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勇者の本音

「さて、本題に入ろうか」

 ホーリーが話を切り出す。

 今ここには、五種族の王のうち、四人と五種族の精鋭が揃っている。

「その前に、ここにいるメンバーの選定基準を聞かせてもらいたいね」

 少しイラついているような声。

 その男の額には鋭利な角が生えている。

 オーガ族もしくは、鬼侍(きじ)族だろうか。

「そうですね、それを話すべきでしたね」

 そう言って、現在ここにいる人選の基準を話し始めた。


 まずは人間族から4人。

 勇者ホリレスト、叡賢ナイトレスト、閃王ドリグレスト、そして俺、グラディバスディア


 次にエルフ族から3人

 女神リレイヤ、冥王リフュレス、命導師ホピリス


 魔族から3人

 武王シルディラス、霊王ネロム、剣王スオルド


 獣人族から4人

 将軍ストレイグ、軍師賢絃(けんげん)、副将軍ビスレイグ、刀王靂時雨(れきしぐれ)


 オーガ族から4人

 皇帝オガセバル、拳帝サクリアル、槍帝(そうてい)ラムリアル、弓帝(きゅうてい)アロリエル


 合計18人。

「この18人を選んだ基準は、各種族の中でも肩書きを持つ精鋭ということが最低条件です。そして、もうひとつの条件は各種族の王に忠誠を誓っているという点です」

 ホーリーはつらつらと話す。

「その忠誠は真実か疑わしいですね」

 白い虎の耳が着く、眼鏡をかけた獣人族。

 軍師賢絃と呼ばれている人物だ。

「賢絃様、あなたは五大国の中でも叡智に優れている人物と聞きます。あなたの目から見て、忠誠を誓っていないと思える人物はここにいるのでしょうか」

 ホーリーの隣に座る、ナイトレストが牽制する。

「そうですね、人間族には悪いですが、そこに座る者です。私の耳が正しければ、その者に肩書きは無かった。そして、兄弟であるあなた達と並ぶほどの忠誠を誓えるような人物には見えないというのが正直なところです」

 指を刺されたのは俺。

 その発言にホーリーは怒りを顕にした。

「私が兄上、ならびにドリグレスト、魔王リミュオーバと並ぶ信頼を置いているグラディを愚弄するおつもりでしょうか」

 円卓に静寂が走る。

 身体が少しビリビリしているような感覚がある。

「申し訳ない、そこまでの信頼を置いている人物であるとは思わなかった。前言は撤回しましょう。しかし、あなたが先程おっしゃった、ここにいる人物の条件を満たしていないのではないのでしょうか。もし、それに言及がない場合、我々はこの席を立とうと思っていますが」

 席を立つ、それはこの会議の亀裂と言える。

「賢絃、そこまでピリピリすることでもないだろう。勇者とて何も考えずにここに同席させるわけが無い。もし肩書きがないのであればそれ相応の理由があるはずだ、お主に判断を任せているとはいえ、今現状で判断するのは時期尚早であろう」

 将軍ストレイグが賢絃を諌める。

 将軍を名乗るだけの迫力はある。

 ホーリーは落ち着きを取り戻したようだ。

「そうですね、ストレイグ様ありがとうございます。私がここにグラディを呼んでいるのは話せる理由がひとつ、話せない理由がひとつ。話せる理由の方は、確実に私より強くなると思っているからです。今現在、グラディの習得しているスキル数は勇者である私を凌駕します。恐らく私のスキル数を凌駕するのは容易なことであると思いますが、グラディはスキルの習得をし始めて、わずか2年ほどしか経っておりません」

 ホーリーの発言にざわめきがうまれる。

「話せない理由に関しては、種族の王である4人には共有しております。そして、スキルの習得という点に関しては、2年前までグラディは我が人間族の中では危険因子と判断されていたためです。グラディが所持するスーパースキル『タイムブレイカー』は制御できない場合、容易く命を刈り取ります。そのため忌み子として避けられることが多くありました。私とリミュはそのようなことは露知らず、仲良くしていましたがね」

 そう、俺は生まれながらにスーパースキルを所持していたが、それが制御できず、何人か怪我をさせたことがある。

 それが理由で、俺とは遊ぶなと言われていた。

 ホーリーとリミュはそれを聞いても、次期勇者と魔王だからという理由で遊んでいた。

 今考えてもゴリ押しすぎる。

「しかし、グラディがスキルに無知であるのは学校に通えていないことが理由であると考えました。グラディの両親は既に他界しており、親族もいなかったためです。そのため私が勇者を引き継ぎ、その権力を使いグラディにスキルの勉強をさせました。その結果いとも容易く、私のスキル数を越え、スーパースキルは10に増えております。そのような人間は他に居ない、現れないものと考えております」

 ホーリーは説明のために淡々と話しているが、俺は少しだけ嬉しくなっていた。

「その説明に私から補足を加えさせて頂きたい」

 ホピリスが手を挙げて、口を挟む。

「私はグラディにスキルを学ばせた。こやつは200を超えるスキルをわずか2週間ほどで習得し、エクストラスキルの部類ですら簡単に進化させる。しかし、私が1番驚くのはそこではなく、スーパースキルの習得ですら長くて半日だ。その吸収能力に関しては私をも凌駕するだろう」

