自分を見つめる
ある程度の準備が済んだ後
みんなと解散して各々街を散策している。
俺は今、記憶を失っているが、失ったといっても"思い出"が失われただけで常識とかは依然として記憶にある。
その常識を踏まえてもここは能力と生活がうまく組み合わさってできたとても楽しい場所に感じた。
厄介なことに巻き込まれそうなのは嫌だけど、
そんなことより色々興味を唆られるものばっかで
ちょっとくらいならそう言うトラブルも許せるかもしれない。
...フラグにならなきゃいいけど。
「やぁ、ハジメマシテ...でいいかな?」
普段ならそのままスルーする声かけ。
知らない人から声をかけられることはほぼないし、
基本的にすぐそばにいる誰かに話しかけてるケースばっかり。もし、自分に話しかけていたとしても、
変な関わりあいになるのはめんどくさいので
気にかけず、スルーするのが正解...のはずなんだけど。
でも、今回はなにか確信的に、自分に話しかけていると感じて、返事をしようとする。
振り返ってその声の主を見ると、店のカウンターの奥から話しかけてくる人がいた。
背は俺と同じくらいの男性で、フードをかぶっていて顔は良く見えない。
だが、見え隠れするその顔は、どこか見覚えのある顔だった。
記憶がない今の状況がもどかしい。
「すいません、僕、今、記憶喪失で...もしかして顔見知りだったりします?」
「いや?そんなことはないよ。」
「じゃあ初めましてですね、えっと名前は...
「ああ、名前なんていいよ。
わざわざ名乗るのも名乗られるのも苦手なんだ。」
その言葉に不思議と俺は親しみを覚えていた。
俺と同じだ。社交辞令として自己紹介はするにはするができればしたくない。
この気持ちはどっちなのだろうか、記憶がないことによって自分は本当の自分でないから必要ないと感じるのか、そもそもこれを苦手としているのか。
まあいいや。
「いやなに、浮かない顔だったから話しかけただけだよ。
そうだ、そこの店、占い屋なんだ。
君は記憶喪失なんだろ?気休めとしてでもいいから、店主に見てもらったほうがいいよ。」
「占いですか?」
「以外と悩みが吹き飛んだりするよ?」
「じゃあちょっと行ってみます。」
新手の詐欺だったりしないよな?とか思いながら店の中に入る。
店の中は怪しげな雰囲気というより喫茶店のようなところで、カウンターの向こう側には、気だるげなお姉さんがちゃっちい水晶玉を片手で持っていた。
「やぁ、まあ座りなよ。」
俺は少し高いカウンターの椅子に腰掛けた。
「占いをしてほしいんですけど...」
「いいよ。でもちょっと時間もらうよ〜。
結果が出るまで時間かかるからね。
ま、ちょっと雑談でもしようか。
変な質問だけどさ。君はパラレルワールドって信じる?」
「パラレルワールドですか?」
「そうそう。もし自分が〇〇だったら〜みたいな世界のこと。」
「...よく分かんないですね。」
「そっか〜。私よく考えるんだよね。
色んな可能性についてさ。
あの時ああしてたらどうなってたんだろうって。
でも、もしかしたら一見それは失敗だけど、もっと後までみたらまだマシな分岐だったりするかもしれないとか考えたり...
そしてもし、最悪の結末を迎えたとき、その後自分は何をするのかなとか...」
その女性は指先で水晶玉をクルクル回し、それを机に置き直す。
「さて、結果は...あー、こりゃひどい。
明日以降全部災難が見える。
外に出るときは気をつけた方がいいね。」
そこまで言って女性は自分の目を手で覆った。
「ごめん、見てるだけで気分が悪くなってきたから、店を出てってくれない?」
そう言われて俺は店を追い出されてしまった。
そんなことある?
店の外にはまださっきの男がいた。
「どうだった?」
「最悪でしたよ。いや、占い結果のことですけど。」
「そうか。まぁ向き合わなきゃいけないものもある。
俺から言えることは、何があっても自分を見失わないことだ。」
そのとき、遠くから声が聞こえた。
「おい。ヒサトー」
タイシの声だった。
「...友達が迎えに来たみたいじゃん。行ってきな。」
「色々聞きたいことが...」
「それは今じゃないよ。焦らないで。
まあ俺から何か言うとするなら...
どうしようもなくなった時は周りを頼れってことかな。
じゃあね、性善説信者。」
そういうと突然姿を消した
目の前にいたはずなのに、突然。
しかもそこにあったはずの店も消えている。
不思議な体験だったな。よく分からなかったけど。
疑問を残しながらも、俺はタイシの元に向かった。




