25話
今週からあとがきのやり方を変えてみようと思います。
「―――という訳です」
真剣な面持ちでこよいはそう言った。
「親か。一体引き取ってどうするつもりだよ」
なんかすごい腹立たしい、ぶん殴りたい気分。
「ってか信じられないあたしはその二人が許せないかも」
咲月さんもいつもと変わってイラついていた。こんな顔するんだね……。
「咲月さん……俺も同じだよなんかいまさらって感じ」
「ねぇお兄ちゃん。どうしよう……」
こよいが不安そうな顔で尋ねてくる。そこで一つの疑問が浮かび上がってきた。
「うーん、どう対処しようか。ってか待てよあいつらどこに住んでるんだ?」
考えはしなかったけど今となっては結構重要なこと。現在どこに住んでいるのか。
近場だとそれはそれで遭遇しやすく危険だ。遠くに住んでいるとなると、最悪の場合……。
そんな事を考えていると咲月さんがその最悪の場合に気づいた。
「……!有ちゃんそれって!つまり何?あたしと会えなくなる可能性出てきたって意味!?そんなの有り得ない」
普段こんな大きな声を張らないだけあって今の咲月さんはとても迫力があった。
「で、でも意外と近くかもしれないし、遠くに住んでいるとか決まった訳じゃない。んでもって俺は引き取られる気もさらさら無い今まで通り仕送りだけ続けてもらう」
俺たちを捨てておきながらどの面下げて来やがったんだよ、一回でいいから思いっきり殴ってやりたい。
「じゃあ引き取られないよう説得しなきゃだねお兄ちゃん」
「ああ。そうだな」
「でも有ちゃんどうするの?多分また出てくると思うけど」
「そうなんだよなー」
「明日も来るかな?」
来るだろうな。俺だったらまた確認しに行く。多分来る、いや絶対来る。
その考えを伝えようとしたら咲月さんも同じ考えだったらしく代弁してくれた。
「来るかもねーあと、こよいちゃんは『人違いです』って言ったんでしょ?」
「うん、言った」
「じゃあ遠くから見てる可能性が高いかも、相手側からすれば何かしろの方法で顔を見てると思う。あたしだったらそうだね、誰でも良いからその人の友人の卒業アルバムでも貸してもらうかな」
探偵だなぁ、咲月さん。
「……やっぱ俺も付いていったほうが良いよな?」
強行手段に出たら危ないだろ、相手は二人だし多分片手に買い物袋だろ?
「いや、お兄ちゃんは来ないで、二人揃って出くわしたら今度こそ誤魔化せないよ」
「そっか……」
「じゃああたしが一緒についているよ」
おー、咲月さんが付いているなら出くわしても何とかなりそうだな。
「ホント?……でも」
で、でも?断る気なのか?……ぁでもこれで咲月さんに迷惑かけたら申し訳ないか。
「でも?」
「これはあたしとお兄ちゃん。ましてや家族の問題なんだよね。だからあたしだけでがんばる。でもヤバかったら咲月さんにも協力してもらう」
「そっか、がんばりなよ?で、協力って?」
「うん。最悪の場合咲月さんが二人に向けて「うちの妹に用ですか?」って言ってもらう」
それを聞いた瞬間、頭の隅で浮き上がっていたいろんな考えが繋がりそしてひとつの結論に至った。
「ちょっと待ったこよい、それはいいんだけどやっぱ真正面から説得するほうがいいんじゃないか?」
現実的に考えようぜ……。
「何で?最悪の場合一緒に過ごすんだよ?こよいはそんなこと認めない。他に同居するなら咲月姉ちゃんしか認めないからね!」
お、怒られた……。
「おぉーこよいちゃん可愛い事言うじゃない!更に気に入った!」
咲月さん……!今はそんなこと言ってる場合じゃないって!
「咲月さん可愛がるのは後にしてとりあえず話し済まさない?」
「うん分かった。で?どこからだっけ?」
「説得しようって所」
咲月さんはうーん、と考え込みこんなことを言った。
「……うーん、あたしが考えるにはその二人はお金に余裕が出来たから引き取るなんて言ったんだと思うのよね、結局有ちゃんとこよいちゃんの生活費ってその二人のお金なんでしょ?」
「あぁ、あとおばさんのも使ってる、おばさんの講座にそいつらのお金が振り込まれてそこから俺たちの口座に振り込まれる、って流れでお金が入ってくる事になってる」
これが止まったらもう俺たちは生きて行けなくなる。要するにこのパイプが切断されたら俺たちの命も絶たれることとなってしまう。
「ん?おばさんって?」
「俺たちを育ててくれた人の事。昔はおばあちゃんって呼んでた。今はおばさんって呼ぶことにしてる」
おばさんにはとても感謝してる。引き取り手が無い俺たちを自分から、私が引き取りますと名を上げてくれたのだから。
「そっかー、でさでさこちらの要求ってのは?」
「一緒に過ごす気は無い。そのままおばさんに仕送りを続けろ」
あれ?そういやさっきの結論どんな考えだったっけ?パッと浮かんでパッと消えたぞ……。こよいに怒られてるうちに考えを繋いだ鎖が解けてしまった。
翌日、こよいは警戒しながら家に帰ってきたのだがこよい曰く何も無かったとのこと。
あれだけであきらめたとは思えない……日にちを置いているだけか?
