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63. 勢ぞろいの報告会

「まずはカティアさん達とロックウェル嬢達との関わりをご説明いただけますか?」


 クライスの進行で話し合いは始まり、私とキースが中心になって先日レティーツィアを連れて宿に来た事、キースはゲイルと同じ村の出身である事、結婚の報告に城下からこちらへ来た事などを説明した。


「まさかクライスさんとレティーツィアさんが知り合いだったなんてびっくりしました」

「私も隊長とカティアさん達が知り合いだなんて驚きです。というか隊長ここで何してるんですか?まさか、殿下の側近クビになったん…」

「レ、レティ、隊長さんの顔怖いから」

「うっ…ごめんなさい」


 横に座っているクライスの顔をちらりと覗き見ると綺麗な顔で笑っていただけなのだけれど、いつも見ている笑顔とは少し違っていて、確かに無言でこの顔を向けられると怖いかもしれない。


「ご自身で過ちに気付いていただけたようで何よりです。ちなみにクビになどなっていませんよ。今も側近の仕事を遂行中です」

「…?殿下から離れて大丈夫なんですか」

「離れての仕事もありますが、今は離れてなどいませんよ」


 そう言ってクライスは斜め向かいに座っていたサリタニアの方を見てこくりと頷いた。どうやら身分を明かしても良いと判断したようで、サリタニアはようやく名乗れる事に顔を明るくして立ち上がった。


「はじめまして、わたくしサリタニア・エメ・ファレスと申します。ロックウェルの方という事はエレインの妹さんですね。わたくしの侍女のエレインはとてもよく働いてくれるのでいつも助かっています」


 にこにことそう挨拶したサリタニアに対して、レティーツィアとキースは顔を真っ青にして固まっている。気持ちはとてもわかる。そんな2人を見たサリタニアは困ったように笑い、どうぞ楽に、と声をかけた。その声に固まっていた2人はガタリと椅子から立ち上がり、床に片膝をついて頭を低くした。


「大変失礼いたしました!御髪の色が異なり殿下とは気付かずにおりました」


 その言葉にサリタニアもしゃがみ込んで緊張で固く握られたレティーツィアの手をとり、にこりと笑った。


「楽にしてくださいと言ったではないですか。自己紹介は正直にしましたが、わたくしはこの宿ではカティアに宿のお仕事を教えてもらっているターニャなのですから」


 私の名前が出た事でレティーツィアもキースも勢いよくこちらに顔を向けた。キースは泣きそうな顔と信じられないというような顔が絶妙に混ざった顔をしている。うん、本当にその気持ちよくわかる。レティーツィアはクライスの方へと視線を移し、困惑した顔で助けを求めた。


「今から説明しますから、とりあえず席に戻ってください」


 恐る恐るといった感じで椅子に座り直した2人にクライスはこの宿に来た理由やここでの過ごし方、先日までキースの村や国境の村へと行っていた事を話した。


「…と、いう事ですから、ここで会ったのは姫様ではなくターニャという事でお願いします。ちなみに、姫様が課題で城を離れている事は周知の事実ですが、この場所にいるという事は限られた者しか知りません。それも承知しておいてくださいね」

「わかりました…はぁ、カティアさん、よく受け入れましたね。私だったら緊張で死んじゃいそう」


 クライスの説明で少し肩の力が抜けたレティーツィアにそう言われ、思わずサリタニアの方へと視線を向けるとサリタニアもこちらを見ていて目が合った。


「そう、ですね…私も最初はレティーツィアさんと同じ…いえ、私は平民ですからレティーツィアさん以上に緊張して、どうお断りしたら良いかという考えで頭がいっぱいになっていたと思います。でも、ターニャを見ているうちに、私の立場で言って良いのかわかりませんが力になりたいと思ってしまったんです」


