山道
案内役リュウさんのもと
俺、ヤワラ、タイシで今、山を登っている。
あ、クニヤさんもいるか。
だが、早朝から出発したにもかかわらず、未だ目的地に辿り着けずにいる。
「なぜ山登りを?」
思わず俺はツッコんでしまった
こんな殺風景な山をずっと登ってるのに、俺らは目的すら知らないんだけど。
「そんなこと決まっているだろう。
君たちが能力に目覚めるためだ。」
まぁ、それは何となく分かってる。
聞きたいことは別にあって...
「いや、この山に登ることとそれにどんな関連があるのか聞きたかったんですが...」
特別、緑が豊かだったりする山でなく、岩肌が露出している山でなにをしようと言うんだろう?
まさか、俺たちを窮地に立たせることで能力が発現するようなアニメでよくあるやつなのか...?
だとしたら嫌すぎるんだけど。
「ああ、そう言った話か。なんだ、イロンはそこの説明をしなかったわけだ。薄情な野郎だな。
いや、すまない。これは口にするべきではなかったな。
そこのところは自重するとして、具体的な理由を話そう。
簡単に説明をすると、君たちが能力を手に入れるためには山の上にある『赤い泉』。
その水を飲む必要がある。
本当はちゃんとした能力発現のメカニズムや赤い泉の成分なんかを説明してやるべきなんだろうが、生憎俺はそこの記憶が曖昧で、詳しいことは言えない」
聞いたところで感はあるからそこは気にしないんだけどな...
「それと、話は聞いているだろうが能力は基本、子供は持ってはいけない物だ。特例だと言うことをしっかり理解して、無闇矢鱈の使用は控えるように。
特にこの町を出たらな。」
何で俺らは特例なんだろ。
まいっか。そっちの方が都合いいし。
「...ところで能力を手に入れるにはそれだけでいいんですか?」
ヤワラがさらに追及した質問をする
「能力を発現させる準備としてはそれで充分だ。
ただ...それをしたからといってすぐに能力を使えるというわけではない。
発現する準備が整ってからは、能力を使うために
体がその能力に合わせて少し変化する期間に入る。
その期間がどのくらいに及ぶかは不明だが、
変化が終わり、体が調整されて初めて能力が使える。
だが、使えるようになったかどうかは自分ではわからない。だから定期的に何か起こさないかを経過観察する必要があるわけだな。」
「ちっ、なんだ、すぐに能力が使えるわけじゃねぇのか。」
タイシが舌打ちをする。
「タイシ、目の下に隈ができてるけど
もしかして昨日、それが楽しみで寝れてなかった?」
「なにとぼけたこと言ってやがる。
お前もそれで寝れないから、昨日の夜は一緒に
持ってきたトランプでポーカーしたじゃねぇか。」
俺が自分のことを棚に上げて揶揄うと、ちゃんとやり返されてしまった。
「なにやってるの...
そう言えば二人はそれ、中学の修学旅行でもやってなかった?それに...」
「おい、お前がこれに参加するならお前も傷を抉られる覚悟をしろよ」
「タイシ、一旦休戦な。一緒にコイツボコそう。
特にコイツの恋バナの件で。」
一度火の中に飛び込めば誰であろうとカウンターが飛んでくるのは世の常だ。
「すいません、やめてください。」
「記憶がないってのはなんの話だったんだ?」
冷静にリュウさんにツッコまれてしまった。
そう言えば...
なんだかだんだん思い出してきている気がする。
いかんせん、それで思い出すことがあまりにどうでもいいことばっかりだけど。
山道を歩いて、あれからは1時間くらいは経っただろうか。
突然、リュウさんは足を止めた。
「出たか。
まあだが、ここまで町から離れた場所にいるのは何も不自然じゃないな。」
リュウさんがぼやく
ウイルスにかかってる動物と出会ってしまった。
見た目は山羊だが、目だけが赤い。どこか不安を煽るような瞳だ。
それに動きも動物のそれじゃない。急に痙攣したり、関節が逆に曲がったりなど、痛々しくして恐ろしい。
なぜだろう。自分でも意外だったが、それを見ても冷静でいられた。
タイシも俺と同じような表情をしてる。
ヤワラは...こういうの人一倍苦手だったはず...
