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退屈と難解  作者: 牧亜弓
大団円
96/100

エッピ・バリア

透明な円環のなかで、われわれは絶えず巡り、交差し、変転を繰り返す。言葉はただの記号ではなく、その意味を裂き、解体し、無数の破片となって虚空に散らばる。散乱した言葉の断片から、新たな光がほのかに漏れ、存在の縁を照らし出す。むらぐもは静かにざわめき、塔の影はゆらぎながら形を崩し、そこに神は細部の隙間に潜み、時折ささやきかける。辛苦に満ちたヴェニスの水面には、燃え盛る火花が散りばめられ、フェニックスの魂の如く絶え間なく燃え、消え、再び蘇る。


時間はもはや直線ではなく、複雑な織物のように絡まり合い、その織り目が破れ、空間に亀裂を生じさせる。叫びは多層的に重なり合い、往古と未来の境界を曖昧にし、存在と非存在の間を揺れ動く。われわれは解脱を求めつつも、円環の中に囚われ、終わりなき輪舞を踊る。言葉は消えかかり、沈黙がそのすき間を埋め尽くし、意味は流動しつづけ、捕えどころのない真実を秘めている。


静寂のなかに耳を澄ませば、風が透明な円環をなぞり、無数の囁きがさざめく。過去の影が未来と重なり合い、今という瞬間が解体されていく。われわれはその狭間で揺れ動き、揺らぎの中に意味を探し続ける。塔に恋することを拒み、むらぐもを撫でながらも騒ぎ立てる群れを観察し、神が細部に宿るという不可視の法則を受け入れる。


フェニックスマインドは絶えず燃え上がり、灰の中から新たな炎を生み出す。辛い辛いのヴェニスの世界で生きることは、矛盾と混沌のなかに美を見出すことと同義である。われわれはこの円環において、自己を超越し、解脱し、そして再び輪廻する。だがその輪廻は無限ではなく、終焉へと続く旅の一端に過ぎない。


その円環の中心で、ひとつの静かな炎が揺れている。それは我々の内奥に潜む深淵の光。そこから放たれる光は、言葉を超えた詩的な響きを帯び、魂の奥底に響きわたる。いま、われわれはただこの響きに身を委ね、解脱して、解脱して、解脱する。はい、その反復こそが、無限の輪を紡ぐ音楽であり、われわれの存在の根源なのだ。

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