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空白空  作者: 退学者
第1章
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Ⅳ:邂逅そして始まり

基本不定期更新になります。なるべく3日に1話は投稿するよう努力致します。ご了承ください。

また、予告なしに本編を修正する場合がございます。

どうにも体が緊張してしまう。

自分達が前に出れば必ず起こることだとは覚悟していたが、いざ言われると言葉が詰まってしまった。


自分達が機械人だとは明かさない方が良いだろう。今の人達が機械をどう思っているか分からない。

それに、心は人間でいたいと思っているから。


「ねえ、なんで黙ってるの?」


さすがに痺れを切らしたのか、少女は今まで組んでいた腕を腰に落とし頬を膨らませて待っていた。


「え、えーと・・・」

「私達は機械じ」

「クウは黙ってて!私が説明するから。」


もういっそのことクウの口にガムテープでも貼っておこうかな。


「・・・もしかして、あなた達は放浪人(ほうろうにん)なの?」


クウがセキュリティと戦っていたこのホールには現在、ピ、ピ、という機械の故障音のような音が広がっていた。

その音は、常に変わらないテンポで音を奏で続けている。

私が少女の言葉を理解するまで、その四分の一拍子で鳴る音は三回鳴った。


「ほ、放浪人?」


私の記憶にも、研究所の記憶にも、一切記載されていない新たな単語。おそらくこの世界にて新しく作られた言葉なのだろう。

放浪人と言っている通り、放浪、つまりさまよい歩いている者達の総称だと思うが、その実態が分からない。


「なんだ、お母さんはあんなに放浪人はとっても危険で残虐だって言ってたけど、全然いい人じゃん。」


私が言うかどうか悩んでいるのを少女がどう解釈したかは分からないが、どうやら良い方向に進んだみたいだ。

先程までの少女の態度はいきなり柔和になり、尖っていた眉も戻っていた。


それにしても・・・残虐?

放浪人はそんなに惨たらしい集団なんだ。

けど、私達には今何かを証明できる身分がないしなー。

それなら放浪人をしばらく身分として使わせて貰おうかな。

嘘をつくのはちょっと申し訳ないけど、私とクウを守るためなの!だから・・・ごめんね。


「うん、そんなの。私達は放浪人。放浪人が世間で嫌われているのは知っていたから身分はあまり明かしたく無かったの。」


よし、我ながら良い返答。


「やっぱりね、じゃないとさっきのあの子の身のこなし様も機械の力ってわけだ。」

「・・・合ってるには合ってるけど、少し違うかな。あれはクウ本来の力だよ。」

「え!?」


「どうやったの?教えて!」

「それは足と腕に付いている独立エ」

「そ、それはまた後でね。」


うん、後で本当にガムテープを買っておこう。


「ああ、それと君に聞いておきたいことがあるのだけど、今いい?」

「全然いいよ。」

「ありがとう。それで、君が住んでいる街ってこの近くにある?」

「どうしてそんなこと聞くの?」


うう、情報収集とは言えないし・・・


「ここ辺りの地理が全く分からなくてね、どうせなら現地の人から地図を買っておきたいの。」

「それなら全然大丈夫だけど・・・放浪人って街に入れる?」


何その質問。

そもそも私達は放浪人じゃないからよく分からないけど、まあ多分大丈夫でしょ。


「一応入れるには入れるよ。」

「そう、それならあたしの家に来てよ。」


突然少女は顎にやっていた手を戻し、そう言ってきた。


「と、突然だね。」

「お母さんが言ってたの。恩には恩で返せって。あたしはあなた達に借りがある。見る限りであなた達、服もボロボロだし食料もなさそう。だから助けてあげるの!」


うーん、服は分からないけど食料は太陽光で大丈夫だけど・・・この世界のことを知りたいし、乗っておかない手はないよね。


「それなら、その言葉に甘えさせてもらおうかな。」

「じゃあ決まりね、あたしに付いて来て。」


そう言うと少女は足早に荷物の準備をし始めた。


「ねえクウ、棺くんって服も作れるの?」

「材料しだいでは作れます。」

「・・・棺くん万能すぎるでしょ。」


しばらくして


「こっちは準備できた。あなた達は?」

「えーと・・・あ!」

「何かあった?」

「そういえばまだどちらも名乗ってなかったなって。」

「ああ、確かに。」


「私はそら、そしてこっちが私の妹のクウだよ。」

「あたしはあや、よろしく!」


◇◇◇


「そういえば、あやって何であんな危険な所に一人でいたの?」

「え、あそこの希少性を知らないで潜ってたの?」


もう既に荒廃した街を歩いて一時間、流石に暇になってきて何かあたりざわりのない世間話でもしようと、あやにそう話しかけたところ思わぬ返答が返ってきた。


「あそこはもう作れないってされている機械の宝庫なんだよ?」


そして、続いて出てきた返答は数時間前の私を褒めるべきだと思うほどだった。


既に機械文明が滅びているから機械技術は相当衰えていると推測していたけど・・・まさかのもう作れないものとされていたなんて。

良かった、あそこでクウの口を塞いで私が嘘をついていなかったらどうなっていたことやら。


それからもう少しあやにその話を深堀って聞いてみた。

すると、思わぬ衝撃的なものを聞いた。


「・・・つまるところ、今の人達は機械文明の遺物を使って生活しているんだ。」

「おそらくそうでしょう。物にはよりますが、約2000年間放置された機械でも動くのはセキュリティの時点で判明しています。」

「・・・ねえ。」


そう私達が考察していると、少しキョトンとした顔のあやが話してきた。


「どうしたの?」

「その・・・機械文明ってなに?」

「え。」


なんと、あやは機械文明のことを知らなかったのだ。


「じゃ、じゃあ、あやは機械のことをどう思ってるの?」

「そういう、存在?」

「・・・」


どういうこと、なんで機械は知っているのに機械文明のことは知らないの。


「時間の風化でしょうね。」


クウは慌てる私とは点対称に、そして感情の籠らない声が私の耳元で囁いた。


ああ、そういうことか。

道具が摩耗しても替えさえすれば、動き記憶し続ける機械とは違い、人は2000年の間に何回も世代が変わる。

初めこそ機械文明という存在は認識されていただろう。だが、時間はそれすら忘却の彼方に捨ててしまう。

少し時間が経っただけでも、人々は記憶を忘れ塗り替えられる。そしてそれが歴史になり、今に受け継がれてしまう。

それが永遠に続いていく。


じゃあ、もう機械文明を知っているのは、私達だけなんだ。

記憶はないけど、確かに私が存在した記憶。

少しだけ、ほんの少しだけ虚しい気持ちが込み上がった。


「・・・」

「そら!どうしたの?」

「?・・・あ、ごめん気づかなかったみたい。」

「ほら、街が見えてきたよ!早く行こ。」

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