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7-2. 幼馴染(エドアルドside)

「…カティアです。入っても良いでしょうか」

「……どうぞ」


 着替えが出来ないと助けを求めたサリタニアのもとにカティア譲を案内した。入る旨を伝えられたサリタニアの声は震えていた。おそらく必死で泣くのを堪えているのだろう。昔は泣きじゃくっていたのに成長したものだ。

 用済みとなったので再び1階へと降りていく。この宿の造りならば、部屋に入れないのであればここを守っていれば良いだろう。隣の部屋と中扉で繋がってはいるが、今は他に1階でやる事がある。


「お前らしくないな。絶不調じゃないか」


 1階で成り行きを見守っていたクライスに声をかける。


「何の話だ?」

「あの2人の事だ。結果を急ぎすぎだ。カティア譲なんて追い詰められてたじゃないか」


 クライスは状況や人の感情の機微をうまく使って事を運ぶのに長けている。だが今日は何だかおかしい。


「お前がカティア譲をからかっていたから、そう言ったノリの方が効果が出るのかと思ってターニャと呼んでみたり敬語をなくしてみたりと悪ノリに参加したが、明らかに失敗じゃないか。姫様の事だって、お前ならもっと良いタイミングで諌める事が出来たんじゃないか?」


 サリタニアを諌めるのは俺の仕事でもあったかもしれないが。それは別途反省することにする。


「平民と貴族の違いだろう。彼女は俺の予想と違う言動をするんだよ」

「…それだけじゃないだろう。さっきのカティア譲に対する説明もだいぶひどかったぞ。」


 普段のクライスなら、長々と口上を垂れた後、相手は「そうだったのか」と納得の顔をする。だが彼女は眉尻を下げ眉間に皺を寄せて、相変わらず思い悩んでいるようだった。


「俺だって相手の考えが読めなくて苦戦する時もあるさ」

「……俺にはお前がこの宿屋に変な執着を持っていて、カティア譲に上手く断られる前に地盤を固めてしまおうと急いているように見える」


 事前調査から戻ってきた時のクライスの様子や、今朝挨拶をした際のやりとりからまさかとは思っていたが。


「貴族と平民の恋路は辛いぞ」

「…!ばーっか、そんなんじゃねぇよ!」


 こいつは俺の前ではひどく口が悪い。3歳年下のクライスとは小さい頃からの付き合いなので、別に今更どうとも思いはしないが、よく時と場所を間違えないものだと感心している。


「陛下指定の場所なんだぞ、断られましたで済むと思うのかお前は」

「いざとなればここを離れるのも選択肢の一つだろう。何より姫様がここに居づらさを感じれば俺は仕事をするだけだ」

「はいはい、主の御身を守るだけに非ず、御心を守ってこそ騎士である」

「よく覚えてるな」

「そりゃお前の家に遊びに行くたびに復唱させられたからな。別に騎士志望じゃないってのに」


そういえば、爺によく2人で復唱させられていたな。


「俺は姫様を守るのも仕事だけど、仕事の補佐が一番大事な仕事なんだよ。だから必死にカティアさんを説得しようとしてるんですー」


 唇を尖らせてそっぽを向く。子供か。


「…けど、2階に向かったカティアさんを見た限りもう説得の必要はないと思う。たぶん姫様と仲良く降りてくるんじゃないか?」


 それがお前らしくないと言うんだ。2日前に会ったばかりの女性を信用するなんて今まであっただろうか。だが本人が好意を否定しているのだからこれ以上は心配しても仕方がない。


「そうだと良いけどな」

「ていうかエディ、お前もいい加減カティアさんへの警戒解けよ。悪ノリしながらめちゃくちゃ警戒してる姿面白すぎするぞ」

「クライス以外にはわからないだろうから良いんだよ」


 サリタニアとカティア譲にわからないレベルでの警戒に気付くのだから、クライスも騎士の素質あると思うけどな。本人にその気がないのが残念だ。


「…2日前に会った彼女はどういう人だったんだ?身分は伝えなかったんだろう?」


 俺はサリタニアが王族と知った後の混乱した彼女しか知らない。いくら冷静な人間でも、平民であればいきなり現れた王族に対していつも通りの反応は出来ないだろう。


「正直で、気遣いが出来て、柔軟な対応が出来る聡い人という印象だったよ。感情が少し顔に出やすいけど。まだ若いしな。18、9だろう。」

「ベタ褒めだな」

「本当にそう感じたんだから仕方ないだろう、少なくとも誤魔化したり、嘘はつけないだろうというのは今でも確信してる」

「確かにそれはそうだな」


 彼女の言動は戸惑いや迷いは感じるが、何かを企んでいたり隠そうとしているようには感じられない。クライスの言う通り、警戒は解いても良いだろうか。

 

「…部屋から出てきた2人を見て考えるよ」


 サリタニアにとって、良い影響を与えてくれるようなら少しくらい泣かせても構わないが、泣いている顔を見て心を動かさないような人間だとしたらまだまだ警戒は必要だろう。まぁ、部屋に連れて行った時点でそんな風には感じられなかったが。肌を見ても問題ないかと訊いてきた彼女の目は今までと違っていた。クライスの言う通り仲良く出てきたとしたら、俺も彼女に謝らないといけないな。


「…また4人で食事の続きが出来たら良いな」


 クライスは冷めかけた料理を少し淋しそうに見ながら呟いた。本当に好意はないのだろうか、あったとしても俺は頭ごなしに反対はしないぞ、と心の中で誓った。こいつは可愛い弟分なのだ。苦労はさせたくないが、意志は尊重してやりたい。


「きっと出来るさ」


そう返すと、カチャリと2階のドアを開ける音が聞こえた。


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