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36話

「……そんなことあったのかよ」


「お姉ちゃんかわいそう…………」


「ちょ、二人とも悲しそうな顔しないでよーいやだなぁ冗談に決まってるじゃん、冗談だよ冗談。ちょっとリアルすぎたかな~?」


「え……冗談?」


 うん、冗談。と言いながら咲月は脱ぎ脱ぎとその白い背中をチラッと見せた。その内にかけて沿っている背筋のラインは凄く綺麗で思わずうわぁ綺麗、とこよいが呟く。対して有二は何してんの?!とその嫁の白い肌を自分以外の野郎共に見られないよう自らの体を張って壁を作っている。


「ほら、傷なんてどこにもないじゃん?あれも嘘だよーあははっあたしお話作るのうまいね」


 服をちゃんと着た咲月はあははーと笑って有二を見る……それはどこか悲しそうな表情で。しかしそんな表情をしたのもほんの一瞬、二人とも咲月のその表情に気づかなかった。更に有二は咲月に背を向けていたのでなおさらのこと気づくはずもなかった。



「先、お風呂入らせてもらうね~!」


 そう咲月が二人に言うと二人とも声を揃えて、いいよー。と返した。


 咲月が風呂場へ行った事を耳で確認するこよい。その口元は妙に怪しげな微笑を作り出している。へへ、と思わず悪役さながらの笑いをこぼした。


「な、何?」


 有二は新聞の番組表から目を逸らしこよいを見る。


「ねぇーお兄ちゃ~ん……今二人きりでしょ?」


「お、おう……ちょっとこよい怖いぞ」


「だからね、力ずくでキスしようと思って……」


 そう言ってこよいが床に膝をついてこちらへ寄ってきて、見るからに全力で俺の肩に両手を乗せて押し倒そうとしている。最近のこよいは妙に積極的だ。でも俺にはこれがある。


「そうはさせないっ!」

 

 俺はさっき読んでいた新聞紙でこよいの顔面を鷲掴む。くしゃっと収まったこよいの顔面を新聞から浮き出た丸みで確認しつつ、後ろに回りこみお腹部分からギュッと抱きかかえ、胡坐を掻いた中に入れる、これでこいつは大人しくなる。


「……えへへっ」


 そんなに嬉しかったのか、とにかくこれでこよいは落ち着いたがこれじゃもう新聞もテレビを見れない。

 

こよいが俺の視線を後頭部でブロックしてくるからだ。俺が右に頭をずらすと同じようにこよいも右にずらす。左にずらせば同じように左へずらす。一瞬だけ見えたテレビには草原でチーターが取材陣に向かって走り出すのがチラッと見えた、次の瞬間というものがとても気になる。

取材陣は逃げ切れるのか、それとも襲われるのか……。最悪の場合殉職というのも考えられる……だからすげー気になるんですがそこんところどうでしょうかこよいさん?退いてくれませんかねー?


「ちょっとこよい、テレビが気になるんだけど」


「じゃあ音声だけでお楽しみくださいって事で」


「俺は映像がないと満足しないんだよ」


「じゃあこよいがそれよりもいいことしてあげる。きっと満足すると思うよお兄ちゃん」


 満足すると思うよ、と言ったこよいは俺の束縛をもろともとしないかのようにその体を180度回転させ、自らの体重を俺にすべて乗せてきた。


 後ろに倒れそうになり慌ててその拘束を解いて、手を床につけて倒れそうになるのを防いだ。


 しかし甘かった。


「痛ってー!」


こよいはピンと張った腕の関節部分に手刀を入れた。腕にもカックンってあるんだな……。

ってそんな場合じゃないって、早くこいつをどうにかしないと!


「んー……」


 目を閉じ俺の手首を自らの手で押さえつけそして俺のお腹にまたがるこよい。そして迫ってくる。


 俺は必死に足をバタバタした。しかしそんな努力も虚しかった。ただその空間にドンドンドン!という大きな音が響くだけだったのだった……。



 服を脱ぎ、タオル片手に浴室へ入る咲月。そして真っ先に鏡を前に座り込こんだ。どうやら背中を気にしている様子だった。


「あ、あははー冗談って言っちゃった……」


 咲月が見つめる鏡は咲月自身の背中を映し出し、そして小さくはあるが過去に残った傷跡をも映し出していた。



 こっちで一人暮らしするようになってから咲月のいじめはすっかり消えた。


 しかし咲月が受けた心の傷は消えそうにない。背中には消えなくなった傷までついてしまっている。

よほどのことが無ければ見られることは無いがそれでも咲月は気にしてしまう。有二が風呂に入ったとき、自分もホントは入ろうと思っていたがこの傷のせいで仕方なく服は着たまま、背中を流しに突入した事がある。とにかくこの傷だけは見られたくないのだ。咲月にとってこの傷は少ないコンプレックスの一つなのだ。




 頭を洗って次にリンス。流して体を洗った後、湯舟に入る。片足ずつそーっと入れていく。ちなみに今日は有二が風呂の準備をしていた。


「お、丁度いいかも」


 そう言ってもう勢い良くもう片方の足も湯船に浸けてしまう、そして肩まで浸かれるよう足をまっすぐ伸ばす。そして流石あたしの旦那だねと思いっきり背伸びをして体の芯まで温まる。そして15分くらいこうしていようと咲月は思っていた……のだが。



