3月5日 確約された出会い
リュウさんと会った建物を去り、
みんなと解散して一人で各々街を散策している
記憶を失ったといっても"思い出"が失われただけで
常識とかは依然として記憶にある。
その上でここは今までの俺の退屈な常識を
豊かにしてくれるような体験だった
厄介なことに巻き込まれそうなのは嫌だけど
そんなことより色々興味を唆られるものばっかで
ちょっとくらいならそう言う
トラブルも許せるかもしれない。
...フラグにならなきゃいいけど。
「よう、ハジメマシテ...でいいかな?」
普段ならそのままスルーする声かけ
知らない人から声をかけられることはほぼないし、
基本的にすぐそばにいる誰かに話しかけてる
もし、自分に話しかけていたとしても、
変な関わりあいになるのはめんどくさいので
気にかけず、スルーするのが正解ではある
でも、今回はなにか確信的に、
自分に話しかけていると感じた
この状況に違和感を感じていなかったことに気づき
もしかしたら能力の影響かもしれないと身構える
そもそも能力がどのようなものかも知らないし
全然あり得ることだ。
「おっと警戒しないでくれよ、
俺はお前の敵になる気はない
ただ第三者としてお前のことを見守りたいだけだ」
振り返ってその声の主を見ると、背は俺と同じくらいの男性で、フードをかぶっていてよく見えないが顔は頬のあたりがやつれている様子だった。
うすら笑いを浮かべているその顔はどこか見覚えのある気がした。
記憶がない今の状況がもどかしい
「はじめまして俺は...」
「ああ、名前なんていいよ。
わざわざ名乗るのも名乗られるのも苦手なんだ。」
その言葉に不思議と俺は親しみを覚えていた。
俺と同じだ。社交辞令として自己紹介はするにはするができればしたくない。
この気持ちはどっちなのだろうか、記憶がないことによって自分は本当の自分でないから必要ないと感じるのか、そもそもこれを苦手としているのか。
まあいいや。
「今からお前に一つ質問をしようと思う。」
「知りたくなかったことを知る覚悟はあるか?」
少し間を置いて話し出す
「...」
「いやなに、そんな深く考える必要はない。
ただ、お前にはこの後の人生でお前に耐えられない
現実を目の当たりにするかもしれないと思ったんだ。
俺はなんとなくそう言うのが分かる。
何かお前の在り方が変わる大きな出来事が近いうちに少なくとも二回はある。
一つは明日にでも、もう一つは...すまないが大まかな時期すらまだ分からない。
...お前は自分自身が変わってしまうような出来事を知る覚悟ができるのか?」
考える。だが、記憶を失ってしまった今の状況では...
「...正直、わからないし怖い。」
「まぁお前ならそう答えるって知ってた。
せいぜい身構えておいてくれ
過去からくる、変えることのできない現実
それは変えることのできる未来よりも恐ろしいものだ。」
「......」
「ははっ、ごめんな暗い話題しか提供できなくて
そんなに深く考える必要はない。
でも少しずつ覚悟を済ませて欲しいんだ
今これを知ればお前は壊れてしまう
実際、俺は....」
「おいヒサトー」
遠くからタイシの声が聞こえる
「...友達が迎えに来たみたいだぜ、行ってやれよ」
「色々聞きたいことが...」
「焦るな、それは今じゃない
まあ俺から何か言うとするなら...
どうしようもなくなった時は周りを頼れ、
いなくなってしまう前に。」
そういうと突然姿を消した
目の前にいたはずなのに、突然
彼は何故突然過去の話をしたのだろうか?
...もしかして彼は俺の記憶のことを知って...
いや、むしろ彼は全て知っているんじゃないだろうか。
...こんな結論が出ないことを悶々と考えても時間を無駄に浪費してしまうだけか。切り替えよう。
なんとなく、また現れる気がするし。