こよいは買い物袋をテーブルに置き左手で右肩を押さえブンブンと肩を回す。
「あぁー疲れた疲れた」
そう言ってこっちをチラチラ見てくるこよい。な、なんだよその視線は……。
「え?何その視線」
「べっつにー?なんでもなくは無いけど~?」
「そっか、何かあるんだな。おおよそ見当は付いてるけど……」
ここしばらくずっと考えていた、結論から言うと俺はあいつらにかくまってもらった方が良かったんじゃないかと思った。だからあの場に俺が居合わせてたら話のひとつやふたつが入っただろう。もしそうなったら恐らくあいつらと一緒に過ごすことになったに違いない。だから俺は後悔した、こんなことこよいに言ったら怒られるに違いないだろうけどもっと現実的に考えないといけないのがこの世の現実ってやつだ。それに実際、家計が苦しくなってきている。
とりあえずこよいが勝ち取った特売品をフルに活用してなんとかやっていけているけど……本当はジュースとか買ってる場合じゃないんだよね。120円あれば秋刀魚一匹買えちゃうんだ。そしてジュースを5回も我慢すれば600円。600円あれば色々と買えてしまう。もちろん大きいものは買えないけど、でもそんなのいらないから論外だ。
そんなこんなで家計は結構苦しい。正直引き取ってもらって養って貰うほうが良かったのかも。
俺ながらシリアスに事を考察していると丁度こよいがエプロンを着て包丁を取り出していた。
こよいは昔から包丁を持つときにニッと笑う癖が付いてしまっている。それは狂気的な笑みにしか俺は見えない、久しぶりに見たなこれ。この笑みはこよい曰くよーし、がんばるぞーと意気込んでいるらしい。
トントントントンとリズム良く何かを切っている音がする。同時に鍋の水が沸騰している音も聞こえる。沸騰したな、俺がそう思ったときにはこよいはその鍋に何かを入れていた。
慣れてるよなー、そういえば咲月さんの手料理オムライスしか食べたこと無いからふだんの料理が気になる。そういや一人暮らしだったっけ?
そんな事を考えていると、お兄ちゃーんとこよいが呼び、俺はどうした?と答えた。
お風呂が用意できてるから先に入っててとこよいに言われた。俺は分かった、とだけ言って風呂場へと向かった。
風呂場へ行くと服を脱ぎ、体を洗うタオルと体を拭くタオルの二枚を持って浴室へ。
浴室に入ると後ろに振り返って鍵を閉める。ガチャ、その音が俺を安心させてくれる。
「なんで鍵閉めるのー?」
「なんでこよいはそこにいるのー?」
来たぞ、やっぱり来たぞ。こよいから風呂入って良いよー。ってのはもう夕飯は出来た、って意味も含まれている。だからこうやって俺を困らせに来ることができるんだ。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
急に悲しげな声でこよいが俺を呼んだ。
「ど、どうした?」
急に寂しそうな声を出すもんだから思わず心配してしまった。
「あのね、あの人たちが出てきたとき、『引き取りに来た』って言った時こよいはすごく怖かった」
「…………」
俺は何も言うことが出来なかった。どう言ってやればいいのか分からなかった。
「お兄ちゃんと一緒に過ごしてもうすぐ半年。おばさんがこんな良い家をくれるなんて思わなかったよ」
「俺は不動産やってたんだ、ってビックリした」
それにしてもひとつ家をくれるなんて凄いとしか言えない、実はおじさんが相当稼いでいるらしい。だからこんなことが出来たんだとコレを貰った後におばさんからそのことを俺は聞いた。
「ねぇ……初夜の時覚えてる?」
「初夜とか言うな、勘違い多発だ」
知らない人が聞いたらどう思うだろう。多分良い方向には思ってくれないだろうな。
「あの時ねこよいすっごい心臓バクバクしてて中々眠れなかったよ」
「何興奮してたんだよ……」
明日は遠足だ……!あぁー明日から修学旅行かーって少年でも最近はアッサリと寝るんだけどな。そこのところどうなんだこよい。
「ある日タンスの角にお兄ちゃんが小指をぶつけてもがいてたりして」
「あんなことまだ覚えてたのか……」
【なぜタンスに小指をぶつけるのか】って題名で自由研究したっけ?結局パソコンで調べたんだけど……。
「カレーは作ったのにご飯炊いてなかったりした時悔しかったな」
「食べようと思ったら水に浸かった米を見て笑っちゃったよ」
よっし!食べるぞー……あれ?ご飯が。ってしばらくポカーンとしてたっけ?
