鼻水小僧 鳥取県の民話
――鳥取の山あいに伝わる、ちょっと奇妙な民話――
むかしむかし、鳥取の大山のふもとの村に、庄屋の家に仕えていた若い小僧が一人、おったそうな。
この小僧、名を「茂吉」といって、働き者ではあるが、ひとつだけ困ったことがあった。
――年がら年じゅう、鼻水が止まらんのじゃ。
春は花の咲くときも、夏は田んぼの草取りのときも、秋は稲刈りのときも、冬は雪かきのときも、ずるずる、たらたら……鼻水がまるで滝のように流れる。
「茂吉よ、また鼻たれておるか」
「はい、庄屋さま……止まらんのです」
あまりにもひどいので、村のもんはそのうち「鼻水小僧」と呼ぶようになった。
ところがある年のこと。村に雨が降らず、川も井戸も干からびてしまった。田んぼもカラカラ、飲み水も足りん。みんな困り果てた。
そのとき、庄屋がひらめいた。
「そうじゃ! 茂吉の鼻水を使えばよい!」
茂吉をお堂に座らせ、手ぬぐいで額をしばり、薪を焚いて熱くしてやると、たちまち茂吉の鼻水が、じょろじょろ、だらだら、桶いっぱいに出てきた。
その水を田んぼにまくと、不思議なことに、たちまち稲が青々と伸び始めた。飲んでも腹が痛くならぬ。むしろ、元気になる者まで出た。
それからというもの、茂吉の鼻水は「鼻の霊水」として、村の宝になった。
やがて年をとった茂吉が山へ消えていったあとも、村の奥のほこらには、今でも鼻の形をした木像がまつられとってな。
いまでも水に困った年になると、村人たちはそのほこらに手を合わせて、こう祈るんじゃ。
「茂吉さま、どうか今年も鼻水、たくさん出してくださいまし」
……という話じゃ。