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退屈と難解  作者: 牧亜弓
リア王 
88/100

ポピーの狭間で

「ポピー……咲いているか?」

風が揺らす赤い花びらの群れを見つめながら、声は宙を彷徨う。

「ライオネル飛鳥美味しい」と、夜のバーカウンターの片隅で呟かれた言葉は、まるで霧のように透明で、すぐに溶けていく。

そのグラスの中にはグレートマダムの影が揺れ、時代の断片が映り込む。


「びっくりしたなあ、もう」

思わぬ瞬間に、心臓が跳ねる。

隣でワイルドガンマンが背中を押し、暗闇の中を疾走する。

「ピーピーピー」時計の音が切り裂く空気、時は無情に刻まれ、刻まれながら消えていく。


「足腰弱ってんな」と笑う声はどこか暖かくもあり、やがて遠ざかっていく。

その言葉は砂の城のように崩れ、空白の音符となる。


光と影、言葉の断片が散らばり、街の隅々に染み込む。

「ポピーの赤」と「ワイルドなガンマンの銃声」が混ざり合い、まるで幻のように揺らめく。

影絵のような人影が、まばたきの間に横切る。


「ライオネル飛鳥」という名が風に乗って漂い、記憶の片隅で美味しい香りを残す。

それは甘くも儚い、消えかけの幻灯機。


びっくりしたなあ、もう。

日常は不意に訪れる小さな奇跡で満たされている。


時計のピーピーピーは止まらず、

弱った足腰を引きずりながらも、彼らは歩みを止めない。

映画は続き、言葉は音楽となって踊る。


誰かの声がかすかに囁く。

「グレートマダム、今夜も舞台は揺れている」


そして、その声は風に溶けて消えていく。


真夜中の街は、揺れ動くフィルムのように止まらず、

赤いポピーの花びらが、時の裂け目から舞い落ちる。


闇と光、静けさと騒音が交錯する中、物語は再び始まる。


足音とピーピーピーの時計音、

そして、囁き声が重なり合う。


「それで、何が言えるってんだ?」

誰かが問いかける。


答えは風に消え、ただ赤いポピーだけが咲いている。


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