Ⅰ:変数が死んだ世界
基本不定期更新になります。なるべく3日に1話は投稿するよう努力致します。ご了承ください。
また、予告なしに本編を修正する場合がございます。
それは、鼠色の髪に薄く赤のグラデーションがかかった目を持つ顔。
間違いなく私。それ以外ありえない。
「・・・」
どうして黙って私を見ているのだろうか。
なんだか自分に見られているという感覚は、どうにも慣れない。
「・・・なるほど。」
目の前にいる少女は何かを理解したのか、少しの間を置き話し始める。
「私はそらお姉様の妹、クウであります。そして私はお姉様と同じ、機械人です。」
・・・は?何を言っているの。
機械人?私は人間だ。そんな機械になった覚えなんてない。
それともなに、ドッキリ?
「思い出せませんか?」
「・・・」
「ふむ、恐らく私と同じで記憶メモリに損傷があるのでしょう。私に付いてきてください。」
クウと名乗る少女はそう言うと、今まで私のために曲げていた膝をまた立てて、奥の部屋へと歩き出した。
その後ろ姿は段々と暗闇に消えていく。
「ま、待って!」
私は走ってクウの後ろに追いついた。
結局私はああ言いながら、自分の正体を気になってしまったのだろうか。
「・・・あの、そういえばこれってどこに向かうの?」
「この研究所の中心部分です。」
「な、なんでその中心部分に行く必要があるの?」
「記憶の読み取りです。私もそれのお陰で大体のことを思い出しました。」
「記憶の・・・読み取り?」
「はい、お姉様と私は双子として作られました。ですから私が出来たということはお姉様も出来るでしょう。」
「・・・?」
「そらお姉様もやればきっと分かると思います。」
「???」
なんだか違う言語の人と話しているような感覚。
頭おかしくなりそう。
そのまま太陽光のみが照らす古びた廊下を歩いていくと、おもむろに奥になにかありそうな大きな扉が現れた。
「どうやら閉まってしまったようですね。少々お待ちを。」
クウはそう言うと閉ざされた扉に1人だけで向かっていく。
解除キーでもあるのかな。
「ふんっ」
そして気づくとクウは扉の目の前に着いており、何をするかと思うと、それをクウは蹴りで無理やりこじ開けた。
辺りからは扉が砕けた音が不協和音を奏で、部屋の奥からは恐らく扉だったものが壁とぶつかり激しい衝突音が聞こえる。
「さあ、こちらに。」
・・・私に、こんな力あるわけないじゃん。絶対。うん、絶対。ありえないから。たとえ老朽化してる扉でも。
自分の常識だと思っていたものがどんどんと崩れ落ちる音に、私はなかなかその現実を受け止めることができなかった。
◇◇◇
さて、あの扉の件があってからはや5分ほど。私達は未だにこの薄暗い道を歩いている。
クウはここが研究所だって言ってたけど、どんだけ広いの。全然遅く歩いてるつもりなんてないと思うんだけど。
「・・・ねえクウ、この研究所の中心ってあとどれくらいなの?」
「そういえば伝えていませんでしたね。もうすぐここの中心部分には着きます。」
良かった、もうそろそろ着くんだ。
「奥に光が見えませんか?」
「うーん・・・あ、本当だ。」
クウが指を指す方向へと目を凝らすと、そこには微かにだが太陽の光が見えた気がする。
さっきも太陽の光を浴びたばかりなのに、なんだかとても懐かしく感じてしまう。
そして少しばかり小走りになりながら光が指す方向へと曲がると、そこにはその部屋の大部分を使っている大きな端末が木や苔、虫などを携えながらそびえ立っていた。
「大きい・・・」
「これがこの研究所のメイン端末になります。」
そのメイン端末に近づき表面を触ってみると、少しだけ暖かい感じがした。太陽光に晒されているせいだろうか。
「ちなみにこれは今も稼働しています。」
「え!?」
確か私が起きた時にクウが2000年ぶりとか言ってなかったっけ。
・・・はえー、すご。
