旅の始まり
「はー、めんどくせー。」
借りている宿の部屋の椅子に腰掛けながら呟く。
俺はヒサト。
今年高校生になるはずだった16歳の子供。
俺たちの元々住んでいた国は平和で高度な技術があるところではあったけど、外との繋がりが遮断されていて周りの国との関わりが一切ない国だった。
でもある人に嵌められて、見たことすらない国の外へ旅をすることになった。
そして外の世界に足を踏み入れると、アニメなんかで見るような「特殊能力」なんかが日常と結びついている、ファンタジーな世界観が広がっていた。
そんな世界で俺たちの目的である頼まれた事は
『悪魔の柱』と言うものを計72柱集めろと言う内容だった。
いや、流石に多すぎないか?そんなに長い旅は想定してなかっただけに、いましがた弱音が漏れてしまった。
ちなみにそんな旅に巻き込まれた俺の友達が四人いる。
「まだ言ってんのか?ヒサト。」
俺の呟きに反応して、横から大柄な俺の友達がため息混じりに返す。
彼の名前はタイシ。
強靭な肉体と抜群すぎる運動神経の持ち主。
頭に関してはこの五人のなかならテストの点は最下位。だけど、決して馬鹿ではない。
でも本人はそれがネックなのか、自分でメモの機能を兼ねたブレスレットをつけてる。
趣味は料理で、腕を上げるためにほぼ毎日飯をつくってて、これが結構美味しい。
ざらっと概要をまとめて改めて思うけど、向上心の塊みたいなやつだ。
一個文句を言うなら口調が荒いことかな。
「だって俺ら全員高校生だよ?
なんであんな恐ろしいゾンビなんかと戦わなきゃいけないんだよ。
お前は別にいいかもしれないけどさぁ。」
俺は構わず愚痴を続ける。
そう。この外の世界はゾンビなんかが跋扈する、とても恐ろしい世界。
そんな世界で72個の柱を集めるとか危険すぎる。
そもそも俺はただの高校だっていうのに。
「なんでだよ、生まれも育ちもみんな同じだろ?
俺だってお前らと同じ立場だぞ?」
タイシは呆れたように言った。
「ちがう、そうじゃなくて、
お前はその身体能力でなんとかなるかもしれないけど、俺らにとってはそう簡単な話じゃないってこと」
立ち上がりながらまた反論する。
タイシの身体能力はさっき強靭な肉体って表現したけど、最早それ以上。ゾンビだって簡単に倒せてしまうくらいには強いし、人間の限界を超越してる。
そんな奴に俺らの気持ちは分かるまいと思ってしまったのだ。
「まあそうか。お前は家でゲームしてばっかの引きこもりだもんな。」
タイシが安い挑発をする。
「別にお前だって好きで外に出るタイプの人間じゃないだろ。料理ばっか研究して。
自分の趣味に時間を費やす趣味人間としては俺と同じだろ。」
何でわざわざこんなことに言い返したんだろう。
意味のないことはわかってるのに。
「はいはい。わざわざ喧嘩しないで。そもそも論点がどんどんズレてるし。
私は何か熱中できる趣味があるってだけで羨ましいよ。
でもあんなこと言ってたけど、ヒサトも能力持ってるじゃん。」
向かい側の席から身を乗り出しながら俺たちの仲裁をするのは、気の強めな女子のエマ。
怒らせると何されるかわからないから怖い。
ちなみに彼女実は、俺らの日常とは全く違うこの旅に一番テンションが上がっている説がある。
「そうそう、しかも結構強い能力だよね」
それに加勢するのは中性的な見た目の男の子のヤワラ。
俺の義理の兄弟で、エマと同じ二人目のマトモ枠。
というか本人曰く嘘がつけない体質らしい。
頭の良さはテストの点で言えばこの中で一番高いし、性格も真面目で優しい。
...俺以外には。
そう、俺は能力を持ってる。
能力とは、条件を満たすことで誰でも発現する可能性がある、自分のエネルギーを使って、物理法則を無視し、様々なことができるとても強力な概念。
例えば、火を扱う能力だったり、なんでも切れる能力だったり。アニメや漫画でよくあるやつ。
でもここまではアニメとかでもよくあるものだけど、俺のそのアニメの知識とは少し違う情報もあって、
それはこの世界で得られる能力は255種類の中からランダムに選ばれること。
つまり、能力を手にしても余裕で他の人と能力が被ることがあるとことだった。
しかし、俺の能力はその中に記録がない、新しい能力だった。
俺の能力は瞬間移動。
半径約5メートル程の範囲に一瞬で移動できる。
なんか地味だけど、個人的にはかなりポテンシャルの高い能力だと思う。
ちなみに不満を言うなら、面倒ごとは嫌いだから新しい能力とかやめて欲しかったところはある。
データがないから使い方を自分で研究するしかないし。
と、それはさておき、
俺は二人に向き直った。そして
「いやー、カップルの二人から言われちゃったよ」
と揶揄いながら話題を変えようとした。
ちょっと漏れた弱音からこれ以上燃え広がったら困るし。
そう。この二人は付き合っているカップルであり、
俺がそれのイジリをして二人に睨まれるまでがワンセットで恒例行事。
「・・・」
無言のまま、エマは席を立ち
俺の至近距離まで歩いて顔を覗き込んでくる。
エマの顔が近づき、
俺は心臓の鼓動が早まっているのを感じた。
...エマから目を離すことができない。
離したら殺される...
