3月6日 登山
今、俺達は山を登っている
案内役リュウさんのもと 俺、ヤワラ、タイシのメンバーで。
あ、クニヤさんもいるか
「なぜ山登りを?」
思わず俺はツッコんでしまった
「そんなこと決まっているだろう。
君たちが能力に目覚めるためだ。」
違う、それは何となく分かってる
「いや、具体的にこの殺風景な山を登る理由と紐付けて教えてほしいんですが...」
特別、緑が豊かだったりする山でなく、岩肌が露出している山でなにをしようと言うんだろう?
まさか、俺たちを窮地に立たせることで能力が発現するようなアニメでよくあるやつなのか...?
だとしたら嫌すぎるが。
「ああ、そう言った話か。なんだ、イロンはそこの説明をしなかったわけだ。薄情な野郎だな。
っと、俺自身、陰口が好きなわけではない。
そこのところは自重するとして
具体的な理由だったな。
まぁ詳しいことを省いて説明すると、君たちが能力を手に入れるためには山の上にある『赤い泉』
その水を飲む必要がある。
本当はちゃんとした能力発現のメカニズムや
赤い泉の成分なんかを説明してやるべきなんだろうが
記憶のない君たちが聞いたところで混乱するだけだろう。」
俺は記憶が戻ったところでメカニズムとかめんどくさそうな理屈はヤワラに変わりに聞いてもらうんだけど。
「...ところで能力を手に入れるにはそれだけでいいんですか?」
ヤワラがさらに追及した質問をする
「能力を発現させる準備としてはそれで充分だ。
ただ...それをしたからといってすぐに能力を使えるというわけではない。
発現する準備が整ってからは、能力を使うために
体がその能力に合わせて少し変化する期間に入る。
その期間がどのくらいに及ぶかは不明だが、
変化が終わり、体が調整されて初めて能力が使える。
だが、使えるようになったかどうかは自分ではわからない。だから定期的に何か起こさないかを経過観察する必要があるわけだな。」
「ちっ、なんだ、すぐに能力が使えるわけじゃねぇのか。」
タイシがため息をつく
「タイシ、目の下に隈ができてるけど
もしかして昨日、それが楽しみで寝れてなかった?」
「なにとぼけたこと言ってやがる。
お前もそれで寝れないから、昨日の夜は一緒に
持ってきたトランプでポーカーしたじゃねぇか。」
俺が自分のことを棚に上げて揶揄うと、ちゃんと暴露され返されてしまった。
「なにやってるの...
そう言えば二人はそれ、中学の修学旅行でもやってなかった?」
「おい、そこまで暴露していいとは言ってねぇぞ」
「タイシ、一緒にコイツのこといじろう。
特にコイツの恋バナの件で」
あんまり踏み越えると誰であろうとカウンターが飛んでくるのは世の常だろう。
「すいません、やめてください。」
「記憶がないってのはなんの話だったんだ?」
冷静にリュウさんにツッコまれてしまった。
そう言えば...
なんだかだんだん思い出してきている気がする。
いかんせん、それで思い出すことがあまりにどうでもいいことばっかりだけど。
山道を歩いて1時間くらいは経っただろうか
突然、リュウさんは足を止めた。
「出たか。
まあだが、ここまで町から離れた場所にいるのは当然だったか。」
リュウさんがぼやく
ウイルスにかかってる動物と出会ってしまった
見た目は山羊だが目だけ赤い。
どこか不安を煽るような瞳だ
まぁ不安どころかこのウイルスに罹ってしまったら人は死ぬし、赤という危険信号からくる不安と言えば、正しい表現ではあるんだけど
なぜだろう。自分でも意外だったが、それを見ても冷静でいられた。
タイシも俺と同じような表情をしている
ヤワラは...こういうの人一倍苦手だったはずだ。
やはり、青ざめた表情をしている。
それが初見の反応としては正しいし、なんならそれでもパニックになって逃げ出さないだけ冷静だろう。
「出発時にも言ったが、まず俺が手本を見せる、
そしたらやってみてくれ」
この子供三人で冒険を続けるのだ
いつウイルスに感染した動物、もといゾンビと出会ってもおかしくない
その場合に備えて、鎮圧の仕方を教えてもらうことになった
俺らもウイルスに罹る危険性があることを
不安に思ったがその対策で昨日イロンさんから
ワクチンを貰っていた。
ワクチンがあるならみんなそれを打てばいいんじゃないのかって?
そりゃあそうだけど、このワクチンは輸入製品で
多く量産できなくて、委員会の役員しかワクチンを打てていないらしい
それでも俺らの分を優先してくれたが代わりにこのことは機密事項となった
当然だろう。まだワクチンの打てていない人々は沢山いるというのにこんな子供にそれを使ったのだから。
と言うか、そんな物を優先的にもらえる理由は何なんだろう?
