調べたさ。それが仕事だから」
「くそっ」
言い争っていた男の方がどこかに行った。というか仕事?
「ありがとうございます! あなたに相談してよかった!」
「ああ、まあ仕事だから。またなんかあったら言いな」
もう1人の被害者っぽい男性も感謝しながらどこかへ行った。
今だ、話しかけてみよう。
「あ、あの——」
「ん? 昼休みの子じゃん。何かあった?」
何が言いたいんだっけ。
何か言いたくてここにきたけれど……
「あ、あの仕事ってなにかされてるんですか?」
「聞いちゃう? まあどうせいつか耳には入るだろうけど」
何かためらっていた。
「まあ、その探偵、やってるんだよ、一応ね」
「!?」
一瞬言葉が詰まった。
「はは、ひどい顔。何か壮大な『過去』がないとそんな顔しないよ」
その時、自分が言いたかったこと、自分が思っていたことが急激に込み上げてきた。
「なんなんですか、あなた! 初対面で、私のことも知らないで……そんなこと言って!」
「そんなに怒らないでよ」
––––「ね? 探偵さん」
「え?」
一瞬、視界が真っ暗になった。
どうして知ってるの? なんで?
こんな人、周りにいた? いや、いない。適当に言っているだけだ。
「探偵? 私はそんなことやってないし、やったこともないですよ」
「ふーん。私はアドバイスしたよ。これ以上自分を締め付けない方がいい」
「……」
何も言えなかった。
逃げることは悪いことではない。
でも逃げることを止めてくれる、寄り添ってくれる、そんな人がいるのなら……
「じゃあ、私は帰るから。じゃあn」
「私! 私はここから離れた中学で探偵をしていました」
「うん」
「恥ずかしい話だけれど、ある日探偵の小説を見た時、憧れちゃったんだ。世間一般で言う厨二病。まあ一応心理学を勉強したりと、たくさん努力はしたんだよ?」
「でもね、中学生の喧嘩程度の事しか起こらなくて、それで誰がやったとか言い当てても、結局は『嘘つけ』って言われた。いじめとかも主犯は誰かとか言い当てても大体そうだった。でもね、多分当たってたんだと思う。言い当てた子はだんだん私をいじめるようになったの。なんで正しいことをしている私が責められてるの?」
「そこでようやく私は、本の中の『主人公』のように輝くなんて絵空事。そんなことはするのはやめようと思ったの。そして、自分がやりたい!って思ったことでも前のことを思い出してやらなくなった」
「自分の気持ちは隠そうって、自分のことを、やりたいことをやろうと努力したりすると苦しくなる。だったら隠せばいい」
その時、それまで静かに聞いていたさっきの子が口を開いた。
「自分の気持ちを隠す、それも辛くない?」
少し言い当てられた気がして言葉が出なかった。
「いいんだよ、別に隠したって。でもね、苦しい思いまでして隠すのは良くないと思う。でもね、私も逃げてきて辛い思いをした。君にはそうなって欲しくない」
「ここからは想像になるけれど、この街に来た『動機』は、自分のことを何も知らないここなら、また自分の好きなことができると思ったからじゃないか?」
「あと今調べたけれど、厨二病ってのは大人ぶったり、反抗的な態度をとったり、現実離れした空想に思い浸ったりすることだそうだよ。でも君は努力をしっかりとして探偵になろうとしたんだろ? 立派な夢じゃないか! あと私は厨二病じゃない!」
急に曇っていた私の心が晴れた気がした。
自分の心をしっかりとわかってくれて、相談に乗ってくれる。
そして私のためにこれだけ言える。
「ありがとう! まだ心に残ることはあるけれど、少し晴れたよ」
「そりゃあよかった。自分に正直になりな。そして見失うな」
「自信持って胸張って生きろ」
「うん!」
「そういや名前なんていうの?」
「私は藤原霞」
「君は?」
「私は一ノ瀬 灯、よろしく」
「よろしくね!」
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「似ているな、あの子」
「もう二度とあのようなことにならないようにしなくちゃね」
「もう二度とあんな惨事は起こさせない。藤原さんにはあんな思いして欲しくないものだ」
「あの時は過去を振り返るのが遅すぎた」
だから今度こそ──
そう灯は願うのであった。
読んでくださりありがとうございます。
藤原霞は過去を隠して新しい場所でやり直そうとしています。
なぜ一ノ瀬灯は藤原霞の過去を言い当てたのか?これから少しずつ明かされていきます。
この物語は大きな事件よりも、心の痛みや成長を大切に描いていきます。
どうぞ、二人の歩みを見守ってください。
不定期更新です
すみません
あと初投稿なので何かあればコメント欄にお願いします!