3月4日 記憶喪失
ある男は自分の目的のために旅に出た
一人目は自分の意味を求め、自分を救うため。
いくら利己的と言われようと、
彼は、結局自分が幸せでなければ意味がないと結論づけた。
二人目は仲間に寄り添い、仲間を救うため。
どれだけそれ以外を傷つけようとも、
彼は、結局自分の幸せには自分の仲間の存在が必要と結論づけた。
三人目は人々を全て守り、人々を救うため。
たとえ偽善者と言われようと、
その行動に一抹の善があるならば意味のあることだと結論づけた。
四人目はただ、世界を救うため。
何も残らなくなったとしても、
世界が残る限り、進み続ける限り、それが正しいと狂信し、そう結論づけた。
そして、五人目は...
なんでこんな旅してんだろ。
結構長い距離を歩いた気がする
のどかすぎる平原
何もない一本道、一昨日から変わっていない景色
どこまでも続く地平線。
そこから覗く日の光が僕らの3本の影を作っている。
いつ辿り着くかわからない不安、旅の疲労。
ふと、泣き言が口から出てしまう
「つら」
別にこんなことを言っても変わらないのはわかっているが、逆に変わらないと知っているからこそ
口に出すことで楽になるかもと思った。
「ネガティブなこと言うとみんな辛くなるって言い出したのだーれだ?」
タイシが突っかかってくる
「いや、こんなに辛いとは思わなくて」
辛すぎて軽い会話を交わすことすら疲労が溜まっていく感覚がある
「ここでちょっとふざけないところからヒサトは本当に疲れてるんだよ」
ヤワラが擁護する
「そうか...まぁそうだな」
タイシはそう言って黙りこくった
いや、黙ってしまったのはタイシだけではないんだけど
急に目眩が俺を襲う、少しよろける
「ほんとに大丈夫?」
ヤワラに心配の声を掛けられる
「大丈夫だよ、でもちょっと休ませて
ちょっと休んだらまた歩ける...」
そうは言ったものの、俺は俺自身が限界なのを知っていた。
二人を気遣ってあまり水を摂取していない。
平衡感覚がわからなくなっていく。
それどころか思考すら回らなくなって、
俺の視界はブラックアウトした。
ベットの上で目が覚める
一瞬混乱したがすぐに理解した
俺は気を失ってしまったんだ
あー、やっちゃったなぁ
冷静になって部屋を見渡すが、見覚えのない場所だ。
体を起こして少し考え事をしていると
これまた見覚えのないスキンヘッドの
おっさんが部屋に入ってきた
「お、目が覚めたな
待ってろ友達を呼んでやるから」
まだ気持ちが悪い。
窓を開けて外を見ながらぼーっとしていると、
少ししてヤワラとタイシが部屋に入ってくる
部屋に入ってくるや否やヤワラが俺に説教する
「脱水症だよ、いくら資源が限られてるからって
水を飲まなきゃ立ってられる訳ないでしょ。
気遣ったのかもしれないけど、
倒れられたら本末転倒だよ」
俺的はまだいけると思ってたとか
言い訳も考えたけどここは素直に謝ろう
ここで言い訳したとこで何の意味もない。
「ゴメンナサイ...」
ヤワラがため息をつくとタイシを指さす
「謝罪や感謝は僕じゃなくてタイシにして、
ここまで背負ってきてくれたからね」
俺はタイシの方に向き直る
「いーよそうゆーのは、俺にとっちゃぁ
苦じゃないことだからな」
「そっかありがとう。」
さて、ひとまずは色々確認しないことにはなにもできないな。
「それで、ここは? 目的地?」
ヤワラに確認する。
「そうだよ」
ヤワラが答える
その言葉を聞いて安心した
そして少しの静寂ののち、おっさんが口を開いた
「あー、ちょっといいか?
外からきたお前らに検閲に協力してもらうぜ
なんせ今この国は中央国と敵対関係にあってだな」
俺たちのバックを持ってきて俺たちに聞く
そりゃあ、まあ怪しいよな。
突然子供三人が長旅を経てこんな辺境の地に来たら。
さっき窓から外を見たときあまり発展していない小さな村のような感じだった。
少なくとも確実に子供だけで来るところではない
「持ち物、確認してもいいよな?」
断る理由はない、やましいことはないし
みんなで目を合わせる、そして頷く
「じゃあこの場で改めるぞ、
缶詰食糧、水、ほとんどがこれだな
テント、寝袋、ここら辺は野宿するための道具だな
そんなものを使うくらい長い旅をしたのか?
聞きたいんだが、お前らはどこからきたんだ?」
所持品を並べながらおっさんは質問する
「えっと...あれ?」
思い出せない、
旅に出る前の記憶が綺麗さっぱり消えてると言うより
記憶のノートが黒く塗りつぶされてるような
そんな気がする。
かろうじて文字で表現するなら
どうしても忘れてはいけないことを
なんらかの力で忘れさせられてるような
そんな気がした
「なんかよく思い出せない...
ごめん、まだ体調がよくないのかも」
「いや、オレもだ...思い出せねー」
「...僕も」
そんな言葉を聞き、焦りを覚える
ぶっちゃけ俺たちもよく分かってないが
どう考えても、このおっさんからすれば
怪しいことこの上ない。
検閲の結果クロになってしまえば
記憶のない上に見知らぬ土地で
居場所のない状況になってしまうかもしれない。
「はぁ?なんだそれ
まぁとりあえず取り調べを続け...」
おっさんの言葉が途切れる
それと同時に何か黒い立方体の箱を
俺らのバックから取り出す
「お前らに聞くまでもなく、この中に
答えが入ってそうだな
弁明があるなら聞くぞ」
その箱がなんなのか俺らはよくわからず
記憶がないことと相まって混乱していた
おっさんはその箱の電源っぽいのをつける
「ん?そうか、出番がきたのか」
その箱から声が聞こえてくる
「この箱、収能システムじゃねえのか!?」
おっさんはそれが言葉を発したことに驚嘆している
「ああ、俺はな、どっから説明すればいいかな
とりあえず高性能な人工知能ってことにしてくれ」
その箱は自分について説明をした
「人工知能か...紛らしいような形にするなよ。」
人工知能は驚かないんだ...
その人工知能はおっさんと交渉を始めた
「コイツらが怪しまれるのは予想済みだ
ゴルディ長老にあわせてくれ、
そのバックの中の紙を渡したい」
「わかった」
それは信じるんだ...とは少し思ったが
そんなこと考えてる場合じゃないな
俺らの疑いが晴れるならなんでもいい
程なくして俺らより5つくらい下の子供が
やってくる
「ナンダ、コレヲヨメバイイノカ?」
なんでそんなカタコトなんだ?
「ハナシハワカッタコノマチニトマルトイイ」
急にトントン拍子で話が進んでいく
あぁもう、情報量が多い...何から聞けばいいのか...
とりあえず俺らの安全は確保されそうだ
次々起こるよくわからないことに
完全に置いてかれている。
脳を整理しようとしたが、疲れで眠気が襲ってくる
「混乱してるだろ、でももう今日は疲れてるだろうし
明日俺が説明するから今日は寝とけ」
例の箱が言う
あなたの存在が一番混乱するけどな
とか思ったが眠気には逆らえなかった