エマからとんでもない形相で睨まれて俺は血の気が引いた。
「すいませんでした。許してください」
「よろしい。」
エマは真顔に戻り、座っていた席に戻って行った
危ない、殺されるところだった
「あんまりやりすぎないほうがいいよ。」
ヤワラにたしなめられ、俺は引き下がることにした。
一息つき、俺は立ち上がる。
そして、冷蔵庫のメロンソーダを手に取り、自分の席にもどる。
席に戻ってジュースを飲みながら
俺はずっと黙っている女子の方を見る
彼女はスズネ。
タイシの妹で、活発的な兄とは反対に物静かな女の子。
見た目こそ儚げな少女だけど、
耳栓をすることで、とてつもない集中力を発揮する。
そう言う点ではカッコ良さも兼ね備えてる。
そしてスズネは...
視線を感じ、それが発されている方を向くと
エマがニヤニヤとこちらをみてた。
まずい、気付かれた?
いつもの俺の言動が言動だから、いつこのことに気づかれてからかわれてもおかしくない。やばいかもしれない。
その時、人が走って近づいてくる足音が聞こえた
「唐突ですまないが、イロンの奴から伝令だ。
『近くでゾンビが確認されたんだが
討伐の依頼を頼めないか?』とのことだ。」
若い男の人が部屋のドアを勢いよくあけると、俺らに助けを求めてきた。その人はリュウさんと言って、
この町の住民の一人で、俺らに協力してくれる人だ。
俺たちが今いるのは"外の世界"のミネラル町っていう鉱山が近くにある町。
この街の部隊は今ほとんどが別の地域に遠征に行っており、手がまわりきっていないらしい。
「近くかぁ、じゃあ行く?イロンさんとの約束もあるし。」
「おし、じゃあ行くか!」
「気は引き締めとかないとね。」
「頑張ろう!」
「わかった。」
各々俺の決定に肯定した。
俺ら5人にとっての初陣だ。
因みに俺がこのメンツのリーダーだから決定権は俺にある。
...リーダーは押し付けられたものだけど
身支度を済ませたのちに、その現場へと赴く。
そこはほとんど平原のような場所だけど、奥に壁のような崖の見える地形だった。
「すまない。この町に今現在動ける集団が君たちしかいないんだ。
俺は用事があるから手助けはしてやれないが、激励だけはおくっておこう。
君たちなら勝てるはずだ。」
リュウさんはそう言う
さて、まずは作戦会議だ
「じゃあヤワラ、作戦考えて」
俺はヤワラに丸投げした
「なんでよ、リーダーはヒサトでしょ」
ヤワラは当然の文句を垂れる
「いやいや、なんでみんな俺がリーダーで
納得してるの?俺はやっぱり向いてないと思うんだけど。」
絶対面倒くさいの押し付けてるだけだろ。
数秒の沈黙の時間を経て俺が折れる
すごい圧を感じた。
「...わかった、じゃあ作戦を話すよ」
みんなは待ってましたと言わんばかりの表情をしている。
はぁ、やっぱり俺がやるのか。
「って言っても、単純だよ?
タイシは主戦力として大まかな敵を片付けて
エマとヤワラはそのカバーに。
人や変異種がいた場合は俺が前に出てなんとかするから、スズネは銃で援護して。」
作戦を伝えると各々自分の役割を
全うするために散会していく
ゾンビとはとあるウイルスに感染し、凶暴化した動物の名称だ。
このウイルスは動物は空気感染するが人間はしない
しかし、体液感染はする。
感染した人間は十秒経たないうちに破裂して
跡形も残らなくなってしまう。
幸い、ワクチンは存在しているので
コレさえ打っておけば感染はしなくなりはする。
とはいえ、数が少ないので限られた人しかワクチンは接種できないのでこの町ではワクチンを打った人には今回みたいにゾンビから人々を守る使命が課せられることになる。
ちなみにゾンビ化した動物はそもそも脳がウイルスに
侵食されるから元には戻らない。
つまり、感染してしまったら殺すしかないってことだ。
俺は専用の武器を手に取る。
この武器は対ゾンビに特化した武器で、ゾンビ化した動物をコレで切ることでウイルスを滅菌でき、ゾンビを倒せる。
俺の専用武器の形は短剣。
コレにした理由は...
大きな武器を振り回せるほどの体力がないから。
日々の運動不足が祟ってる。
そんなことを悔やんでいるうちに、タイシが専用グローブでシカのゾンビの大群を殲滅している。
それにヤワラは薙刀、エマは西洋剣でタイシに続く
さて、俺の仕事は...
