34話
先生に呼ばれ、問い詰められ。それでもあたしはそんなことないですってばーと笑顔を作り続けた。すると先生はそうか、なら良いんだ。どうやら俺の勘違いだったみたいだ、悪かったな貴重な昼休みを潰してしまって。と、あたしに言った。
「いいえ、良いんですよ~先生だって人の子なんだから間違いだってすることもあるけど勘違いだってすることもあり得ない話じゃないんですから」
とあたしは返した。
でも勘違いじゃないんですよ。ごめんなさい、嘘ついて。同時にそうあたしは先生に心の中で謝った。
それに、呼ばれて良かったのかもしれない、だってあたしの居場所なんて無いんだから。
教室に帰っても誰もあたしの相手なんてしてくれない。だからあたしはいつも本を読んでいた。
恋愛モノの小説が好きでよくその類の本を読んでいた。
そこには様々なシチュエーションがあって、いつかこんなことしてみたいとも思っていた。
◆
「ねぇ、咲月。あんた先生に何言われてたの?」
少し棘のある口調で彼女は言ってきた。彼女の名前は沙耶、あたしを目の敵にしてみんなを味方にして攻撃してくる主犯者。だからあたしはコイツが大嫌い。カッターナイフでもあればすぐにその顔を傷付けてやるのに。でもそんなことしたら先生に呼ばれてあたしの両親に迷惑を掛けてしまう。だからあたしは何もしない。何も出来ない、ただただやられるだけ。
「なに言われてって、あたし宿題やってなかったからちゃんと出せよ?って」
「ふーん、そうなんだ。じゃ別にいっか」
そう言うと沙耶は自分が中心のグループの輪に戻っていった。
願わくばあたしに近寄ってきて欲しくない。
小説を読んでいると掃除の開始のチャイムが鳴り、それぞれ愚痴りながらも掃除場所へと急ぐ。
あたしも栞を挟んで掃除場所へと向かった。でもそこにはあたし以外誰もいなかった。
◆
事の始まりはあたしが2年生になってしばらくのことだった。
あたしが友達とこの間見に行ってきた映画の話をしているとあたしたちの教室に3年の男子が入ってきた。
ちなみにこのとき話していた友達っていうのは紛れも無く沙耶のこと。
その沙耶に用があったらしく男子が沙耶に声を掛け、そして告げる。
「沙耶ちゃん、ごめん。俺他に好きな子が出来たんだ」
「え?」
沙耶はしばらく固まり、そしてようやく口を開く。
「その人って誰?」
その声はとても力弱く、まるで生気を抜かれているかのようだった。
その問いに対して男子はそれは秘密、とだけ言った。でもあたしは気づいてしまった。
そのとき彼があたしを見てニヤニヤしていることに。
好きな人を見ると嬉しくなって頬が緩むっていうことはよくある。だってこの間まで沙耶がそうだったから。そして好きな人が出来た。あたしを見て頬が緩んだ。この二つから推測されることはとても簡単なことだった。彼はあたしに惚れてしまった、ただそれだけのこと。
あたしはそれに気づいてからこの人とは距離を置こうと思っていた。
でも強引にあたしはこの人に呼び出され、告白された。
「姫川咲月ちゃんだったよね、あのさ。もし良かったらなんだけど」
「ごめんなさい、そういう話ならお断りさせていただきます。だって親友の彼氏だし、気が引けます」
そういって丁寧に告白を断らせてもらうつもりだった。でも
「はぁ?そんなの関係ないね、なにそれ女の友情?そんなつまらないものにしがみ付かないで俺と付き合ってくださいよ、ね?」
彼はそう言ってきた。でもあたしは断り続けた。
「あたしは付き合えません、だから諦めてください」
そう言って何度も断っていたときだった。
「ふーん、じゃその大切な沙耶ちゃんに怪我させちゃおうかなーあいつ俺に惚れてるし、多少傷付けても何にも言わないだろ」
「そんな……止めてくださいっ!そんなの酷い」
「……やっぱそういうのは良くないよな、じゃあさそれを止める代わりに付き合ってくれよ、それなら文句無いだろ?友情だもんな」
「え……?」
結局、彼に乗せられてあたしは彼の彼女になった……。
その翌日から『浮気泥棒』として沙耶はあたしを目の敵にし始めた。
◆
「あら、ごめんなさい姫川さん。わざとじゃないんだよー?」
あからさまに肩をぶつけてきた沙耶はあえてわざとらしく言ってきた。
そのことに対し、感じ悪いよ。と沙耶はクラスのみんなに言われた、でもその度に
ふーん、あんたもいじめてほしいのね。分かった。と言い、皆を怖がらせていった。
しかも沙耶が彼氏と別れたなんて事はあたしと本人以外誰も知らず、沙耶に脅されるたびに
『沙耶には3年の彼氏がいるからたてつかないほうが良い』と陰で注意する生徒もいた。
そして皆それが怖くて沙耶の言うことに歯向かうことなんてしなかった。
おかげであたしはいつの間にか一人ぼっちになってしまった。
次回、完結です。