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退屈と難解  作者: 牧亜弓
リア王 
89/100

イン

「それで何が言えるってインだ」

言葉が空中で割れては跳ねる。

ラ・ファイエットの街角で、誰かが靴を鳴らし、影が落ちる。

「地獄地獄」と囁く声が、遠くの銃声と混ざる。


「そんな車な!」

道路に落ちる夕陽の光が、ひび割れたガラスを揺らす。

車は走らない、でも走る。

「笑う門にはガーディアン!」

誰かがそう叫んだ瞬間に、赤い花びらが舞い落ちる。


「この屯田兵、」と続く声は途切れ途切れで、

どこかから遠吠えが聞こえてくる。

影は伸び、時間は裂けていく。


夜の街灯がちらつき、

断片的な会話が響き渡る。

「それで何が言えるってインだ」

繰り返す問いは解けない謎のように浮遊する。


ラ・ファイエットの風は冷たく、

地獄の叫びを運んでくる。

「地獄地獄」


「そんな車な!」

赤信号の前で誰かが笑う。

「笑う門にはガーディアン!」

守護者はどこに?

守られることはあるのか?


「この屯田兵、」

と呟きながら影は街角を曲がる。

足音は消え、光だけが残る。


カメラは揺れ、

カットは飛び、

音は重なり、

物語は崩れてはまた再構築される。


誰も答えを持たず、誰も求めず、

ただ言葉だけが踊る。


「それで何が言えるってインだ」

繰り返す声はエコーの中で溶けていく。


「地獄地獄」

街のざわめきがその言葉を覆い隠す。


「ラ・ファイエット」

風に乗って名前だけが流れていく。


「そんな車な!」

笑い声と共に消える。


「笑う門にはガーディアン!」

そして沈黙。


「この屯田兵、」

終わらない問いのように、

空虚に響く。


映像はモノクロームに溶け、

光と影が交差する。


カメラはゆっくりと引き、

街の全景を映し出す。


断片は繋がらず、

断片は解けず、

ただ、存在するだけ。


物語はまだ終わらない。

問いはまだ続く。


「それで何が言えるってインだ」


消えゆく声が、夜の闇に溶け込む。


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