フィルムの彼方へ
ジャズピアノの余韻がゆっくりと消えていき、そこにただ風の音が残った。
忠夫は薄明かりの街角をゆっくりと歩き出す。
彼の影が細長く伸び、石畳の地面に絡まりながら不規則な動きを見せる。
街灯の黄色い光と、夜空の冷たい青が混ざり合う瞬間。
その狭間を進む彼の姿は、まるで映画のワンシーンのように切り取られている。
「フィルムは巻き戻せない」と、誰かが耳元で囁くような気がした。
声は遠く、風にかき消されそうで、けれど確かに存在している。
忠夫は振り返らず、未来を見据えながら足を進める。
後ろの過去は、霧の中へと溶けていく。
道鏡ロボの無機質な声が、静かな闇を切り裂くように肩越しに告げる。
「君の旅は終わらない。過去も未来も、一つの連続だ。
我々はその狭間で、光と影を織りなす存在だ。」
風景が次々と変わる。
ざわめく市場の人混み、遠くの港で揺れる漁船、見知らぬ街角のカフェの窓越しに映る昼下がりの陽光。
すべてが断片的でありながら、ゆるやかに繋がり合い、ひとつの長い映像となって忠夫の周囲を満たす。
世界は回り、時間は波のように押し寄せる。
忠夫はふと足を止め、空を見上げた。
そこには無数の星が静かに瞬いている。
夜空の冷たさの中に、確かな温もりが灯るようだった。
「迷宮の果てに、僕は何を見るのだろうか。」
忠夫の心に浮かぶのは、不安ではなく静かな期待だった。
「でも、怖くはない。
これは僕の物語なら、どこまでも進もう。」
一歩一歩が未来への決意を刻んでいく。
道鏡ロボのシルエットが彼の背後でゆっくりと溶けていく。
それは消失ではなく、彼の一部として内側に取り込まれる過程のように見えた。
カメラが引いていき、忠夫と変わりゆく世界を包み込む。
色彩は淡く溶け合い、静かにフェードアウトしていく。
そして最後に画面に一行の字幕が浮かび上がった。
「旅は終わらない。
それはいつも、ここから始まる。」
静かな静寂と余韻が残るなか、ゆっくりと幕が閉じる。