俺は一度辺りを見回す。
あそこにいるチーターか。
チーターは本来意外と臆病だったり、単独行動が主だったり普通なら他の肉食動物よりは危険は少ないんだけど、なんせゾンビ化で凶暴化してるし、足の速さは本物だから、かなり手強いだろう。
こちらが近づくとチーターはそれに反応してこちらに走り出した。
時速100kmを超える速度を、瞬間的とはいえ出しているその姿は圧巻だ。
どんどんと、俺とチーターの距離が縮まっていく
流石にあの速度を正面から受けたらやばい
10メートルの距離まで近づいたとき、俺は"能力"を発動した。
俺の能力は瞬間移動を使った。
そして、チーターのすぐ上に瞬間移動して首を刈る。
するとチーターは突然魂の抜けたように体が動かなくなり、その速度のまま、死骸だけが慣性で吹っ飛んでいった。
いいなこの能力。
正直チーターにこんな簡単に勝てるとは思わなかった。負けることもちょっと考えてたのに
何より一瞬で感覚的に発動できるのが合ってる。頭をどれだけ回転させても体が追いつかないことも多いけど、これならちょっと考えるだけで使えて勝手がいい。
「ヒサト!まだいる!」
ヤワラが俺に向かって大声で警告する
振り向くと、まだもう一体のチーターが俺に迫っていた。
誰だ?チーターは単独行動って言った奴は。
って、早く能力を使わないと...
バン!
銃声がして、俺に向かっていたもう一体のチーターは倒れた。
音のした方を見れば、スズネが援護してくれていた
俺はスズネにグーサインを出すと、向こうもグーサインを返してくれた。
こちらの処理が終わって辺りを見渡すとヤワラがまだ目の前のゾンビを倒せずにいた。
一度倒したこともあるし、ゾンビはもう死んだ動物だから躊躇う必要なんてないとは思っちゃうんだけど...
でもかけるべき言葉はそれじゃない。
割り切れない気持ちだって理解できるし。
かと言ってやらなくていいってストレートに言って
圧をかけてるみたいになってしまうのも嫌だ。
本人の本心の言葉を聞く必要がある。
「大丈夫だよ。ヤワラは自分のなりたい自分を目指せばいいんだから。」
俺のできる最大限を使った言葉でヤワラに語りかける
リーダーとして、責任は果たさないと。
ヤワラはうつむき、葛藤している。
ただ、それはそう長く続いたものではなく、すぐに顔を上げ、薙刀でゾンビを払う。
「死んでるのに動き続けるなんて、可哀想だもんね。」
コレでゾンビの討伐は全て終わったが
タイシが何か言いたげにしていたので聞いてみると
「そこの崖のところにある洞窟に人間が入っていくのを見たんだ。ちょっとオレ、行ってきていいか?」
行こうとするタイシを俺は止める
「いや、俺がいくよ
あの洞窟...坑道かな?ボロボロすぎていつ落盤してもおかしくない。俺なら仮に坑道が落盤しても帰ってこれるから行ってくるよ。」
俺が一番の適任だろう、そう思って俺が行くことを主張する。
「流石リーダーだな」
リーダーをやらせるためにおだててるだけだなコレは。
まぁ褒めてくれるのは満更でもない。
俺は一人で坑道の奥へと向かった。
そこには一人の40代くらいの男がいた
「・・・誰だ?なぜここに来た?」
おっさんは俺に聞いてくる
「この坑道、もうボロボロでいつ崩落しても
おかしくないくらい危険なんで、それを伝えようと...」
男は俺に近づくと即座に俺の胸板に触れ、
「固定化」
...空気が凍りつく。
能力を使われたのか?
字面から察するに使われたのは動けなくなる能力だろうなぁ。
しまったあまりにも無警戒が過ぎた。
流石にこんなすぐに敵意剥き出しの人と出会うことになるなんて...
ん?あれ?
「悪いな、誰かは知らんが、お前はここで地面に埋まって死ぬ。そういった『運命』だ」
そう男が言い放った瞬間
俺は能力で男の背後に能力で瞬間移動し、短剣を刺した。
この短剣などの俺たちが使う武器ははあくまでゾンビを倒すためのもので、人間に刺しても外傷は負わない。
が、相手のエネルギーを奪って気絶させることができるので、十分対人でも自己防衛くらいは果たせる。
「なぜ、能力が効かない?」
自分でもわからないけど、何故か動けた。
能力が不発に終わったのかな?
「そうか能力の効かず、瞬間移動の能力を持った少年。
お前がヒサトか。
まだ出会う『運命』ではない奴と出会ってしまったようだ。
しかし私も、ここで倒れる『運命』ではないのだよ」
そう言うとその男は忽然と姿を消した
なんか口癖のように運命連呼する痛いやつだったな。
なんであの男は俺の名前を知ってたのか
なんで目の前で突然消えたのか
「っていうかそもそも、俺は一体何に巻き込まれてるんだ?」
そう呟くと俺は、一人残された坑道の中で、今までのことを整理するために、俺は少し前のことを思い出し始めた。




