ジャズピアノ
闇がゆっくりと動き出す。
カタカタと古いフィルムの巻き戻し音。
逆再生される映像は断片的で、不連続な記憶の欠片のように跳ね返る。
砂埃を巻き上げながら、過去と未来が映写機の光のなかで交錯する。
忠夫の声は遠く、かすれ、蜃気楼のように浮かび上がる。
「終わりか、それとも始まりか。フィルムはいつも同じ場所で途切れる。
だが、それが終わりであるとは誰も言っていない。」
画面は突然カットし、雨に濡れた喫茶店の窓辺へ。
コーヒーカップから立ち昇る蒸気がゆらゆらと揺れ、世界は微細な粒子に満ちている。
チャイナドレスの女性が静かにそこに座る。
彼女の瞳は言葉を拒み、視線は遠く窓の外を見つめている。
そこには語られぬ物語が秘められている。
フィリピン女性が外に立ち、濡れた街灯の光に照らされている。
雨は静かに、しかし確実に彼女の髪を濡らし、その一滴一滴が時の流れを止めるかのようにスローモーションで落ちる。
彼女の存在は現実か幻か、画面は揺れ、色彩はモノクロームへと溶けていく。
忠夫の声が再び響く。
「記憶は濡れている。過去も未来も、この一滴のなかに映る。
私たちはその中で揺れ動きながら、自分自身を探している。」
そのとき、道鏡ロボの機械的で無機質な声が割り込み、空間を震わせる。
「忠夫、これは終わりではない。新しいシーンの幕開けだ。
忘却と再生の狭間で、君の物語は続く。」
画面が白くフェードアウトし、徐々に満ちていく光。
そこに字幕が浮かぶ。
「すべてはフィルムの中の幻想。記憶は繰り返され、姿を変える。」
忠夫はゆっくりとカメラに向き直り、静かな微笑みを浮かべる。
「さあ、次のシーンを見ようか。
僕たちはいつも、その続きを求めている。」
背後で静かに流れるジャズのピアノ。
画面は徐々に暗転し、次の幕開けを予感させる余韻を残す。