イン
「それで何が言えるってインだ」
言葉が空中で割れては跳ねる。
ラ・ファイエットの街角で、誰かが靴を鳴らし、影が落ちる。
「地獄地獄」と囁く声が、遠くの銃声と混ざる。
「そんな車な!」
道路に落ちる夕陽の光が、ひび割れたガラスを揺らす。
車は走らない、でも走る。
「笑う門にはガーディアン!」
誰かがそう叫んだ瞬間に、赤い花びらが舞い落ちる。
「この屯田兵、」と続く声は途切れ途切れで、
どこかから遠吠えが聞こえてくる。
影は伸び、時間は裂けていく。
夜の街灯がちらつき、
断片的な会話が響き渡る。
「それで何が言えるってインだ」
繰り返す問いは解けない謎のように浮遊する。
ラ・ファイエットの風は冷たく、
地獄の叫びを運んでくる。
「地獄地獄」
「そんな車な!」
赤信号の前で誰かが笑う。
「笑う門にはガーディアン!」
守護者はどこに?
守られることはあるのか?
「この屯田兵、」
と呟きながら影は街角を曲がる。
足音は消え、光だけが残る。
カメラは揺れ、
カットは飛び、
音は重なり、
物語は崩れてはまた再構築される。
誰も答えを持たず、誰も求めず、
ただ言葉だけが踊る。
「それで何が言えるってインだ」
繰り返す声はエコーの中で溶けていく。
「地獄地獄」
街のざわめきがその言葉を覆い隠す。
「ラ・ファイエット」
風に乗って名前だけが流れていく。
「そんな車な!」
笑い声と共に消える。
「笑う門にはガーディアン!」
そして沈黙。
「この屯田兵、」
終わらない問いのように、
空虚に響く。
映像はモノクロームに溶け、
光と影が交差する。
カメラはゆっくりと引き、
街の全景を映し出す。
断片は繋がらず、
断片は解けず、
ただ、存在するだけ。
物語はまだ終わらない。
問いはまだ続く。
「それで何が言えるってインだ」
消えゆく声が、夜の闇に溶け込む。