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13   龍騎の婚約者 ②

「い、いきし! いるならいるって言えよ!」

「いる」


 いきしはきっぱりと答えると、焦っている土蜘蛛を押しのけて小鳥たちに近づいてきた。怯えた表情の小鳥を見ていきしは微笑んだあと、ちょう子に話しかける。


「小鳥を守ってくれたのね。ありがとう」

「いいえ~。私は何もしていません~」


 謙遜するちょう子に小鳥は礼を言う。


「私を守ろうとしてくれたじゃないですか。何もしてないなんてことはないです。守ってくれてありがとうございます!」

「やっぱり人間がいるんじゃねえか!」


 土蜘蛛が小鳥を指さした時、龍騎が遅れて店の中に入ってきた。


「土蜘蛛、ここは出入り禁止だって言ったろうが。もう忘れたのか」

「どうしてこの俺が人間の言うことを聞かなきゃいけねぇんだ!」

「本当にお前は馬鹿だな」


 龍騎が呆れた顔をした瞬間、小鳥の目の前にいたいきしの姿が、突然消えた。


「誰が馬鹿っ……ひいっ!」


 土蜘蛛は龍騎に襲いかかろうとしたが無理だった。それよりも早く、龍騎が日本刀の切っ先を土蜘蛛の首に当てていたからだ。


「忘れてしまったようだから、もう一度教えてやる。いきしは妖怪たちを殺すことができる。この世に存在して申し訳なくなったって言うんなら相談に乗るが?」


(それって、死にたいのなら殺してあげるって言ってるようなものよね。かなり物騒な話だけど、たしか土蜘蛛って人を食べる妖怪よね。そんな妖怪には脅しをかけないと効果がないのかも)


 小鳥はたまとみけを撫でていた手を止めて、龍騎たちを見つめた。すると、二匹が顔を上げて文句を言う。


「ことりー、てがとまってるにゃん。りゅうきといきしがきたから、もうだいじょうぶにゃん」

「そうにゃ。あ、ことりー。あたまじゃなくて、あごをなでてほしいにゃん」

「ごめんごめん」

 

 二匹のあごを撫でてやると、気持ちよさそうに目を細めてゴロゴロと喉を鳴らす。そんな二匹に癒されていると、土蜘蛛が龍騎に話しかける。


「お、落ち着けよ。ちょっと驚かせようとしただけだ」

「本当かよ」


 龍騎が確認するように小鳥を見た。土蜘蛛に逆恨みされる可能性もあるので何もなかったと言おうかと思ったがやめた。


(こんな乱暴な妖怪に怯えているだなんて思われたくない)


「驚かせるつもりというようには見えませんでした。本気で私を食べるつもりでいましたよね」

「て、てめぇ」


 土蜘蛛が小鳥を睨みつけると、龍騎は躊躇うことなく土蜘蛛の太い腕を浅く切った。切れた服の間からどろりと人間の赤い血とは違い、黒い血が流れ出す。


「いってええぇっ!」


 土蜘蛛は絶叫し、龍騎に叫ぶ。


「なにしやがんだ!」

「人間を食おうとすんなって言ってんだろ」

「妖怪が見える女なんて絶対に旨いに決まってんだろ! 食うなって言うほうが間違ってんだよ!」

「本性が出たな」


 龍騎は呟くと、土蜘蛛を睨みつけて話す。


「罪のない妖怪や人間を襲わないと約束するのなら、ある程度のことは目を瞑ってやると言っていたけど、襲う気満々のようだからお前を処分する」

「ま、まま、ま、待ってくれよ! 俺は妖怪だぞ! しかも人間を食ってきた妖怪だ! 食べたいと思うくらいいいだろう!」

「罪のない妖怪や人間を襲うなって言ってんだろ」

「罪を犯した人間なんて不味いんだよ! 妖怪が見える人間だからこそ旨いんだ!」


(こんな妖怪が近くにいたのかと思うとゾッとするわ)


 小鳥が知らないだけで龍騎の家系の人が守ってくれていたのかもしれないが、小鳥は祖母や母が今まで妖怪に襲われなかったことを神様に感謝した。


「考えを改めないということでいいな?」


 龍騎はため息を吐くと、日本刀(いきし)を構えた。その瞬間、土蜘蛛は床に跪く。


「悪かった! 謝るから殺さないでくれ!」

「はあ? お前を助けたって良いことないだろ」

「ある! たぶん、何かある! あ、ほら、お前、許嫁とやらに気味が悪いと言われて捨てられたんだろ? 良さそうな人間がいたら紹介して」

「ふざけんな」


 龍騎は土蜘蛛の顔を横から蹴った。龍騎が我を忘れていることに気が付いた小鳥が止めに入ろうとした時だった。龍騎の手から日本刀が消え、人間姿のいきしが姿を現す。


「そんなことあんたにどうこう言われなくても大丈夫よ。龍騎にはもう恋人……じゃない。あたしが決めた婚約者がいるから」

「は?」


 龍騎も初耳だったようで、冷たい表情から訝し気なものに変わった。


(いきしさんが決めた婚約者ってどういうこと?)


 小鳥も困惑していると、いきしは笑みを浮かべて小鳥の所まで歩いてきた。行き過ぎたかと思うと、後ろに回り彼女の両肩を掴むと、いきしは小鳥の耳元に口を持ってきて小声で話しかける。


「悪いけど、話を合わせてくれない?」

「……わかりました」

 

 小鳥が小さな声で返事をすると、いきしは土蜘蛛に向かって宣言する。

 

「あんたの手下共にちゃんと伝えなさい。彼女は龍騎の婚約者よ。彼女にかすり傷一つでも負わせようもんなら、問答無用であたしが殺してやるってね」

「……はい?」


 話を合わせろと言われていたのに、小鳥は思わず声を上げてしまった。


(妖怪たちが他人よりも自分の都合を優先するなんてことはわかっていたけど、これは勝手すぎない!?)


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