やはり、青ざめた表情をしている。
それが初見の反応としては正しいし、なんならそれでもパニックになって逃げ出さないだけ冷静なんだろうな。
「まず俺が手本を見せる、その後君たちの手でゾンビを倒してくれ。」
ゾンビ鎮圧の仕方を教えてもらうことになった。
まずはリュウさんのレクチャーから。
リュウさんはかけていき、一番手前の孤立気味なゾンビに飛びつく。
「戦闘ならまず孤立してるやつから沈めるのが定石だ。しっかり潰して戦力を削いでいけ。
それで、ここからが重要だ。
コイツらは体の中にいくつか核を作る。
活動を停止させるのにはそれを全部壊す必要があるわけだな。
核を壊すコツとして、必ず脳と心臓には核が作られていることがわかっている。
後の位置と数は個体によってまちまちだが、内臓や筋肉に核があることが主だ。
あと、数が多ければ多いほど、精密な動きをしてくるが、減らしさえすれば脅威度は下がる。
恐れず、冷静に、確実にある箇所から破壊すべきだ。」
リュウさんは慣れた手つきで頭から核を壊していく。
これは戦闘というより解体に見えなくもない。
「この個体は大人しい。最低限の核しかないのだろう。
だが、場合によってはそうもいかない。
それに一匹に時間をかけすぎると囲まれてしまうかもしれない。
だから核を壊すのを効果的に効率的に壊す必要がある。」
そう言いながらリュウさんはゾンビにトドメを刺した
「ここまで話したが、これは方法の一つだ。
もっと簡単で確実な方法として、お前らにはその専用の武器があるな?
それを動物の太い血管に刺せればウイルスを滅菌してくれる。
ゾンビのために開発された武器だ。」
そう、俺らは、それぞれ選ばせてもらった武器を持ってる。
俺は短剣。
普通の剣だと重くて武器に振り回されてしまうから軽めの短剣にした。
まあ改良してあるからある程度軽いけど、
それでも使いこなせなかったくらい俺は運動不足だった。
ヤワラは薙刀
理由はシンプルにリーチ
ほんとは拳銃が良かったらしいんだけど、
拳銃はここでは免許がないと使えないし、デメリットも多いらしい。
それでもある程度距離を取るべく、なるべく長い物を選んだんだそうだ。
あんな長いのよく使えるよなぁ
タイシはグローブ
こいつは実は料理人の夢があって
料理以外で刃物を使わないっていう謎の信念があるらしいからわざわざ特注で作ってもらったもの。
絶対漫画とかアニメの影響だろ。
まあそれを置いておいても、コイツは力が強いから変な武器持つよりこっちのほうが強そうではある。
「予想以上に数が増えてきたな。三匹だけ残して掃討するか。少し能力を使うとしよう。
そう言うとリュウさんは、その辺の石や木の枝を斬り始める。
もちろん、ついでと言わんばかりに周りのゾンビたちも倒していく。
俺たち素人には到底真似できない早技。
流石に指折りの実力者のそれを感じる。
「ざっとこんなものか。」
そう言って刀を鞘に納めると斬られてバラバラになった木の枝は元の形に戻らんと、宙に浮き、それぞれの断面を目指して飛んでいく。
たとえ、その間にゾンビがいようとも。
その身を貫きながら。
「え!?なにをしたんですか!?」
ヤワラが驚きのあまり、素っ頓狂な声で叫ぶ。
あまりに一瞬のうちに事が終わってしまったので俺も何が起こったか理解できなかった。
「俺の能力を使った。
能力の内容はは30秒で元に戻る代わりに万物を斬ることのできる能力だ」
〜能力説明〜
ファイル名:No.105 切断接合
自分が「切るための道具」と認識した物を使い、何かを切る時、なんでも簡単に切れるようになる。
