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退屈と難解  作者: 牧亜弓
リア王 
86/100

ジャズピアノ

闇がゆっくりと動き出す。

カタカタと古いフィルムの巻き戻し音。

逆再生される映像は断片的で、不連続な記憶の欠片のように跳ね返る。

砂埃を巻き上げながら、過去と未来が映写機の光のなかで交錯する。


忠夫の声は遠く、かすれ、蜃気楼のように浮かび上がる。

「終わりか、それとも始まりか。フィルムはいつも同じ場所で途切れる。

だが、それが終わりであるとは誰も言っていない。」


画面は突然カットし、雨に濡れた喫茶店の窓辺へ。

コーヒーカップから立ち昇る蒸気がゆらゆらと揺れ、世界は微細な粒子に満ちている。

チャイナドレスの女性が静かにそこに座る。

彼女の瞳は言葉を拒み、視線は遠く窓の外を見つめている。

そこには語られぬ物語が秘められている。


フィリピン女性が外に立ち、濡れた街灯の光に照らされている。

雨は静かに、しかし確実に彼女の髪を濡らし、その一滴一滴が時の流れを止めるかのようにスローモーションで落ちる。

彼女の存在は現実か幻か、画面は揺れ、色彩はモノクロームへと溶けていく。


忠夫の声が再び響く。

「記憶は濡れている。過去も未来も、この一滴のなかに映る。

私たちはその中で揺れ動きながら、自分自身を探している。」


そのとき、道鏡ロボの機械的で無機質な声が割り込み、空間を震わせる。

「忠夫、これは終わりではない。新しいシーンの幕開けだ。

忘却と再生の狭間で、君の物語は続く。」


画面が白くフェードアウトし、徐々に満ちていく光。

そこに字幕が浮かぶ。

「すべてはフィルムの中の幻想。記憶は繰り返され、姿を変える。」


忠夫はゆっくりとカメラに向き直り、静かな微笑みを浮かべる。

「さあ、次のシーンを見ようか。

僕たちはいつも、その続きを求めている。」


背後で静かに流れるジャズのピアノ。

画面は徐々に暗転し、次の幕開けを予感させる余韻を残す。


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