「でもね、わざとじゃないんだよ?全部こよいがお兄ちゃんのためにと思ってやってるんだよ?」
急にどうしたよ。変なもんでも食ったか?……ってちょっと古すぎるか。
「分かってる、だから俺は怒らなかった、いつもこよいには感謝してる、ありがとなこよい」
「……っ!グスッ…」
泣き出した……!?この事態に俺は慌て始める。
「ちょ、こよい?……泣いて、いるのか?」
「な、泣いてなんかないもん……ズズッ」
泣いてるじゃん、鼻水まで出てるのか?それにしても唐突だな……。
「鼻水すするな。ティッシュでなんとかしろ……」
「分かった……ごめんね」
「何で謝るんだよ」
そう言ってこよいは居間へと帰っていった。何だったんだ?一体……。
風呂から上がり夕食も食べ終えた俺はさっさと寝ようとベッドに潜り込む。
「意外と早かったね」
先客が居た。何十分か前に風呂場で泣いていたこよいだ。
「こよい、せめて自分ので寝ろって」
「ヤダ、ここ動きたくない……」
「じゃあ俺がこよいの」
そう言って移動しようと思ったそのときこよいが俺の腕を強く掴んだ。
「ダメ!行かないで!一緒に寝て?ね、お願い……」
徐々にかすれていくこよいの言葉。俺は後ろのこよいを見た。
そしてこよいの目に溜まった涙を見たとき俺の中で何かが動いた。
その直後に思い浮かんだ言葉は『シスコン?何とでも言え』
俺の決意は固まった『あいつらなんかにこよいは渡さない、こよいは俺が守ってやる』
そう決意した。
それから涙目のこよいに腕を掴まれた俺は一つ提案をした。
「なぁ、こよい。ベッドくっ付けるか」
「ぇ?」
こよいは手を離した、そして俺はこよいが使うベッドの横から力強く押した。
初めはギギギ……と嫌な音がしたがしばらく押していると抵抗感がなくなりスムーズに押せた。
「これで広くなっただろ?じゃ寝るか」
「お、お兄ちゃん!」
そう言って抱きついてくるこよい、かわいい奴め。でも少し暑いや、まぁそこは我慢するとしよう。
「嬉しいからお兄ちゃんの頭撫でてあげる。すぐ寝られるはずだよ」
こよいの細くきれいな手が俺の頭を優しく撫でる。
これはとても気持ち良いかも……すごいなこよい、すぐ寝てしまいそうだ。
そんなゴットハンドを持つ妹により俺は気持ちよく寝ることが出来た……。
次の朝こよいは俺より早く起き、パンを焼いて目玉焼きを作り俺を起こそうとした。
が、俺はそれより少し早く目が覚めた。
イスに座りパンにかじりつく。カリカリとした良い音が鳴った。
こよいの焼いた目玉焼きも食べ、カバンを手に取りそして玄関へ。
「明々後日は夏祭りだから覚えておけよ?」
ちなみに咲月さんと同行することになっている。
「うん、覚えてるよ。楽しみだったもん」
「ったく、良いよな。振り替え休日で」
俺も振り替え休日が欲しいわ……。
「こよいはお兄ちゃんが居ないとちっとも楽しくないよ」
嬉しい事言ってくれるじゃん。
「そっか、あれ?こよい、ちょっとほっぺた見せて、ははっこれニキビかも、薬塗ってあげる」
そう言ってカバンから薬を取り出す……フリをした。
「ホント?良かったー今日学校じゃなくて……って、え!?」
「じゃあな、行ってきます」
「い、行って……らっしゃい」
有二が出て行き、ドアが止まった瞬間、こよいの腰は砕けた。
「お、お兄ちゃん……ほっぺにキスした」
それからしばらくこよいはぼーっとドアを見つめていた……。
「作者さん作者さん」
「ん?なにこよい」
「どうしてあたしがここに呼ばれてるわけ?ってか今週長くない?3週間分
ありそう……」
「それはね、ただこういうのがやりたかっただけ、ちなみに長さは気にするな」
「そ、そんな理由で俺もここへ来させられたのか?」
「まぁまぁ有二。いいじゃないか」
「お兄ちゃん大好きー!」
「うぉっ!久々に飛びついてきやがったなこよい」
「えへへー久々に飛びついちゃった」
「あの、二人とも。俺の目の前でイチャつかないでもらえる?すごく嫉妬する」
「そっかー作者さんには15年間、いや今まで彼女できたこと無いんだっけ?」
「有二……あまりそういう事実を言うな。俺が傷つく」
「え?!今までで彼女ゼロ!?うそ!?」
「こよいー!傷口を掘るんじゃない……もうコレ読んで。帰って良いからさ」
こよいは作者が渡した紙に目を通した。
「えと、感想と評価をお待ちしております!お気に入りに入れてない方は是非入れてください!」
「はい、良く出来ました」
「あと彼女募集んぐ!」
「んなこと書いてないだろーこよい?有二、こよいを連れて帰ってあげてそこの鏡とそちらの世界が繋がってるから」
「なんという仕様……」
「では感想と評価をお待ちしております。柴わんこでした」
「あたしが読んだ意味無くない?」
「気にするなこよい」