時の繭
忠夫の心は、いつしか一枚の薄い繭に包まれているようだった。
その繭は闇の糸で編まれ、彼を外界の光から隔絶する。
だがその闇は決して単純な暗黒ではなかった。
光と影がせめぎ合い、内部から小さな火花が散っては消え、再び燃え上がる。
それはまるで、彼の内面の葛藤そのものだった。
カラオケバー愛歌でのざわめきも、フィリピンの女たちの笑顔も、
そしてチャイナドレスが艶やかな女性の眼差しも、
すべてが繭の外から射し込むかすかな光のように感じられた。
忠夫は、繭の中で己の心と向き合うしかなかった。
「なぜ俺はここにいるのか?」
問いは渦のように彼を飲み込んだ。
しかし答えは容易には見つからない。
過去と現在、現実と幻影が絡まり合い、混沌の迷宮となっていた。
そんな時、不意に背後から冷たい機械音が響いた。
それは道鏡ロボの声だった。
「忠夫、恐れるな。君の内に眠る力を信じよ。闇の繭こそ、君の真の覚醒の場となる」
機械的ながらもどこか慈しみのある声に、忠夫は震える手を握りしめた。
闇の繭の中で、忠夫の記憶は断片的に蘇った。
かつて彼が歩んだ道、失ったもの、守りたいもの。
そして、彼が見つけなければならない答え――自分とは何か、何を成すべきか。
彼の視界の端に、フィリピン女性の笑顔がふっと浮かび、
チャイナドレスの女性が静かに囁く声が聞こえた。
「あなたは一人じゃないわ」
「私たちも共にいる」
忠夫はその声に導かれ、闇の繭を破ろうと決意した。
すべての影を抱きしめ、未来へと歩き出すために。
機械音と人の声が交錯する闇の中で、忠夫の魂は今まさに試されていた。
この先に待つ光景は、希望か絶望か。
それはまだ誰にもわからない。
だが確かなのは、彼が歩みを止めないこと。
道鏡ロボとともに、魂の迷宮を彷徨い続ける限り。