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第9話 親孝行

 李子と喧嘩別れをして、家に戻ると、美子さんが帰ってきており、風邪を引いたようで寝込んでいた。

 渡田部家は美子さん以外は全く家事のスキルがないようで、なし崩し的に自分が家事をこなすことになった。

 喧嘩をしてもやもやしていたから、家事で忙しくなったのは自分にとってちょうどよかった。

 病気になった美子さんより、清さんと清美さんの方があれこれ言って甘えてくるのにはまいったが……、本当にこのふたりは美保留のことが大好きなのだ。

 家事をやっている間はよかったけれど、眠りにつく前は、李子のことをあれこれ考えてしまった。

 自分はよかれと思って言ったことだけれど、人の役に立つことは難しい。

 でも、あそこで何も言っていなければ、もっと自己嫌悪におぼれていたんだろうな。

 とはいえ、本当の美保留だったらどうだったんだろう。

 もっと上手くやれていたのではないだろうか。

 自分のせいで、友人が一人減ってしまったとしたら申し訳がない。

 まあ、家事で家族の役に立てただけよかったことにしとこう……。


 家事が人並みにできるようになったのは、家庭の事情と野球のおかげだった。

 両親は共働きで忙しく、ひとりでできそうなことはひとりでできるようにさせられたし、歳の離れた妹の面倒も見た。

 高校は地方の強豪校に野球留学をして寮生活。

 そのあとは渡米して10年以上一人暮らし。

 野球のために健康面を意識して食事にもこだわっていてたから、料理に関していえば人並み以上だと思う。

 思い返してみると、家族そろって一家団欒を楽しんだ記憶はあまりない。

 もしかしたら、自分の出場した野球の試合が家族全員がそろうイベントだったような気がする。

 渡田部家はいつも夕食では家族みんなで顔を合わせる。

 これが、当たり前の家族だったとしたら、もしかしたら自分を含め七地家の家族は、家族として未熟な部分があったのかもしれない。

 それくらい、自分は渡田部家での生活に味わったことのない居心地のよさを感じるのだ。

 自分が家事をするだけで、すごく喜ばれていることを肌で感じた。


 美子さんの熱は、翌日には平熱まで下がった。

 「夕食は私が作るよ」と言ってきたが、治りがけに油断するのはよくないし、誰かに感染するかもしれないかと言って、その申し出はきつく断った。

 美子さんは、まるで母親と娘が逆転したようだといったふうなことをいって不満そうにしていたが、最後には「ありがとう」と言ってくれた。

 そして、しみじみした様子で、昔の美保留の破天荒すぎる思い出を語りつつ、人並み以上に、勉強や家事ができる子に育つとは思わなかったという、何とも言えない話をずっと話して、最後には、アイドルを目指すことを応援してくれた。

 美子さんは、「子供は3歳までに親孝行をすべて終えるっていうけれど、美保留のは場合は18歳にになるまでやってくれたから。あとはいくらでも迷惑かけていいから、こっちのことは気にしないで、やりたいことをやりなさい」と、言ってくれた。

 自分の本当の両親も、そんなことを思ってくれていたのだろうか……。


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