「さて、そらお姉様。ここに来た目的は忘れていませんよね?」
「う、うん。記憶の読み取り、だよね?」
「はい、機械の読み取りはその機械が動いてないと元も子もありません。かのメイン端末がいつまで保つかも分かりませんし、早めに行いましょう。」
「こちらに、手をかざして下さい。」
クウがそうして提示した場所は、恐らくこのメイン端末の根幹部分となる場所なのだろう。
「ここに手を置くだけでいいの?」
「そうです。」
おそるおそる手を置いた。
やっぱり微かに暖かい。
「何も感じないんだけ・・・うっ」
突然、猛烈な吐き気と頭痛に襲われる。
それは私の視界を瞬時に歪ませ立てないほどだった。
ズキズキ
何かが手から伝わって強制的に頭の中へ入っていき、脳に直接焼かれている。
ズキズキズキズキ
記憶の併合。今まで空白となっていた私が起きる以前の記憶、そこに研究所が記録していた記憶が、紙に水が染み込むように段々と重なっていく。
ズキズキズキズキズキズキ
体の全体に染み渡り、あたかもそれが私の記憶だと錯覚してしまう。
その記憶では、私が機械の人であると確かに証明していた。
「!!・・・はあ、はあ」
「お姉様、大丈夫ですか?」
「はあ、はあ・・・クウ?」
「はい、お姉様の妹のクウでございますが。なにか異常が起こりましたか?」
「た、多分大丈夫。」
記憶の浸透が終わると、自然と吐き気と頭痛は治まった。
「おそらく記憶の流し込みによる拒絶反応が発生したのでしょう。しばらく休めば良くなるはずです。」
「いや、もう吐き気と頭痛も治まったし大丈夫だよ。」
「・・・それよりもさ、さっき流し込んできた記憶の整理がしたいんだけど、いい?」
「分かりました。私に分かることがあれば答えましょう。」
研究所の記憶で見た現実。
その中で、確かにあった文明・・・
「・・・機械、文明ってのがあったの?」
「そうです。およそ2000年前、機械文明という文明が発展していました。そしてそこで私達双子も作られました。しかしながら何かによりその機械文明は滅び、運良く最地下の廃棄場にいた私達は助かりました。また私達は実験の初号機だったため特別に作られており多少の内部の損傷におさまり、月日が経ち屋根が崩れ太陽光を検知し再起動しました。」
「・・・本当に私は、機械、なの?」
「はい。恐らく私もそらお姉様と同じ状況ならそのような反応をしていたでしょう。しかし私には何かしらの異常により感情というものがありません。まあそれが助かった要因でもあるのですが。」
そういえば、夢で見た気がする。私の目の前にいた人が何かの処分の話をしていたことを。
あの時はぼんやりとしていたけど、今私の中にある研究所の記憶がそれを鮮明にしてくれた。
そっか、本当に私は機械なんだ。
もう認めるしかないほどにあの記憶は真実を物語っている。
たとえ私がいくら否定しても否定できない現実。
変えられない過去。
「うん、大体理解した・・・それはそうとさ、これからどうするの?」
「私には決めかねます。」
「そう、ならひとまずここを出よ。」
そうして私達はこの研究所から出ようとした。
しかし
「きゃあああ!」
突然と悲鳴が研究所全体に響き渡る。
「お姉様、どうしますか?」
私はもう十分に自分が機械なんだと自覚した。だが、人を心を捨てた訳ではない。そんな、損得で選ぶなんてクソ喰らえだ。
「助けに行こう。」
「分かりました、そらお姉様。」
けどその前に1つやりたいことがあったんだった。
「クウ、その"お姉様"ってやめてくれない。」
「それならどうお呼びすれば良いですか?」
「うーん・・・」
恐らくクウは呼び捨てにしてとでも言ったら出来ませんなどと言うだろう。
うう、けどやだなー。
「・・・せめてお姉ちゃんにして。あと、なるべくその敬語はやめて!」
「はい、善処します。そらお姉ちゃん。」
うん、結局敬語。