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偽りの顔

「俺は獣人族の軍師として、叡智を司る神として演じてきた、そう簡単にバレないように吐き気のするような顔を演じてきた。貴様らも簡単に騙せていると思ったのだがな。」

 ギラギラとした歯を覗かせながら、下卑た笑いを浮かべるその顔に、これまでの賢絃の叡智は一切感じなかった。

「まずはあなたの問いに答えましょう、何故あなたが神官だと気づいたのか、それはあなたがそこにいること、そして私のスキルが決め手となりました。」

 ホーリーが説明を始めた。

「私のスキルは私が信頼して、相手も信頼している場合長期的な思考を読めます。まぁもう少し詳細に話すことはありますが、大まかにはこのようなスキルです。今この場で、その思考が読めない相手はあなただけでした。」

「なるほどな、信頼しているようにも演技したがそれすらも貫通すると。」

 少し納得したように賢絃はスキルを理解しようとする。

「いえ、あなたの思考は全て読めていましたよ。しっかりと偽の思考を見せられていました。この場に至るまで私はあなたを信頼していました。ただ、あなたが犯したミスは一つだけ、そちらに座ったことです。」

「何故ここに座ることがミスになったのかな?最期にそれを聞かせて欲しい。」

 その問いかける姿に、少しだけ以前の賢絃の姿が重なった。

「そちらに座った後、リーズィーは神官の話を始めました。そして、セバルが激昂し、自らの剣に手をかけた瞬間、あなたの思考は移り変わり、世界の終焉を写していました。」

 その油断は誰でも有り得る話だ。

 その激昂は場合によってはそのまま世界の終焉へと繋がる。

「恥ずかしいな、全て勇者の掌でみんなが踊っていたということか。」

 セバルは少し恥ずかしがりながら、髪の毛を掻く。

「なるほどな、確かに踊っていたようだ。」

 少しの安堵の瞬間。

「貴様らがな!」

 その瞬間、賢絃が真っ先に狙ったのはリミュだった。

 賢絃の抜いた刃はリミュの命を刈り取るには容易いことだろう。

 咄嗟に魔族が守ろうとするが、間に合わない。

 俺もタイムルーラーを発動しようとしたが、間に合わなかった。

 俺は大事な友人を失うのか、、、

「見下されたものだ。仮にも俺は魔王の名を冠することを許された。その名に恥じぬ実力を、魔族全てを統率できるように日々自らの力を伸ばしているというのに。」

 天井に折れた刃が突き刺さる。

 リミュの方に目をやると、リミュは銀色に輝いていた。

「バーストスキル『白銀装甲』、このスキルは如何なる邪悪な攻撃も防げる。俺が知る限りはこのスキルを習得したのは俺だけだ。」

 リミュ腕を組み、攻撃を簡単に防いでいた。

 そして、煽るように賢絃にニヤリと笑顔を浮かべる。

 多分俺なら速攻でぶん殴ってる。

「流石種族の王だ。想定外の行動はいくらでもある、と。ならば今は逃げるのみ。」

 逃走を試みようとする賢絃。

「ふざけるな!」

 とてつもない轟音が響き、賢絃の方へ入口にあったはずの扉が飛んでくる。

 賢絃は簡単にその扉を受け流した。

「スレイ様どうされましたか?」

「今この時、獣聖戦を行う。」

 獣聖戦?なんだそれは。

「そして、我が将軍ストレイグの権限を持ち、この獣聖戦に負けた時、将軍ストレイグ、副将軍ビスレイグ、刀王靂時雨は自害する。」

 は?何を言っている。

「ふむ、では軍師賢絃として最後の戦いとしましょう。獣聖戦の開催に同意する。そして、この獣聖戦に負けた時、軍師賢絃は自害する。ではスレイ様やり合いましょうか?」

 ただならぬ空気感に、息が詰まる。

「何を言っている、お前と戦うのは靂時雨だ。」

 普段は無口でただでさえ怖い目付きが今日は一段と鋭く見える。

「お前らに告ぐ、これは獣人の国ビースティアの戦いである。手出しは無用。ただこれより起こる戦いを見ていてくれ。」

 そして、ストレイグ、ビスレイグ、靂時雨は短い刀を取りだした。

 それに応えるかのように賢絃も短い刀を取り出す。

「少し待って。」

 リフュレスが口を開く。

「貴様、我々の戦いに水を刺す気か。」

 分かりやすく怒りの感情をうかべ、耳がピンと立つストレイグ達。

「違います、ここで全力で戦われては我々にも多少の害が生じます。そのためフィールドを整えます。」

 パチンと指を鳴らすと、円卓の場から荒野に移動した。

「この戦いの見届け人として、冥王の名は不足していますか?」

 ストレイグは首を横に振った。

「いや、助かる。」

 そして、リフュレスは賢絃と靂時雨を囲うように結界を張った。

 この戦いは1つの国を滅ぼすか、世界を救うかの戦いだ。

「賢絃、私は貴様に嫉妬していた。どれだけ私が敵を斬ろうとも称えられるのは貴様だ。刀王の2つ名を賜り、世界に名を馳せても、貴様は叡智を司る神として世界で知られていた。貴様への尊敬と同じぐらいに貴様を斬りたいと思っていたよ。」

 靂時雨の目が紅く輝いたように見えた。

「時雨よ、今この時の言葉は友人として、賢絃としての言葉だ。私にとって最も信頼できる将は時雨だった。いつどこで配置してもお前が負けるような未来は見えなかった。しかし、嫉妬しているというのは私も同様だ。どれだけ私が策を巡らせようとお前以上の武勇は魅せられないのだ。どちらの尊敬が、嫉妬が勝るかの戦いだ。今この時は獣人族の軍師である私の血が滾る。血湧き肉躍るこの戦い、闘志が枯れるまで死合おう。」

 賢絃の折れたはずの刀が蒼い炎で包まれる。

 鞘から抜いた刀が一筋の光を作る。

 その刀は紅い炎を纏う。

 そして、靂時雨は遠吠えする。

 その遠吠えは悲しくも聞こえ、今このときを楽しもうとしているようにも聞こえる。

「開戦。」

 小さくも響くようなストレイグの声。

 地面を蹴り上げ、ふたつの刃がぶつかる。

 結界は強く張っているはずなのにその衝撃を感じた。

 その衝撃は獣人族の全てが詰まっていると言っても過言では無い。

 そして、その一筋に全員が一気に惹かれ、ただ戦いを見届ける。

 なんでだろう、どっちにも勝って欲しくない。

 負けて欲しくない。

 そんなこと思うのは俺だけなんだろうか。

 

 

 

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