17 初めての仕事
今回の仕事の内容は、あやかしが妖怪にストーカーされているという内容だった。龍騎に助けを求めてきた理由としては、ストーカーをしている相手が土蜘蛛の手下で、下手に機嫌を損ねれば、自分の命が危なくなるからだった。本来ならば小鳥も一緒にその話を聞いておくべきだったのだが、緊急を要するということで、先に龍騎が話を聞いていたのだった。
そのあやかしは日本人形の付喪神で、今は現代風の少女の姿で暮らしているそうだ。人形の姿なら妖怪と呼ぶが、人の姿の場合はあやかしと呼び方が変わってくるので、小鳥にはややこしかった。
あやかしに付きまとっているのは、蜘蛛が変化した顔は少年、体は蜘蛛の姿の妖怪だった。あやかしと呼ばないのはいきしが言うには、見た目が麗しくなく気持ち悪いからだそうだ。
すでに日は落ちて暗くなっていたが、先延ばしにするのも良くないと小鳥が言うと、今から二駅先にある公園に行くことになった。
小鳥たちが向かった公園は、そう大きなものではなく、ブランコと砂場と滑り台があるだけだった。公園の周りには低木が植えられていて、外からは少し見えづらくなっており、入り口付近の看板には『痴漢注意』と書かれている。
ブランコが揺れていることに気がついた小鳥が、暗闇の中で目を細めて確認すると、私立の幼稚園の制服を着た少女が一人で遊んでいた。いきしにその子が問題の子だと教えられて、小鳥は考える。
(この子の姿が見えない人には、ブランコが風で揺れているように見えるんでしょうね)
「こんばんは」
小鳥たちが近づいていくと、少女はほっとしたような顔をしてブランコから降りて挨拶をした。
「「こんばんは」」
小鳥と龍騎が声を揃えて挨拶を返すと、いきしがニヤニヤする。
「あら、気が合うんじゃない?」
「挨拶を返さないほうがおかしいだろ」
「そうですよ。自分から挨拶することもそうですけど、挨拶されたら挨拶を返すのは普通です」
「そんなにムキにならないでよ。ちょっとからかっただけじゃない。それにしても、二人の子供なら礼儀の正しい子供に育ちそうね」
いきしは二人が眉根を寄せていることなど気にもせずに言ったあと、少女のあやかしに声をかける。
「あんた、付きまとい行為をされているのに、こんな所にいていいの?」
「ここが私の寝場所なんです。ここから動くと付いてくるものですから。あと、いつも同じ時間に来るんです」
あと三十分くらいしたら来るのではないかと答えた少女姿のあやかしは怖くなったのか、ぶるりと体を震わせた。
「あの、はじめまして、小鳥と言います。なんとお呼びしたら良いでしょうか」
見た目は子供でも、生きている年数は小鳥の十倍以上ある。敬語を使って小鳥が話しかけると、あやかしは戸惑う仕草を見せてから答える。
「わたしを大事にしてくれていた人間は、おみつ、とか、おみっちゃんって呼んでました」
「では、おみつさんと呼ばせてもらいますね」
彼女を大事にしてくれていた人間は、この世にはいない。持ち主のことを思い出して寂しくなったおみつが俯くと、小鳥は明るい声で言う。
「おみつさんが楽しい公園生活を送れるるように、頑張ってサポートさせていただきます!」
「ありがとう」
ふんわりと優しい笑みを浮かべたおみつを見て、こんな時だというのに、小鳥は和んでしまう。
(こんなに可愛いんだもの。好きになる気持ちはわかるわ。でも、ストーカー行為や他の迷惑行為は絶対に駄目! それに呑気にしていちゃ駄目だわ。怖がっているんだもの。守ってあげなくちゃ!)
住宅街の中にあるため、公園の周りを通る人がいるのは確かだが、時間が遅くなればなるほど、歩く人も少なくなっていく。そして、夜の十時になった頃、問題の妖怪が現れたのだった。