 レティーツィアとキースを交互に見ながらそう言い、改めてサリタニアの方を見ると嬉しそうに微笑んでくれていた。


「それに、私もたぶん、祖母が亡くなってから一人で寂しかったんだと思います。ターニャや皆さんが宿にいてくれる事が嬉しかったんだと今では思います」


 最初は、4人で日常を過ごすことに慣れてしまった後にまた1人を感じてしまうのが嫌で、宿の仕事をお願いする事に抵抗があった。でも今はこちらの道を選んで良かったのだと心から思う。あの時断っていたら、宿の主人とお客様という形でしか関係を作れていなかったら、今このメンバーでテーブルを囲むことはなかったのだ。


「そっか。エリザさんが亡くなってからやっぱりカティア無理してたんだな」

「意識してはいなかったんだけど、心のどこかで寂しかったみたい」

「…でも、殿下や隊長達はそのうち城に帰るんですよね?その、大丈夫ですか?」


 レティーツィアに心配そうな顔をされてどう答えようかと迷っていると、テーブルに置いていた左手にクライスの手が重ねられた。


「大丈夫ですよ、ね、カティアさん」

「え…と、はい、大丈夫です」


 笑顔で同意を求められてこくりと頷く。昨日の状況を見ていたみんなに報告をした時と違って、なんだか改まって言うのは気恥ずかしさがすごい。ちらりと2人の方を見ると、同じような顔をして固まっていた。そうだよね、びっくりするよね、わかる、と心の中で同意していると、2人は一度お互いを見てもう一度こちらに顔を向けた。


『えぇぇぇぇぇぇぇ?!』


 動きが息ぴったりだなと見ていたら今度は息ぴったりの叫び声が出てきた。


「え、隊長、そういう事ですか?そういう事で合ってるんですか?!」

「合っていますのでもう少し静かになさい」

「カティア、お前、相手はこの隊長さんだぞ?!大丈夫なの?!」

「うん、あ、あのね、今後の事はこれから考えようって話してて…」

「そうじゃなくて!なぁゲイル、お前は良いの?!」

「クライスさんなら任せられる」

「えっ何その完璧な信頼…」

「うっそあのまったく女性にも政略的結婚にも興味を示さなかったどころかそういう話すら面倒くさがって女性に好かれるような事と真反対の行動ばかり取ってた隊長が?!」

「女性に対しての狙った行動ではなく私は真面目に仕事をしていただけですが」

「隊長の真面目は普通のご令嬢には厳しすぎるんですよ!」

「仕事に女性も男性もないでしょう?」

「ほらっそういう事をめっちゃくちゃ綺麗な笑顔で言うからぁ!」


 …そうなんだ。頭を抱えているレティーツィアには申し訳ないけれど、城でのクライスの様子が聞けて嬉しい。


「カティアさん、何嬉しそうににこにこしてるんですか!まさか隊長にしごかれすぎて感覚がおかしく…」

「え、いえ、クライスさんは優しいですよ?仕事についても褒めてくださる事の方が多いと思います」


 クライスは初対面の時に良い宿だ、と言ってくれた。宿を褒めてくれるという事は、私の仕事ぶりを褒めてくれたという事だろう。


「え…隊長もしかして好きな人にだけは…ってやつですか?やだちょっとときめいちゃうかも」

「とりあえずそのやかましい口を一度閉じましょうか」


 ピシャリと言われて口を閉じるも、2人とも信じられないという顔をし続けている。その顔に、固く決めた覚悟が少し揺らいだ。


「…やっぱり、クライスさんみたいな立派な貴族の方とは釣り合いが取れないんでしょうか…キースとレティーツィアさんを見て、貴族と平民もこんな風に同じ目線で想い合えるんだなって、思ったんですが…」

「逆ですぅ!逆!」


 がばりと机の上に上半身を乗り上げたレティーツィアが向かいに座った私の手を強く握ってきた。


「まず!貴族とか平民は関係ありませんから!そこは安心してくださいね!」

「は、はい」

「あと隊長、ごめんなさい。先程の発言は隊長の本質を知らなかったので取り消します」

「どうぞご自由に」

「カティアさん、隊長は上司としては最高なんですが、女性目線で見ると厳しすぎるし甘い言葉もなければロマンチックなデートプランも立ててくれない現実主義者だと思っていたので、カティアさんみたいな素敵な人にはもったいない、カティアさんは騙されてるんじゃないかって思ってしまったんです」

