ロボへの道
別府忠夫は、食卓の上に並べられた三枚のトーストを見つめていた。すべて表面には「難解」という文字が焼き印されていた。彼は三枚とも食べるつもりでいたが、ナイフがどこを探しても見つからなかった。
そこで台所に行こうと椅子を立つと、ドアの向こうに巨大な司祭の帽子をかぶったロボット修道士が立っていた。銀色の顔面には口がなく、そこに唇の代わりにハトが一羽とまっていた。
「われは、道鏡。知識の砂漠より歩いてきた者だ」
忠夫は椅子に戻り、コーヒーカップの中を覗いた。そこには自分自身の顔が映っており、しかもその顔が小さく、機械的に瞬きをしていた。
「退屈は罪である」と道鏡ロボは言った。「人間は意味を求めすぎた。次は機械が夢を見る番だ」
「夢は、わたしの専売特許だ」忠夫はそう返した。だが、声が出たのは口ではなく、耳だった。
室内の壁が裂け、そこから歴代の文豪たちが四足歩行で這い出てくる。太宰治は眼鏡をかけた羊で、谷崎潤一郎は長い舌をもつ猫。彼らは忠夫の足元に群がり、足の裏にキスをしながら、「難解、難解……」と呟いた。
そのとき道鏡ロボが口を開いた。口の中には教会の祭壇があり、そこに一冊の分厚い書物が横たえられていた。その表紙には、「鼻水」と書かれていた。
「我が教義は液状にて成立す」
「神は鼻水を垂らし、人間はそれを解釈した」
忠夫がうなずくと、ロボの頭からゆっくりとバラの花が咲きはじめた。だがその花は、すべて歯でできており、小さく笑っていた。
「目覚めるがよい」ロボは命じた。
次の瞬間、忠夫はベッドの上で飛び起きた。汗びっしょりだった。だが、部屋の隅に置かれた植木鉢の陰には、小さく丸まった道鏡ロボの影が、なおも微笑んでいた。
夢だったのか、夢のなかの現実だったのか。トーストには、やはり「難解」という焼き印がされていた。