押し掛け女房
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
これを書いていて思ったのが、耐冬花様のあの一言。
『寂しいんだろうねぇ』
帰る時に広告を見るのが日課だった。私が帰る時に必ずと言っていい程映し出され、その赤に惹き込まれる。それは観光案内の広告で、古き良き日本の街並みを再現したものだった。
そして今日も立ち止まって広告を眺める。笛の音から始まって、馴染み深いという言葉では言い表せないほど密な場所が映し出される。赤い、赤い、その神社。見る度に思いを馳せる、あの方の場所。
「はい。これお土産ねぇ」
帰ってくるなり、母から貰ったのは真っ赤な金魚のキーホルダーだった。御籤で使われて居そうな目出度い赤い魚。鯛ではないけれど、これも十二分に愛らしい。鞄に付けるか、飾るか。そう、視線を左右に動かしていると、忘れていたと言わんばかりに台座を渡された。
「飾って良い? えーっと此処」
「いいよ」
幼い時の写真が二つ程。まだゆとりはあって、金魚一匹置いても邪魔にはならない。
やはり鞄に付けて持ち歩くのも良いけれど、無くしたら物凄く怒られそうなので、出来れば目立つ場所に置いときたい。
フィルムから金魚を取り出すと、台座の窪みに嵌めんだ。これで文句は言われないだろう。
翌日、私は何時もの様に広告を見る為に立ち止まった。お茶、珈琲、大都会。くるりくるりと、めくるめく映像を焼き付けながら、その広告を待った。けれども、古き良き広告だけは決して流れる事は無かった。もう、お終いとでも言うように。
……別に落ち込むことは無い。帰りにちょっと楽しみにしていただけで、なくても別に……。
今日という日に少しの物足りなさを感じ、家路に着いた。充電器にスマホを差して見上げたその時に、ふと、真っ赤な金魚が目に入る。
そこで一つ気が付いた。このお土産は、毎日私が眺め続けた街から購入されたものだ。もしかしたら……いや、まさかね。
部屋に戻って、いざ就寝。という時にその方はいらした。黒の短髪。つり目。ギザ歯。赤を基調とした袴姿に一枚下駄。一度見たら忘れる事など困難な特徴のあるその方は、出窓に腰掛け粗雑に脚を組んでいる。
「よぉ。俺直々に出向いてやったぞ」
「あー……」
何となく予感はしていた。基本的に弱いもの虐め大好きだから、暇になるとちょっかいをかけてくるこの神様。一つの縁が切れたから、また結び直したのだと思う。
歩く修羅こと飆靡様は、不機嫌そうな顔を隠さずにを頬を抓る。
「なんだよ、その屍が叫ぶような声」
「いや別に。広告は……もう見れないのですか?」
あの江戸の街並み。目の覚める様な赤。実際に行かなくとも、それで満足してしまう程、心が揺さぶれる様な。頼めばまた見せて戴けるだろうか?
しかし飆靡様はあっさりとぶった斬る。
「必要ねぇだろ。態々出向いてやったんだから」
どうやらやはり、神様の気まぐれに他ならないようだった。まぁ、所詮そんなものだろう。
オマケ
「で、何で部屋に飾んねぇの」
「私は机に置いたものをよく失くすんです。失くしたら、怒るでしょう?」
「んなことしたら、草の根分けても探さす。広告も見せてやんねー」
べえっと舌を出して、頭を掻き毟ると、じっと私の顔をお眺めになる。私も私で見つめ返す。何を考えているのか読み取れなくて、数分の時が経過した。
「さっさと寝ろ」
「え、何時まで此方に……」
基本的に私がモデルにしている神様は敬称付きで呼ばせて戴いてます。お名前を借りている身なので。
んでもって人間から神様になった方は、基本的に人の気持ちを汲んで下さいますが、そうじゃない方は根本的に汲んでくれません。いや、心の形が違うので、汲めないというか。
だから、この子がまた広告を見るのは叶わない気がします。
そもそも縁を繋ぐために見せていただけなので。
俺が居るんだからそれで良いだろ。精神です。
元ネタは金魚じゃないんですよ。
でも前に書いてしまったので、変えました。
飆靡様、寂しがりだと良いと思います。
皆怖がって近寄らないから、対等に接してくれるの、嬉しいんじゃないかなと。