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退屈と難解  作者: 牧亜弓
プロ ローグ 
10/100

次章は 鼻水と国家 です

(画面:白。ゆっくりと映像がフェードイン。誰もいない部屋。時計の音だけが響く。観葉植物が傾いている)


ナレーション(女の声)

世界が音を立てて崩れるとき、

それはティッシュの箱が空になるときと同じ音だ。


忠夫(OFF、鼻声)

くしゃみがしたいのに、出ない。

この不発こそが、俺という人間の核心なんじゃないか。


(画面:忠夫、正面に立つ。彼の後ろに、道鏡ロボが黙って立っている)


道鏡ロボ

くしゃみは、自己の境界線が曖昧になる瞬間である。

鼻腔が開くたび、存在は問い直される。


忠夫

うるせぇ。

だったら、ティッシュ取ってくれよ。


(道鏡ロボ、ティッシュを差し出す。BGM:ベルリオーズ『幻想交響曲』第四楽章の冒頭が流れるが、すぐにノイズ混じりにフェードアウト)



フラッシュカット:

•忠夫の幼少期の写真(顔は映らない)

•未来の東京を歩くロボたち

•倒れ続ける無数のガジュマル

•白い壁に「退屈とは抵抗である」というスプレー文字



忠夫(画面の中の誰かに向かって)

なあ、君は本当に未来から来たのか?

それとも俺の退屈が作り出した幻影か?


道鏡ロボ

意味は時空を超えて漂う。

私は…君の「くしゃみ」の延長線上に生まれた。

つまり、私は「お前の花粉症の夢」なのかもしれない。


忠夫(微笑して)

だったら、もっと優しくしてくれ。



(突然画面にタイプ音。モノクロに切り替わり、活字が打ち出される)


タイプされた文章:


「この映画に物語はない。

あるのは、くしゃみの予感と、倒れる植物の不安である。」



最後の断片


(画面:バルコニーの外。風が吹いている。ティッシュが1枚、空へ舞う)


ナレーション(女の声)

意味は飛ぶ。

言葉も、感情も、

ガジュマルの鉢さえも。



黒画面。字幕:


« La réalité est ce qui nous tombe dessus pendant qu’on cherche un mouchoir. »

―「現実とは、ティッシュを探しているあいだに、上から落ちてくるものだ。」


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