軍師
キィーンという金属音が何度も響きわたる。
その度に火花が散り、賢絃と靂時雨の頬に当たり散っていく。
刃を合わせる度に仲間であるとか、敵である、友人である全てを忘れ、ただただ今の戦いを1人の武人として愉しむ二人。
スキルとかそんな野暮なものは使わず、ただ刀を合わせるだけ。
その打ち合いに俺たちは見蕩れていた。
少し前までどっちにも勝ってほしくないとか、この戦いで全てが終わるのかとか考えていた。
そんなのはどうでもいい、この戦いをただ見ていたい。
数多の実力者の目を釘付けにし、勇者や魔王、皇帝ですらその2人の戦いを一言も発さず、憧れの眼差しで火花を見ている。
少しずつ身体に傷がついて行き、赤い火花と共に深紅の血が舞う。
地面には血の雫が落ちる。
何十度、何百度、何千度と刃を合わせ、少しずつ息が上がり、少しずつ動きが遅くなっていく。
「時雨よ、今我々の想いは同じだろう。」
「あぁ、ただ愉しむのみ。」
2人の疲れとは反対に刀の蒼き炎と紅き炎はごうごうと燃え盛る。
その炎は刃が交わる時に色も混じり、紫炎へと変わる。
戦いを愉しむ、その気持ちを1番に2人は親友であるお互いの命を取ろうとしている。
止めたい、けど止めたくない。
目を輝かせながら、それでも今の戦いを俺達も楽しんでいた。
「時雨よ、私はどこで道を違えたと思う。」
賢絃は壮絶な打ち合いの中、会話を始めた。
「どこも違えていない、自らが信じる道を進んだ結果に過ぎない。」
その会話が始まった時、少しずつ賢絃に入る傷が増えてきた。
「やはり、刃において時雨を超えることは出来ないか。」
キィーンという音と同時に2人は立ち止まった。
「次が最後だな、時雨。最期に刃を合わせれて良かった。」
賢絃の持つ刀の炎は更に轟々と燃えた。
それに応えるように、靂時雨の蒼炎も更に炎が強くなる。
『狼絃将鳴切』
『桜虎霹切』
最後の一閃を振り切った両者。
カランと靂の刀が折れて地面に落ちた。
その後ろで、賢絃の来ていた鎧が割れ、血を吹き出し、地面に伏した。
「賢絃、最期に聞かせろ。何故我々を裏切った。」
結界が解かれ、ストレイグが倒れている賢絃に聞いた。
「私はスレイ様に従ううちに世界の終焉を招いて良いものなのかを疑うようになりました。軍師と崇められ、生涯支え合えると思える親友も出来ました。しかし、我々だけの繁栄は永久に続くことは無い、刹那の繁栄に私の力を捧げるつもりはない。終焉の神を復活させることで我々の結束は強くなり、その結果スレイ様とセバル様は婚姻が出来ました。私は既に終焉の神を復活させるつもりはありません。完全なる封印の方法は会議室に置いています。スレイ様、これまであなたに仕えることが出来て幸せでした。」
そう言って目を閉じた。
スレイは拳を強く握り、涙は流さないがとても悔しそうだった。
「ではアロリエル様、ネロム様。すぐに回収を。」
リフュレスの指示に、アロリエルは頷き、ネロムと共に会議室に向かった。
「さて、まだ話を聞きたいことは沢山あります。リーズィー、グラディ、リレイヤ手伝って。これより、軍師賢絋の蘇生を行います。」
この世界にはチートスキルの持ち主はごまんといる。
しかし、完全なる蘇生は未だになしえていない。
「お姉様、蘇生と言ってもそれは不可能に近いのでは。我々も回復の心得はありますが、蘇生は。」
リフュレスは首を横に振った。
「確実に蘇生できるでしょう。リーズィーそうよね?」
「はい、我々の時の力とエルフ族の力があれば蘇生がおこなえます。グラディ、合わせれるか。」
俺は力強く頷いて、リーズィーと共に賢絋の胸元に両手を触れる。
俺は時を戻し身体中の傷を癒す。
リーズィーは時を進めて血をめぐらせる。
それにより、死んだことを無かったことにする。
少しずつ賢絋の体に血色が戻っていく。
しかし、それだけでは生き返ることは出来ない。
「リレイヤ、私たちの出番よ。」
「はい、お姉様。」
リフュレスは賢絋の身体全体に結界を張った。
リレイヤは魂を呼び戻して賢絋の身体に入れていく。
蘇生が不可能な理由は大きくふたつ。
死んだ生物からは魂が抜け、その魂が入るには生きた身体にまた浸透させなければならないこと。
そして、身体の傷が癒えても筋肉や血が動きを止めているため、傷を癒しつつ、筋肉や血も加速させるということを同時にしなければならない。
つまり、どれだけ回復術に優れようと魂を留める方法が必要で、身体の時を進めることと戻すことが同時にできるという不可能に近いことをしなければならない。
これを実現したのが今の4人。
時を操る能力を持つ俺とリーズィー。
回復術においては右に出るものが居ない女神リレイヤ、冥王リフュレスの結界により蘇生術を行う。
「魂は安定しました。あとは起きるのを待つだけ。」
リフュレスの宣言に、ずっと耐えていた涙をこぼすスレイ。
姉の珍しい涙に弟であるビスレイグも共に涙する。
普段は寡黙な靂時雨ですら大粒の涙を零して、賢絋の蘇生を喜んだ。
三日後。
「なぜ、私は生きている。」
賢絋が目を覚ました。
スレイとビスレイグは賢絋に抱きつき、靂時雨はその光景を眺めながら、親友の蘇生を祝福した。
「賢絋様、事情は円卓の場でお話します。」
円卓の場では賢絋の蘇生を心待ちにしているみんながいた。
「軍師様、あなたのご意見がなくては我々は何もできません。」
アロリエルの言葉に賢絃は笑い。
「全て聞かせてください。軍師賢絃の全ての知恵を集い、最適解を導きましょう。」
心強い仲間が加わった。
終焉の神の封印、これが終われば本当に最後だ。
まぁそんな簡単に行くことは無いと思うけど。




