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退屈と難解  作者: 牧亜弓
鼻水と国家 アリストテレス批判を越えて
14/100

BEPPU / FRAGMENTS

16ミリ。カラー。字幕は時々ズレる。

音はインタビューとバルコニーの風。

フィルムの傷はそのまま。



0:00:01


画面に白黒の文字だけ:

《別府忠夫——名もなきくしゃみ。国家もまた、鼻をすする》



0:00:10


バルコニーに一人。彼が忠夫だ。だが我々にはその名は関係ない。重要なのは風の音だ。

彼は鼻をかむ。

ティッシュのメーカーは不明。だが政治性がある。スコッティか、ネピアか、それが問題なのだ。


忠夫ナレーション


「私は国家ではないが、国家よりも頻繁にくしゃみをする。

つまり私は、自己言及的に言えば、くしゃみである。」



0:01:42


新聞の切れ端が飛ぶ。見出し:

「AIによる立法」

もう一枚:「道鏡ロボ、未来より襲来」

忠夫は笑う。だが、どこにも笑い声は入っていない。



0:02:55


インタビューの声が被さる。まるで60年代の若者に問いかけるかのように。

Q:あなたにとって、ティッシュとは何ですか?

忠夫:


「それは……自由だ。

鼻水が、どこにでも流れていけるための、自由。」



0:04:12


映像はカラーから白黒へ。

画面に突然、道鏡ロボが現れる。段ボールと銀テープで作られたボディ。彼は詩を読む。

ロボ:


「われは未来より来たる。鼻水の監視者として。

おまえの鼻腔には自由がありすぎる。」



0:05:47


忠夫、バルコニーから転び落ちる。

だがカメラは落下を追わない。

代わりに、空に浮かぶくしゃみの音が反復される。10秒間。



0:06:33


字幕:

《くしゃみとは、内側からの革命である》



0:07:00


映像終了。

無音のまま、1分間、黒画面。



0:08:00


クレジットが逆再生で流れる。

名前のかわりに「国家」「鼻」「不安」「湿気」とだけ記されている。

音楽はシューベルトの断片。

途中でフェードアウト。



補記:ゴダール風解説(架空)


「別府忠夫は個人ではない。彼は、近代国家が見落としたくしゃみであり、

見えない公共空間の咳払いである。

本作は『映画ではない映画』として、彼の生を編集し損ねたまま記録する試みである。」


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