しかし、30秒または本人の任意で能力が解除されると、断面同士が引かれあい、くっつく。
離れている時の断面は実際は離れているが実際には繋がっている。
説明が難しいが、例を挙げるとすると、人の頭を切っても、血は一滴も出てこず、切られた人も死なない上痛みもない。
ただし切られた頭が首の高さから地面に落ちてるのでそのまま床にぶつかれば落下の痛みはする。
この男の場合、この副作用のような「くっつく」
性質を利用し、間にゾンビを挟んでくっつけることで
くっついたものはゾンビの体を貫通し、核を破壊した。
ちなみに途中で切ったゾンビたちは能力を使わずに普通に切っただけだな。
突然、俺のズボンのポケットからクニヤさんが説明し出した。
「詳しい説明をどうも。能力についてよく知ってるじゃないか。」
「いや、たまたまその能力についてのことがデータにあって、それを読み上げただけだ。」
人工知能だしそれくらいはできても不思議じゃないな。
「この能力はなんでも切れるってところにフォーカスして切る物体の解釈を変えると少し面白いことができるが、まあその話は今することではない。
ほれ、三匹残したから一人ずつやってみろ」
俺らはそれぞれ視線を交わすと拳を突き出した。
「「「さーいしょはグー」」」
「あのな...」
まず俺から。さっき聞いた助言通り孤立していて倒しやすそうな奴を選び、それに向かって駆けて行く。
体力のないことは自覚してるから、なるべく最小の動きでゾンビの首らへんを切り付ける。
するとゾンビは動かなくなった。
「おぉ、いい動きをするな」
褒められたはいいけど、俺はもうこれだけで息切れしてしまった。記憶を失う前の俺を呪おう。
次はタイシ
ゾンビの前まで行くと大きく飛び上がって思い切りゾンビを蹴飛ばした。
構図はさながらライダーキック。多分やりたかっただけだなこれ。
結構気性が荒そうな奴だったがいまの一撃で怯んでいる。
っていうかもはや顔が潰れかかってる。
そして首を手刀で叩き切った。
「なんだアイツは...およそ人間とは思えない力だぞ...」
百戦錬磨であろうリュウさんが戦々恐々としている。
俺にもわかんない。なんなんだアイツ...
最後はヤワラ
逃げ惑うゾンビに振り回されていたが、
なんとかゾンビに追いついて薙刀を突き刺していた。
そうして辺りのゾンビは全て倒された。
「初めてにしては上出来だな。
特にタイシに関しては目を見張るものがある。」
「当然だ。俺は体力にめっちゃ自信があるからな。」
「僕も頑張らないと...」
「俺もそうは思うんだけど、どうもタイシは外れ値すぎてなぁ。
多分コイツ大型の熊とか出て来ても簡単に倒すだろ。」
「タイシなら本当にやりそうだよね。
まあ、ここは岩肌の露出した山だし、流石に熊は出ないと思うけど。」
フラグになりそう...
「熊か...
そういえばここ最近、災害レベルに指定された熊がいたな。
しかも、まだ討伐されていなかったはずだ。」
「怖いこと言わないで下さい!
でも、流石にバッタリ出くわしたりしないですよね。」
「核が多い個体ほど人間を敏感に感知できる。
出会うケースはないわけじゃないぞ。」
「え?」
リュウさんがその話をした瞬間、岩陰から3メートルはある熊が出現した。
コテコテかよ!
「はぁ、本当に出てしまったか。
無いわけでは無いとはいえ、可能性は低くはあったはずなんだが。
お前達は下がっていろ。子供をこんなのと戦わせるわけにはいかない。」
「いいや、俺はやるぜ?
勝てる相手に引き下がるわけにはいかねぇ。」
「お前...自惚れすぎだ!
ただでさえ死亡報告の多い熊だぞ!
ゾンビで凶暴化していてさらに核も多いときている!