 そんなに俺って習得早かったんだ。

 あまりほかの人を見てないのもあって、基準が分からない。

 ホピリスの言葉に更にざわめきが大きくなる。

「命導師様が言うのであれば間違いは無いと思いますね。賢絃様の憂いは取り払われたものと思います。私はオーガ族の中で指揮を執る立場として、今回の判断も任されました。我々オーガ族は此度の作戦に全面的に協力してもいいと考えております。理由は至極単純、種族の王たる勇者、魔王、女神の3人が認めているのであれば、その目に狂いは無いものと思います。オガセバルも初見で信頼できる人物と認めていますからね」

 背中に掲げられる巨大な弓。

 その鋭い眼光は目を合わせると動けなくなりそうだ。

 弓帝アロリエル、その額には一本の角があり、綺麗な翡翠色に輝いている。

「アロリエル様がそういうのであれば、間違いはないでしょう。しかし、本人はどうなのでしょうかね」

 賢絃の眼差しは、俺を真っ直ぐ見つめる。

「私にとってはあなたはただの一般人だ。そしてこれからの戦いについてこれるものとは思えない。あなたの覚悟を聞きたい」

 俺は、その眼に負けじと、見つめ返し、今の率直な気持ちを伝えた。

「ここに並ぶものとして、力不足であるというのは痛感しています。ですが、血が繋がらないとはいえ、リミュとホーリーは兄のような存在です。そして、ホピリス、リレイヤ、リフュレスの三人には命の危機を救ってもらいました。もし私の命で五人の盾に、五人が信頼する人たちを護れるのであれば、全てを賭けて護ろうと思っています」

 俺はただ真剣に、今の想いを伝えた。

 ホーリーとリミュは俺を救ってくれた。

 ホピリス、リレイヤ、リフュレスは俺を助けて、認めてくれた。

 ただその五人を助けたい、その想いをただ真っ直ぐに伝えた。

 その真剣な思いとは裏腹に、次に会議室に響いたのは、ホーリーの吹き出した声だった。

 それにつられて周りもどんどん笑いに染る。

「なるほど、勇者様、魔王様、女神様、冥王様、命導師様が信頼する理由がよくわかりました。我々はもとより、此度の作戦には賛成です。勇者様よりグラディの話は事前に聞いていましたが、真っ直ぐですね。私が意地悪しているのが恥ずかしくなってくる。後で是非対峙させて頂きたい。そして、グラディ様、此度の発言申し訳ありませんでした。あなたの覚悟は私だけでなく皆に伝わったと思います」

 周りが笑っているのを見て、段々と恥ずかしくなる。

 顔を赤くして少し俯いた。

「では、心が揃ったところで、私はリーズィー、ジルラギルに対し罪を問わないものと考えています。その理由は後に文書で説明します。そして、我々は五大国に分かれるべきではなく、ひとつの国として成るべきと思います」

 ホーリーは俺と年齢はそんなに変わらないはずなのに、その話している時の横顔は、ただただ格好よかった。

 周りも笑顔からすぐに真面目な顔へと変わる。

「まぁその話をする前に終焉の神を止めるのが先決でしょう。ホリレスト、戦いはいつ起きますか」

 終焉の神を止めなければ、ひとつの国になる前に世界が滅ぶ、それを理解している賢絃の冷静な質問だった。

「3ヶ月後の魔王城です、私の目とリフュレス様の力で間違いは無いものと考えます」

 その言葉に賢絃は頷いた。

「了解しました。その日までに研鑽を重ねることとします。ひとつ勇者様にお願いが」

「聞きましょう。我々ができる範囲ならば手助けをします」

 賢絃の願いってなんだろう。

 終焉の神との戦いにとても重要なものなのだろう。

「グラディ様を少しの期間貸してください」

 え?俺?

 衝撃の内容に、俺は目を見開く。

「もちろん、お好きにどうぞ」

 おいホーリー。

「やはり、賢絃様も見る目がある」

 ホピリスもうんうんと頷く。

 誰か止めろよ。

「それは譲れませんね!グラディ様は私も貸してもらいたい!」

 アロリエルも立ち上がる。

 なんでだ。

「いやいやグラディ様は我が主リミュオーバ様のご友人、もし迎え入れるとすれば我が魔族です!」

 おい、ずっと黙っていた魔族の最初の発言それでいいのか。

 というか俺の意思は。

「グラディを貸すのは容易ですが、移動することが困難と考えます。ここの施設を五大国の中心としようと思います。そして、ここには各種族1人は絶対にいるものとします。グラディは常時居させるのでそれでどうでしょうか」

 だから俺の意思は。

 全員が納得したが、俺の意思はもはやなかった。

「グラディ、他の国にはスキルだけでなく剣技や鍛治、色んな力がある。それを見るのもひとつの勉強だと思うぞ」

 その言葉に簡単に丸め込まれ、ずっといることを承諾した。

 俺も単純だな、、、

 ホーリー、我が兄ながら恐ろしい。

「本当ですよね」

 ドリグレストといつの間にか意気投合していた。

 ドリグレストも苦労していたんだな。

 同じような気持ちを味わえる友人が増えて、嬉しくなった。


 その頃魔王城では、吊り下げられるリミュに、無数の管。

 その管はリミュに何かを注ぎ込んでいるようだ。

「3ヶ月後、この世界は終わる。私はこの世界を終焉させるのだ!」

 リーズィーは天を見上げ、笑っていた。

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