リュウさんはかけていき、一番手前の孤立気味な
ゾンビに飛びつく
「戦闘ならまず孤立してるやつから沈めるのが定石だ。しっかりそういうのから潰して戦力を削いでいけ。
それで、ここからが重要だ。
コイツらは体の中にいくつか核を作るからそれを全部壊す必要がある。
核を壊すコツとして、必ず脳と心臓にはある
後の位置と数は個体によってまちまちだが、
内臓に核があることが主だ。
あと、数が多ければ多いほど、精密な動きをしてくるが、減らしさえすれば脅威度は下がる。
恐れず、冷静に、確実にある箇所から破壊すべきだ。」
リュウさんは慣れた手つきで
頭から核を壊していく
これは戦闘というより解体に見えなくもない
「この個体は大人しい。最低限の核しかないのだろう。
だが、場合によってはそうもいかない。
それに一匹に時間をかけすぎると囲まれてしまうかもしれない。
だから核を壊すのを効果的に効率的に壊す必要がある。」
「と、ここまで話したが、これは方法の一つだ
もっと簡単で確実な方法としてお前らにはその専用の武器があるだろ?
それを動物の太い血管に刺せればウイルスを滅菌してくれる
ゾンビのために開発された武器だ」
そう、俺らは今それぞれ
選ばせてもらった武器を持ってる
俺は短剣
普通の剣だと重くて武器に振り回されてしまうから軽めの短剣にした。
いや普通の高校生はあんなん振り回せないよ
ん?改良してあるからある程度軽い?
それでも使いこなせなかったくらい俺は運動不足なんだ。
しかもなんか妙に手に馴染んだ。
何度もこれを使ってきたように
そんなわけないんだけどさ、
そもそもこれは対策委員会の備品らしいし
ヤワラは薙刀
理由はシンプルにリーチ
ほんとは拳銃もあったんだけど
拳銃は免許がないと使えないし、デメリットも多いらしい。
それでもある程度距離を取るべく、なるべく長い物を選んだんだそうだ。
あんな長いのよく使えるよなぁ
タイシはグローブ
こいつは実は料理人の夢があって
料理以外で刃物を使わないっていう信念があるから
わざわざ特注で作ってもらったものだ
絶対漫画とかアニメの影響だろ。
まあそれを置いておいても
コイツは力が強いから変な武器持つより
こっちのほうが強そうなんだよな
「予想以上に数が増えてきたな。
三匹だけ残して掃討するか。
俺の能力お披露目の時間だ」
そう言うとリュウさんは
その辺の石や木の枝を斬り始める
もちろん、ついでと言わんばかりに
周りのゾンビたちも倒していく
俺たち素人には到底真似できない早技。
流石TOP3。
「ざっとこんなものか。」
そう言って刀を鞘に納めると
斬られてバラバラになった木の枝は
元の形に戻らんと、宙に浮き、
それぞれの断面を目指して飛んでいく。
たとえ、その間にゾンビがいようとも。
その身を貫きながら。
「!?
なにをしたんですか!?」
ヤワラが驚きのあまり、素っ頓狂な声で叫ぶ。
「俺の能力を使った。
能力の内容はは30秒で元に戻る代わりに
なんでも斬れる能力だ」
〜能力説明〜
ファイル名:切断接合
自分が「切るための道具」と認識した
物を使い、何かを切る時
なんでも簡単に切れるようになる。
しかし、30秒または本人の任意で
能力が解除されると
断面同士が引かれあい、くっつく
離れている時の断面は実際は離れているが
本当は繋がっていることになっている
説明が難しいが
人の頭を切っても
血は一滴も出てこず切られた人も
死なないし痛くもないが
切られた頭が首の高さから地面に落ちてるから
そこは痛い。みたいな感じ。
リュウの場合、この副作用のような「くっつく」
性質を利用し、間にゾンビを挟んでくっつけることで
くっついたものはゾンビの体を貫通し、
核を破壊したのだ
ちなみに途中で切ったゾンビたちは
能力を使わずに普通に切っただけである
突然、俺のズボンのポケットからクニヤさんが説明し出した。
「はは、詳しい説明をどうも。
能力についてよく知ってるじゃないか。」
「いや、たまたまその能力についてのことが
データにあってそれ読み上げただけ。」
「この能力はなんでも切れるってとこに
フォーカスして切る物体の解釈を変えると
少し面白いことができるが、
まあその話は今することではない。
三匹残したから一人ずつやってみろ」
「「「さーいしょはグー」」」
「あのな...」
まず俺から、走っていっておとなしめの
ゾンビの首らへんを切り付ける
するとゾンビは動かなくなった。
「おぉ、いい動きするじゃないか。
まるで運動不足を自称してた奴とは思えないな」
「いやぁ急に動いたんで筋肉痛が...」
次はタイシ
ゾンビの目の前まで行くと
大きく飛び上がって思い切りゾンビを蹴飛ばした
結構気性が荒そうな奴だったが
いまの一撃で怯んでいる
っていうか顔が潰れかかっている
そして首を手刀で叩き切った
「なんだアイツは...およそ人間とは思えない力だぞ...」
百戦錬磨であろうリュウさんが戦々恐々としている。
俺にもわからん、なんなんだアイツ...
最後はヤワラ
逃げ惑うゾンビに振り回されていたが
なんとかゾンビに追いついて
薙刀を突き刺していた
「初めてにしては上出来だな
全体的に見ても心配はいらないくらいの出来栄えだ
記憶がない昔に練習してたんじゃないのか?」
言われてみれば自分が思ってる以上にできていた
昔練習してたかどうか...
くそっ、こういうことは思い出せない。
「では行くか、そろそろ頂上だ」