隠れている記憶
最終決戦に向けて、他種族との連携力を高める。
リーズィーと戦うのは、会議のメンバーだけ。
種族の衛兵達は市民を守ることを優先させることにした。
人間族の指示はナイトレストが行い、ホーリーは未だ死んだままとしていた。
なぜ死んだままにするのか聞くと、「ただ動きやすいから」と単純明快な理由だった。
普通だったら次の勇者を任命されていてもおかしくないのだが、ナイトレストが裏回しをしたらしく、未だに次の勇者は決まっていないらしい。
今は俺とホーリー2人だからいいけど、バラされたら大変だな。
しかし、段々と民衆の声は強くなり、そろそろ隠し通すことも難しいらしい。
ジルラギルもといリーズィーも国から出ていったため、頼れる人が少ないと嘆いてる人もいるらしい。
リーズィーは終焉の神を復活させるためとはいえ、多数の人間の信頼を経ている。
そこまで演技してたのかな。
倒すと決めた心に揺らぎが生じた。
「だからこそ、何故そこまでして俺たちの信頼を得たのかを聞きたいんだよ。」
気づけなかった悔しさと純粋な興味が入り交じった感情なのだろう、俺も同じだ。
リーズィーが裏切るなんて、俺もそうだし、リミュも気づけていない。
その中でも、ホーリーは人の心を読むことには長けていると思うし、未来を見ているように感じる。
そんなホーリーでもリーズィーが裏切るなんて分からなかったんだ。
だからこそ、悔しさがあるし、それほどまでに信頼をしていた。
俺のスキルの指導もリーズィーに任せていたほど信用していたのだろう。
俺も隣にいるととても気持ちが安らぐし、リミュ、ホーリーのさらに兄のように感じていたぐらいには俺も信用していた。
あの時のリミュに大罪人と言い放った時の顔は未だに頭から離れない。
「まぁ、とりあえずリーズィーと話すのはリミュを助けてからだ。その為にはもっと強くならないと。」
無言で、それでも力強く頷き、リミュを救うという覚悟を決める。
何度目か分からない会議、作戦を立てる賢絃、アロリエル、ネロム、ナイトレスト、ホピリスの目にはくまができている。
昨日も日付を越しているのに会議してたしな。
「まず結論から、今現状で犠牲0で勝つのはほぼ不可能と言えるだろう。恐らく勝つことに関しては問題は無い。リフュレスの報告や我々のスキル連携力の上昇は目覚しい、しかし犠牲0という壁が大きすぎる。誰かしらの犠牲を払わねば勝つことは難しい。」
賢絃の冷酷な報告に沈黙が流れる。
誰かしらの犠牲、つまりは誰かが死ぬ可能性がある。
「ならばまず最初に守るべきは種族の王だろう。我々は捨て駒と言えるだろう。」
サクリアルの言葉にアロリエル、ラムリアルも頷く、オガセバルの幸せを守るための捨て駒になるということに躊躇いはないようだ。
「何を言っている、お前たちが居なくては私は無い、そんな中で幸せになど」
オガセバルもこの3人を信頼しているからこそ、この場にいるのだろう。
「セバル様、今この場はおままごとでは無いのですよ。あなたのわがままは我々全員の死に繋がるのです。」
オガセバルは、アロリエルの冷たい言葉に悔しそうな、悲しそうな顔をしながら口を閉ざした。
「セバルくんのわがままかもしれないけど、今のみんなの心情を代表して言ってるだけだと思うわよ。リエルくんもそれは分かっているでしょう?」
リレイヤの優しい声が場を包むような感じがした。
「もちろん私たちだって死にたくは無い、しかし誰かしらの犠牲を払わねば、勝てない。もし勝てなかったら我々の犠牲を失う代わりに全てが犠牲になるんだぞ。その天秤を見誤ることは世界の破滅に繋がる。」
会議がヒートアップする。
今の俺にこの場は少しきつい。
少なくとも事の発端である終焉の神は俺で、この怒号も俺のせいだと言える。
なら、俺が今言えることは、
「なら俺が強くなる。『タイムルーラー』を直ぐに使いこなせるように、時を自由自在に支配できるように俺は誰の犠牲も見たくないんだ!」
俺の言葉にまた沈黙が流れる、この沈黙は呆れか、それとも。
パチパチパチ
その音は獣人族の方から鳴っている。
全員がその音の方向へ振り向く。
「よく言った、今現状私の不安材料はお前の覚悟だ。ここ数週間で我々の親睦は深まったが、お前の覚悟はまだ量れなかった。お前のその覚悟に我々が応える方法は作戦を見つけることだけだ。」
その言葉に呼応するように、ダンっと机を叩く音が響いた
「賢絃殿、私は私を忘れていたようだ。グラディ感謝する。ここまで弱気になっていれば、弓の精度も落ちるわけだ。私は弓帝アロリエル、オーガ族のブレインだ。どのような小さき的でも射抜いてやる。」
アロリエルの目に炎が灯ったような気がした。
「そうだな、何を弱気になっていたのだろうな。相手の兵が多いなら利用すれば良いだけだ。我が名霊王ネロム魂をかけ、犠牲0の作戦を見つけ出してやる。」
「簡単に見つかるものでは無いが、純粋な心は炎を滾らせる。叡賢ナイトレスト全ての叡智を集い、グラディの願いを叶えよう。」
「命導師の名が恥ずかしくなるな。命を導くと言いながら死を導いている。まさかグラディに発破をかけられるとはな。正しく命を導くのが私の仕事。全てを護る。」
ただ今の思いを伝えた。
けどその真っ直ぐな気持ちが全員の闘志に火をつけたようだ。
「我々戦闘員は全力で最終決戦に向けて戦闘力をあげるぞ。残り1週間、ただ強くなれ!」
各々が闘志を見せるように呼応した。
何時間もスキルの育成、習得や身体の使い方、連携力の強化に努める。
そして、体力の回復のためにしっかりと眠る。
ゆっくり寝ている俺はとある夢を見た。
『お母さん、お父さん、もう少しだよね!』
そう言って駆け寄るグラディ、両親の傍には1人の少年が居た。
その少年には懐かしく、それでもつい最近会ったような香りがする。
『お兄ちゃん!きっと、また笑えるよね!』
純粋な声とは裏腹に兄と駆け寄った少年は黒く染まる。
グラディは首を傾げながら、両親と笑顔で過ごしていた。
「母さん、父さん、俺はこれでいいんだよな。」
「リーズィー、あなたも私と似てるわね」
「ホーリーとグラディはびっくりするだろうな」
何故か笑いながら3人でお茶を飲んでいた。
最終決戦は本当に来るのだろうか。