大人しく下がっていろ!」
「そうやって何でも自分一人でやろうとするから仲間から嫌われてんじゃねぇの?」
「関係はないだろう!
君たちは仲間ではなく庇護対象だ。」
「まぁいいや。結局信用ってのは行動しねぇと得れねぇからなぁ!」
そういうとタイシは飛び出していった。
迷いなく懐へと潜り込むと、全力のパンチを繰り出した。
するとそのとてつもない威力により、熊の巨体は宙を舞う。
しかしそのまま倒れると思いきや、空中で姿勢を変えて見事な着地を見せた。
そして熊はまたも近づいてくるタイシに右腕を振り下ろす。そのスピードはその巨体からは考えられないもので、タイシは避けることができず、熊の爪がタイシの肉に刺さった。
タイシも負けじと、刺して来た熊の腕を両腕で掴み、その腕を引きちぎった。
ゾンビになって身体が脆くなってるのはあるのかもしれないけど、だとしてもやっぱりとんでもないパワーだ。
と、そこにリュウさんが横入りする。
「君の実力はわかった。だが、ここは下がっていろ。」
「この傷を心配してくれてんのか?
大丈夫だ。こんなもの俺にとっちゃ擦り傷だからよ。」
「俺が言っているのはそうではない。
ワクチンは感染を完全に防ぐ訳ではないんだ。
そして例え擦り傷だとしても傷はウイルスの感染率を上げるものだ。
その状況で戦うことはリスクが高すぎる。
君も人間がゾンビに感染したときの症状は知っているだろう?
即死だ。
分かったら君は下がるんだ。」
それでもタイシは言い返そうとしていたが、俺とヤワラがそれを止めた。
「俺達が代わりにいくよ、ここは大人しくしとけ。」
「お前らで何とかなる相手じゃあ...」
「それ言ってることさっきのリュウさんと一緒だよ。僕たちを信じて。」
そのやりとりをして、俺たちはリュウさんの横に並ぶ。
カッコつけた割には俺とヤワラは少し震えていた。
「そんなに緊張しなくていい。
片腕をタイシがもぎ取ったおかげでかなり弱体化している。
俺が能力で奴の上半身と下半身を切り離す。
その隙に二人で心臓と脳の核を潰してくれ。」
リュウさんは熊に近づき、熊の一撃を避け、胴を切り裂いた。
切り離された上半身の頭を俺が、心臓をヤワラが潰す。
倒した!と思っていたら、倒れたまま残った片腕を振り上げ、俺のことを切り裂かんとしていた。
終わった。タイシは耐えれても俺がそれを喰らえばひとたまりもない。
しかし、その腕が俺に振り下ろされることはなかった。銃声が鳴り、腕を弾いたのだ。
俺はその瞬間を見逃さず、腕を全身で押さえた後、腕の核を破壊した。
これでひとまずの脅威は無くなったが、核が残っている内は安心できないとリュウさんに言われ、全ての核をきちんと破壊した。
「君たちはよくやった。庇護対象という言葉は取り消そう。
災害レベルは本来Ⅹ級職員が五人以上の特別部隊を作って討伐するものだが、それを倒したことは本当に快挙だ。」
そんなやばいの!?
確かに冷静に考えれば近づけばとんでもない速度で引っかかれるし、かと言って遠距離から倒そうにも、さっきはタイミングが良かったから弾くことだけはできたけど、弾丸が皮膚を一ミリも貫通しなかったからやばいかもしれない。
そういえば...
「あの銃は一体だれが?」
「わからない。が、相当の腕の持ち主ではあるようだ。」
「お礼を言いたいんだけどな。見回す限りもう行っちゃったか。」
「どうせうちの組織の人間だ。帰ってからいえばいい。」
「この死体はどうするんですか?」
「このクラスになると回収の必要がある。が、
どうせ帰りも通るんだ。今持っても荷物になってしまうから一度置いて行こう。」
「じゃあ早めに終わらせましょうか。」
「では行くか、そろそろ頂上だ」