「俺も、仕事でしか隊長さんを知らないからカティアには合わないんじゃないかと…」


 甘い言葉…どういったものが甘い言葉なのかわからないけれど、かけてくれる言葉は全て真摯に私の事を考えてくれている事がわかるもので、安心させてくれるものだ。甘い…というと、そうだ、クライスはキスをするのに敷居が低い気がする…と先程の裏手での会話も思い出してしまい、相変わらず感情の出やすい私の顔は自分でもわかるほど熱を持ってしまった。


「……あるんですね、甘い言葉」


 レティーツィアがニヤリと笑い、手を離された。


「キース、私達が心配する事は何もないみたい」

「そっか、取り乱して悪かったなカティア」

「そうだ!それこそお祝いしないとね。帰ったらお祝いの品を見繕って届けてもらいましょ」


 椅子に座り直したレティーツィアはキースとお祝いの品は何が良いかという話に花を咲かせ始めた。


「…すみません、クライスさん」

「何を謝る事が?」

「いえ、その、上司としての顔もありますよね…私の所為で顔に泥を塗ってしまったのでは…」

「大丈夫ですよ、仕事中にそんな顔をする事はありませんから」


 クライスはそう言うけれど、威厳とか、印象とか、そういうものに影響はないのだろうかと心配になってしまう。


「そうですわカティアさん。むしろそういう顔をする方だと思われた方がやりやすい事もありますわ」

「そうです、クライスはわたくしの侍女に少しだけ怖がられていますから、帰ったら今日のお話をしてあげたいと思います」

「姫様、それはご勘弁願いたいのですが」


 しばらく成り行きを見守っていたサリタニア達も会話に加わり、また昨夜の食事のような、賑やかな心地よい空気になった。元々まったく関わりのなかった城の人達と平民の私達が知り合い、更にお互いの知り合いのキースとレティーツィアが夫婦になってこうしてみんなでテーブルを囲んでいるというのがとても不思議だけれど、同時にとても幸せな気持ちになる。


「あっそうだ。キース、レティーツィアさん、今日はお泊まりになりますか?よければ今夜、ターニャ達のおかえりなさいのお祝い会をしようと思っているんですが参加してもらえませんか?」

「嬉しい!是非参加させてください!」

「またあのふわふわのケーキ食いたいな」

「まかせて、ケーキももちろん予定してるから」

「お、やった~」

「今日はお手伝いしますよ!本職キッチンメイドにお任せくださいね!」

「私もお手伝いしたいです!」

「えっターニャさんはお祝いされる立場ですが?」

「私だけ仲間はずれは寂しいです…」

「わ、わかりましたからそんな顔なさらないでください。一緒にしましょうね」

「あら、ではわたくしもお手伝いしたいですわ」

「プププリメーラ様とキッチンに立てるだなんて光栄です!」


 レティーツィアが会話に混ざるとそこだけ明るさが増す気がした。周りの人達もレティーツィアのつつみ隠さない表情と言動につられて心を開いて話せるのだと思う。こういうところがクライスからも信頼されているんだろうか。


「カティアさん、なんだか嬉しそうですね」

「はい、こういう雰囲気は今までは外から眺めるだけでした。見ているだけでも楽しい気分にはなれましたが、自分が中に入るとこんなにも幸せなものなんですね」

「…今までは縁がなかったかもしれませんが」


 言葉を切ったクライスに顔を上げそちらを見ると、ひどく優しい色をして私を見つめているアメジストと目が合った。


「これからはきっと、カティアさんの周りは常にこうなっていきますよ」


 これからの事はどうするかまだ決めていないけれど、クライスの穏やかで優しさに満ちた表情に、この人達との繋がりはきっと切れないのだろうと思える事が出来た。


「ふふ、それはとっても嬉しいですね!」


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