絆の亀裂
「行くぞホーリー、闇渦門」
リミュは腰に刺していた剣を抜き、天に掲げた。
リミュの剣は周りの光を吸い込み、東西南北の視認は不可能と言い切れるぐらいの暗さになる。
自分が視認できるのがやっとで、隣にいるはずのジルラギルさんですら、いるかどうか分からない程の暗闇に染った。
「ゴフッ」
暗闇の中で、ホーリーの苦しそうな声が響いた。
「リミュ!闇渦門を解除して!!」
なにかの恐ろしい気配を感じて、俺は叫んでいた。
暗闇が解除され、周りが視認できるようになった。
俺たちの目の前には、背中から貫通したリミュの剣が刺さるホーリーの姿があった。
「ゴフッ、リ、ミュ」
ホーリーは血を吐きながら、気を失った。
「俺じゃ、俺じゃない!!俺がホーリーを刺すなんてことするわけが無いだろ!グラディ、ジルラギルさん信じてくれ!」
当たり前だ、リミュがホーリーを刺すなんて有り得ない、じゃあ誰が。
そう思考しようとしていた矢先だった、
「そんな言葉を信じられるわけが無いだろう、確かにこれまで貴様を教えてきた、だが魔物を総べる者の本性を表したな!」
ジルラギルさん何を言ってるんだ、リミュはそんなことしないに決まってるだろ。
「ジルラギルさん、そんなふうに思ってたのか。折角、折角信じてくれる人が増えたと思ったのに!」
リミュの魔力が一瞬で膨大した。
「やはり醜き魔物だな」
ジルラギルさんは、一瞬で姿を消した。
次に出現したのは、リミュの背後だった。
首元に手刀を一撃。
リミュは為す術なく意識を失った。
「グラディ、こいつは友人では無い、人間族の英雄を殺した大罪人だ。二度と交わろうとするなよ」
その冷たい言葉は本当にジルラギルさんなのか、疑ってしまうほど別人に感じた。
すぐに衛兵が駆け込み、ホーリーは治療に、リミュは牢屋に投獄された。
その後、裁判で俺はその時の関係者として呼び出された。
「グラディ、お前は何も見ていない、見たのは勇者を殺した魔王だけだ。わかったな」
あの時は気が動転していて、それが当たり前だと思っていた。
けど、当たり前じゃない。
「ジルラギルさんは本当にリミュが刺したと思っているの?」
「当たり前だ、あの時他に誰が刺せたのだ。」
確かに、リミュの持っていた剣がホーリーの体を貫通していた。
だけど、背中からさしたのに、暗闇が晴れた時に立っていたのはホーリーの前で、剣を見て1番動揺して、すぐに自らの手を確認していた。
そんな反応を自分で刺したのにするわけが無い。
なにより、まだ15歳程度の子供だ。
そんな演技を考えつくわけが無い。
「まさか、お前はリミュは刺していないとかほざくんじゃないだろうな。あの状況的にリミュ以外にはありえないからな」
絶対に、リミュじゃないのに。
怒りを飲み込んで、いや飲み込まないといけなかった。
大人はみんなリミュが刺したと思っている。
魔王と勇者が馴れ合うこと自体がおかしかったと言い始め、元々勇者を殺す目的だったと勝手に決めつけていく。
リミュは絶対にそんなことはしない。
そう信じるのは俺だけだった。
その事件が起きてから3日、リミュは処刑されることが決まった。
「リミュは絶対にそんなことしていないのに」
リミュの処刑の確定ともうひとつ、ホーリーが死んだ。
俺はショックで家で寝込んでいた。
同時に信じてくれていた友人二人が居なくなった。
コンコン
家のドアを誰かが叩いた。
「はい、どちら様ですか」
玄関を開けると、黒いフードを着て、顔を隠すフードを被った人がいた。
「グラディ、グラディは信じてくれるよな」
その人物はリミュだった。
「リミュ、俺は信じてるから、一緒に戦おう」
その言葉にリミュは首を横に振った。
「俺はこれから指名手配になる。グラディ、ホーリーは必ず帰ってくる。そして、俺が次に会う時は敵だ。その時は止めてくれ。」
リミュが敵になる、そんなの信じられない。
リミュを止めようとしたが、すぐに居なくなってしまった。
街ではリミュの指名手配と、ホーリーの葬儀が行われていた。
「憎き魔王を殺せ!!」「勇者様を殺した魔王を屠るのだ!!」「魔物と相容れるなんて不可能だったんだ!魔物全て殺すのだ!!」
物騒な言葉が飛び交っている。
それを止める力は俺にないのか、、、