Ⅱ:相容れない同形
悲鳴の元へ向かう最中、私はあることに気がついた。
1つ目は悲鳴が聞こえなくなったこと。だが代わりに奥へ向かえば向かうほど壁の損傷が激しくなっている。
そしてもう1つは・・・いつの間にかクウは背中に謎の黒くででかい棺のような箱を背負っていたことだ。
「・・・なにその棺みたいなやつ。」
「これは他律式共鳴錬金装置RM247です。」
「長い長い。」
「何がですか?」
「その、なんとか錬金装置の名前!何か短い名前付けなよ。」
「それならお姉ちゃんが決めてください。私には命名のセンスがありません。」
「え、あーうーん・・・なら棺くんで。」
棺みたいな見た目だしそれでいいでしょ。
「それで、棺くんにはどんな能力があるの?今のところ錬金装置ってことしか分からないんだけど。」
「はい、他律式・・・棺くんは言葉の通り錬金装置になります。」
話の要約はこうだった。
棺くんはほぼ全ての素材に適応しており、その素材を入れるだけで様々なものを作れる。また共鳴なる機能が付いており、触れるだけで本人と思考の同期をし自動で錬金したいものを作る。
それと棺くんに電池切れはないらしい。私には分からなかったがエネルギーの循環をしているそう。
本来は便利用品として作られたが、製造の過程で重量的問題に直面し機械人である私達に渡ってきた。
それ以外のことも話してくれたが、後は殆ど理解ができなかった。
「・・・つまり、基本素材を入れればなんでも作れるってこと?」
「はい。それで間違いありません。」
クウもそう言ってるし、特に深く考えなくていいか。
とまあそんな余談をしていると、いつの間にか衝突音が聞こえてきた。
確かこちらの奥には広いホールがある。おそらく悲鳴をあげてた人はそこで何かと応戦をしている。
間に合って!
そんな願望を胸にのせて狭い通路を抜けると、辺りの視界は開けた。
そして、その奥では人型の機械と戦っている1人の少女がいた。
「あれはセキュリティですね。」
クウはあれの正体に気づいたみたい。
セキュリティ・・・研究所の記憶にも載ってたけど、まだ動いてるんだ。
「おそらくあのセキュリティはほぼ全ての機能が壊れており、ただ無闇に人を襲う機械に成り代わっています。」
「つまるところ、倒さないといけないわけだね。」
「そらお姉ちゃん、ここは私に任せて貰えませんか?」
「え?全然いいけど・・・」
てか私にまだ同胞を殺す勇気なんてないから普通にクウに倒させようとしてたし。
「ありがとうございます。」
「何かやりたいことでもあるの?」
「はい、棺くんの性能を確かめておこうと。」
クウはそう言うとおもむろに棺くんを背中から下ろして準備をし始めた。
「お姉ちゃん、そこら辺に落ちている鉄片を拾って持ってきてくれませんか?」
いやそんな道に鉄片なんてさ落ちてるわけ・・・全然落ちてるじゃん。そういえばあのセキュリティがここに来るまで沢山壁を壊していたんだった。
そして急いで鉄片を集めた。
戻った時には棺くんは準備が出来たのか口を開けているように見える。
「こちらに放ってもらって大丈夫です。」
およそ20枚の鉄片は別に重くはなかったが、クウもそう言ってるし何となく一気に詰め込んだ。
最初こそちょっと詰まって心配したが、それは杞憂に終わり結局ものの数秒で棺くんは鉄片を呑み込んだ。
一見何の変化も見られないが、実際は微かに揺れており棺くんの中で準備が開始されている。
数十秒でその揺れはおさまり、今度はクウが行動をし始めた。
クウは棺くんに近づきその本体に触れると、そこに立ち止まり目を瞑った。
おそらく今やっている行動が共鳴。棺くんに触れ、思考の同期をする。その状態なのだろう。
しばらくした後、クウは閉じていた目を開いた。
それと同時に、棺くんはおそらく口であろう部分から一振の短剣を吐き出した。
・・・本当に出来ちゃうんだ。
「強度は・・・問題ありませんね。では、行ってきます。」
クウは短剣を少しばかり振り回し強度の確認をすると、そのままセキュリティに向かって行ってしまった。
「い、いってらっしゃい。」
私がそれを言った時クウは既に私の視界から消えていて、気づいた時にはセキュリティの頭部に刺さっている短剣と1人の少女の姿があった。
私には、ここからでも驚きと困惑の顔をしている少女の顔がよく見えていた。
◇◇◇
今日、もうあたしは死ぬんだと覚悟していた。
レアな機械を求めてここに来たはいいけど、開始早々あのセキュリティに見つかってなんとか逃げていた。
けどあたしには戦闘なんてできる腕前も技術もない。
逃げることに夢中で気づいたらこのホールに来ちゃって、もうダメなんだって思った。
そんな時、窓から差し込む太陽の光があたしの目にあたった。焦ったあたしは目を閉じると、それと同時に目の前から雷みたいな轟音がホールに鳴り響いた。
音が聞こえなくなって恐る恐る目を開けると、セキュリティは壊れていた。
太陽光に反射する剥き出しの短剣と、あたしと同じくらいの少女を頭に乗せながら。
「大丈夫ですか?」
「え・・・あ、はい。」
動揺して間抜けな声が出てしまう。
それもそのはず、街の皆もお母さんも放浪人も、セキュリティに遭遇したらまず勝ち目はない。なるべく音を立てずにその場を離れろと言われている。
それをたった一撃で倒すなんて・・・
「足が無事でしたらすぐにあちらの通路に逃げてください。私のお姉ちゃんがいるはずてす。」
「このセキュリティは元々群れで行動するようプログラムされています。たとえ長年の劣化によりその機能が失われていても、同胞が殺されたのなら必ず私に仇を討ちに来ます。」
「???」
何の話?
「要するに、あなたは足でまといなので早く逃げてください。」
「・・・」
「なんかクウがとても余計な発言をした気がする。」