37話
「有ちゃん全力で話逸らし始めた。くふふっ続きは部屋に行ってからにしようか……」
「へっ?つ、続き?何の続き……?」
「まぁまぁ、ちょっと付いてくるがいいさ」
◆
くふふふふっ、さっきのセリフ明らかに卑猥な方に意味取っちゃうよね。でもやっぱ言っておかないといけないからね。こよいちゃんにだけは秘密にしておくけど。これって夫婦の秘密ってやつ?
咲月はとりあえずベッドに有二を座らせた。そしてティッシュ箱から何枚かティッシュを取り出しそれを有二に渡した。
「あーでもティッシュもっといるかな~?」
そして咲月はそれだけを言うと有二に背を向けてバスタオルをそっと腰まで下げた。
露わになる白い肌、そしてそこに残る過去の傷、咲月は唇を噛みながらそれを有二に見せた。
覚悟したはずなのにいつのまにか彼女の目からは涙が流れ落ちてきた。自分でもびっくりしているのか顔が驚きの表情のまま固まってしまっている。やっぱり見せたくなかったのかもしれない。
しかし、嘘はいずれバレてしまう、その時有二は『嘘ついていたのか』と言ってくるかもしれない。そう思うと見せなきゃと思ってしまう咲月なのだった。信用を失うことが彼女にとって最大の恐怖でしかないのだ。
「ごめんね……あれ冗談じゃないんだよ、だから……傷、残ってるんだ……」
背中越しにそう言い、ごめんなさいと付け足した。するとそっとバスタオルを肩まで上げられた。
そして……小さく泣き声が聞こえてきた。
有二が泣いていた、今自分のすぐ後ろで有二が泣いている。咲月は泣くのを忘れ、何で有ちゃんが泣いてるの?と問いかけた。
その問いかけに有二はゆっくりと口を開いた。
「咲月さんが、そんな……目に遭ってるなんて、知らなくて……まさかいじめに遭っていただなんて考えられなくて。さっき聞いたときまさかとは思ったけど……何も残るような傷をつけられただなんて……悔しくて」
「悔しい?」
「俺、昔『咲月さんは……俺が護る』って言ったのに、護れてない……護るって言ったのに」
「それは過去のことだから仕方ないって……ほら、泣かないで、血と涙でぐっしょりだよ」
ティッシュで鼻血と涙を拭き取ってやる咲月。いつの間にか彼女は笑っていた。
「はぁーったく、まだ言うべきじゃなかったかもね」
そう言って彼女はこっち見ないでよ~と告げ、着替え始めた。
◆
いつもあんなに明るい咲月さんにそんな暗い過去があっただなんて……。俺にとって咲月さんは……こんなこと言って馬鹿みたいだけどホント太陽のように俺の辺りを明るく照らしてくれるような人だ、そんな人がこんな目に遭っていただなんて……。
俺は知ったかぶりをしていたのかもしれない、知ってるつもりで知らなかった。最悪だ、最悪の彼氏だ、いや、夫か。
それにしても、だ。こんなことなんで言ったんだろうか。泣いてまで告げることだったんだろうか。
そんな過去があったとしても今の咲月さんが今の咲月さんなのだから、昔はどうだっただなんて俺には関係ない。
……俺も秘密を、いつか打ち明ける時が来るんだろうか、打ち明けたとしてこよいはどうするだろう、咲月さんはどう思うだろうか……そしていつ打ち明けるべきなのか。あるいは打ち明けないほうがいいのだろうか。正直、俺自身知らないほうが良かったのかもしれない……。
次の話から1話1話が短くなります。そして週2~3回の投稿に切り替わります。
予定としては月曜、水曜、金曜。のどれかにしようと思っています。いづれも午前9~10時くらいに予約投稿しますのでこれからもよろしくお願いします。