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退屈と難解  作者: 牧亜弓
鼻水と国家 アリストテレス批判を越えて
20/100

アンダルシア忠夫

(イェーイ)



 画面は真っ黒である。音はない。数秒後、ゆっくりと映るのは、別府忠夫の顔である。片目を閉じている。手にはバイオリンの弓。

 その弓で、巨大な鼻孔を切ろうとしている。


 切られるのは忠夫自身ではない。道鏡ロボの顔に埋め込まれた象徴的鼻孔である。


 スパッ――と音がして、空は曇天に変わり、牛車を引く司祭たちが通り過ぎる。忠夫は笑う。なぜかその笑い声に**「イェーイ」**が混じる。



 つぎの場面。

 忠夫はカフェにいる。テーブルにはコップが三つ。ひとつには水、ひとつにはワイン、もうひとつには鼻水。


「どれが本物か?」と誰かが問う。誰かは見えない。


 忠夫は答える。「全部、嘘です」


 そのとき、テーブルが爆発し、空から巨大な手が落ちてくる。その手には「倫理」と書かれている。だが、指の一本がチョコレートでできている。



 場面転換。

 忠夫が歩く路地。足元には詩のような形をした影が落ちている。

 彼の後ろから、道鏡ロボ(目が6つある)が追いかけてくる。だがその足取りはダンスのようだ。ワルツのリズムである。


 忠夫は振り返り、言う。

「退屈という名の天使が、毎夜ぼくの耳を食べに来る」

 道鏡ロボは立ち止まり、静かに「イェーイ」と言う。



 場面はまた切り替わる。

 教室。壁には巨大なカントの肖像画。しかし、その顔がゆっくりと忠夫に変わっていく。生徒たちは全員、後ろ向きに座っている。教科書には「意味は錯覚」と書かれている。


 その瞬間、窓からピンク色の馬に乗った道鏡ロボが突入。教師役の忠夫に向かってチョークを投げつける。


「この国の文学は、まだくしゃみを我慢している!」


 忠夫は答える。「イェーイ!」



 ラストカット。

 忠夫と道鏡ロボが海辺に埋められている。首まで砂の中。空は美しく晴れわたり、遠くからバイオリンの音が聴こえる。砂の中で、忠夫が笑う。


「退屈もまた、夢であってほしかったな……」


 道鏡ロボが目だけを動かして答える。


「わかる、イェーイ」


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