45話
今度、感想を送ろうと思ってくださったなら、是非この作品においてお気に入りのキャラ名を添えていただけると楽しいです。
「はぁっ、あっぐぁ、ぐすっ……はぁぁあっぐずっ……」
必死に足を前へ前へと踏み出し、荒い息を立て、目からは涙を流しながら、そして絶えず鼻から出てくる鼻水をすすりながら彼は自宅へと走る。とにかく全力で道を走った、無我夢中で早くあの家に戻りたい一心で上り坂も地中で歩くことなく駆け上がった。
上ったり、曲がったりを数回繰り返すとようやく自宅が目に見えてきた。
玄関の前に立つとティッシュ配りのお姉さんから貰ったそれを乱暴に取り出し鼻水を取り、それから涙を拭き、大きく深呼吸してから自宅へと踏み込んだ。
ただいまなんて言わなくてもいいよな、それだけ思うとすぐに二階へ駆け上がる、母親に声を掛けられる前にさっさと家を出てやろうと思っていた。
ドタドタドタ!と慌しく階段を駆け上がる音が、そして既に家に帰宅していた母親は何やら騒々しいなとだけ思って、のん気にせんべい片手に居間で時代劇を見ていた。
ドアノブを回し、自室へと駆け込む彼、少しずつその乱れた呼吸を整えながら何を準備すべきかを考えた。
「こ、これくらいでいいだろ……」
通学用のかばんの中に入っているものを床にぶちまけるとその空になったかばんの中へ着替えを綺麗にもたたんで入れていった。まだ空間がある、どうせならお菓子でも持っていこうかと机の二番目の引き出しからまだ未開封のお菓子を取り出しその空いた空間にそれを詰めていった。
着替えにお菓子をかばんに詰め込み、そして乱雑に床にぶちまけられたその中からケータイを見つけ出し、慌てて上着ポケットへと入れ込んだ彼はよし、と息を吐きドアノブを回した。不思議と楽しそうに顔がにやけてるように見えるのはまるで遠足前日の小学生のようであった。
部屋へ入って行く際と同じように、出て行く際も慌しく駆け下りていった、ダダダダッダン!荒々しく階段を駆け降り、フィニッシュには豪快にもジャンプ、そして着地と共に床を蹴りジェットスタート、一瞬たりとも彼の体は立ち止まることを知らなかった。
少しだけ自分がどこぞの少年漫画の主人公になったかのような気分に彼はどこか楽しそうだった。さっきまで泣いていた彼はどこへ行ったのやら、泣いていた証拠に彼の部屋にはぐっしょりと濡れたティッシュが置かれているというのに。
「いってきます!!」
「ちょっと善人!あんたどこに行くかぐらい教えなさいよー?!」
「うっせー!どこに行こうが俺の勝手だ!今日帰らねーから!!」
吐き捨てるように彼はテレビを見る母親にそう言い放つとさっさと外へ飛び出していった。
外へ出るや否や彼はダッシュで平沢家を目指す、ハァハァと荒く呼吸をする彼はもうじき彼らに暖かく迎えられることだろう。そう、彼の心の傷はあの3人が少しずつ癒していくはずだ。
◆
一方、彼が家を飛び出した直後のことだった。
「善人……」
慌しく、家を飛び出ていった彼の背中を見てそう呟く少女がそこに居た。どうやら彼女は善人に用事があるらしい、しかし、たった今善人は家を飛び出ていったので彼女は何事もなかったかのように後ろを振り向いてそのまま去っていった。一体彼女は何の目的でここに来たのだろう。
ちなみに作者の一番のお気に入りはこよいです(笑)なんの迷いもなく兄に甘える姿がとてもかわいらしいです。