『痛ってー!』


 という大きな声が聞こえてきた。


「何事?……げ、有ちゃん?」


 次に『ドンドンドン!!』と、壁でも叩いているかのようなそんな音が有二たちのいる居間から聞こえてきた。


「いやいや何してんの……?!めっちゃ気になるんですけど!?」


 ただ事じゃないと女の勘がそう言っている、恐らくこよいちゃんの仕業だな、早く何とかしないと。

 そう思っているときだった。


『キスはまずいだろー!!』


「うわっ!!止めなきゃ!!」


そのセリフが聞こえた次の瞬間には湯船から出て咲月は大きなバスタオルを身に纏い居間へと向かった。



「有ちゃん大丈夫?!こよいちゃんに何かされ――」


 その瞬間あたしは言葉が出なかった。目の前の光景を見て唖然とした。ただひたすら驚いた。旦那が自分の妹にキスを迫られている。手首をガッチリと掴まれ、オマケにお腹の部分には妹が乗っかっている。いったいここで何がどうなったというのだ……。


「――咲月さんヘルプッ!」


 そうだ。助けなきゃ、妹なんかに負けてたまるか。こっちは嫁なんだ、妹ごときに負けるはずが無いんだ。早く妹ちゃんを退けて上げなきゃ。


 有ちゃんの声がした瞬間、あたしはこよいちゃんを脇から抱え引き離した。

 

するとこよいちゃんは後もう少しだったのにーと落ち込んでいた。こっちにだって負けられないものがあるんだ、だから許してね、と心で謝罪しつつこよいちゃんをソファーに座らせ、有ちゃんの安否を確認した。




 た、大変な目に遭った。こよいからの襲撃を咲月さんに助けてもらったのはいいけどこれ、いわゆる第二派ってやつだよな。血が出そうだぜ、主に鼻から。とにかく咲月さんが助けてくれたが今現在咲月さんはその体をもってして無意識のうちに俺に大ダメージを与え続け、出血を誘っているんだ、主に鼻から。

そしてこれが男と言うやつで……見るんじゃない!と頭で思っていても中々目を逸らすことができない。

そして咲月さんがこちらを向いた瞬間、俺はとうとう血を流した……主に鼻から。


「大丈夫?!でも一応ファーストはあたしだったからそこは気にしなくてもいいよ……ってあら?」


「嘘!?姉ちゃんもうキスしちゃってたの?!こよいはてっきりお兄ちゃんの事だからまだやってないだろうからこれでファースト奪えるかもしれないって興奮してたのになー……て、あれ?お兄ちゃん?血が……鼻から出て」


「ち、違う!これはさっきこよいが俺を押し倒したから出ちまったんだよ!」


 全力で二人の想像している事とは違うという事を主張する。でも悲しいかな、この二人全然信じてくれる気配が無い。こよいは落ち込んでるし咲月さんに限ってはニヤニヤしながら両膝を折り曲げて座っていたところをわざわざ四つん這いに変更し始め俺をからかい始めた。止めろチラリズム、止めてチラリズム……。そのバスタオル急いで来たせいなのか少し巻きが緩い……。


「さぁ、それはどうかなぁー?有ちゃん興奮したんでしょ?ほらあたし今バスタオルしかつけてないんだよ?だから、これさえ払いのければ生まれてきた姿ってわけだ、どうする?脱がす?脱がしちゃう?むしろあたしは脱がしてほしいんだけどなー」


 じりじりと近寄ってくるこの同棲中の妻。とはいっても高校生なんだが……高校生なんだが……その威力、侮れない。


「ば、馬鹿言うなよっ!!?脱がすわけ無いだろうが!」


 全力で否定する、肯定したらまずいでしょ!?俺はようやく視線をこよいに向ける事によって咲月さんから逸らすことができた……。しかしその瞳は更なる問題を映し出していた。


「そしてこよいはなぜ落ち込んでる?!さっきまでの威勢はどうした?!」


 見るからに落ち込んでいる、体育座りになって膝に顔を埋めている。なにやら呟いているようだがいったい何を呟いているんだか。


「有ちゃん全力で話逸らし始めたぁ。くふふっ続きは部屋に行ってからにしようか……」


「へっ?つ、続き?何の……続き?」


「まぁまぁ、ちょっと付いてくるがいいさ」



 そう言ってさりげなく力が強い咲月さんは俺の腕を引っ張って部屋へと入り込んでいった。い、嫌な予感が……ってか先の味方は今の敵か?!




 くふふふふっ、さっきのセリフ明らかに卑猥な方に意味取っちゃうよね。でもやっぱ言っておかないといけないからね。こよいちゃんにだけは秘密にしておくけど。これって夫婦の秘密ってやつ?



 咲月はとりあえずベッドに有二を座らせた。そしてティッシュ箱から何枚かティッシュを取り出しそれを有二に渡した。


「あーでもティッシュもっといるかな~?」


 咲月はそれだけを言うと有二に背を向けてゆっくりバスタオルを腰まで下げた。

 

 露わになる健康的な白い肌、そこに残る過去の傷、咲月は唇を噛みながらそれを有二に見せた。


 あれ?おかしいな、覚悟したはずなのに目からは涙が少しずつ流れ落ちてきた。やっぱり見せたくなかったのかもしれない。


 でも嘘はいずれバレてしまう、バレてしまったその時、有ちゃんは嘘ついていたのかと言ってくるかもしれない。そう思うと見せなきゃと思ってしまう咲月だった……。


「ごめんね……あれ冗談じゃないんだよ、だから……傷、残ってるんだ……」


「え……?」


感想待ってます、ではまた来週。

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