表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/72

プロローグ

 ──〈ディバイン・ワールド〉


 それは世界初のフルダイブ型VRMMO。

 十層の廃都市ダンジョンを舞台にした、剣と魔法のファンタジー物語。


 ベータテストの応募は15歳から16歳を限定に実施、世界中から寄せられた希望者は数百万人以上にも(のぼ)る。

 その中で奇跡的に当選を果たしたボクは、いつも愛用しているプレイヤーネーム。


『シエル』で参加した。


 プレイ時間は180時間。

 作製の難しい〈セラフ・ブレット〉を無限に使用し、ガンソードを手に超人的な反射神経で敵を殲滅(せんめつ)する、小さな蹂躙姫(じゅうりんひめ)


 または美しき〈純白のガンブレイダー〉と呼ばれ、他の人達から〈ディバイン・ワールド〉で最も美しいプレイヤーと評されていたけど。


 ボクの現実は、女の子ではなく男の子だった。


 世間ではネカマという人種にカテゴライズされるらしいが、自分の場合それとは大きく異なる。


 物心がついた時から、いつも心と身体に大きなズレを感じていた。


 女の子の服を着たい衝動が強かったり。


 常に自分の身体に違和感を覚えていたり。


 ──()()()()()()()()と強い憧憬(しょうけい)を抱いていたり。


 だから仮想世界では女性になりたいと考え、ゲームの中でアバターの性別を変えた。

 NPCが運営している宿屋のベッドの上、横たわるリアルの姿を再現した身長は150もない。


 フルスキャンで作成したアバターの髪色は、現実と同じアルビノで色素の薄い純白。

 キャラメイクは顔以外は自由だったので、とりあえず髪の長さを思いっきり膝まで伸ばしてみた。


 病弱で細い身体に纏っているのは、お姫様のような白の鎧ドレス。

 自分は普通だと思っているが、顔立ちは全てキャラメイクをしたんじゃないかと思われる程の美形らしい。


 お世辞だと思うけど、綺麗とか可愛いとか言われるとやっぱり嬉しい。

 性別と髪の長さを除けば、この身体は現実にあるのと全く変わらないのだから。


 外見と心は女性寄り。

 これで生物学上は男なんて、世界はバグっているんじゃないかと思う程に歪だ。


 ──いや、もしかしたら本当にバグっているのかも知れない。


 ボクだけではなく、この世界のシステムそのものが。


 例えば先日テレビで報じられていたが、世界の環境汚染や地球温暖化は進んで絶滅危惧種は増加中。

 更には人類の経済も悪化する一方、このままでは経済恐慌に陥るとの事。


「悪いことばかり起きるよね。これが人の歴史が積み重ねた自業自得なのか、それとも……」


 以前学校の図書館で何となく手に取った、一冊の本に書かれていた内容を思い出す。

 自分達人類が生活しているこの世界は、すべて『シミュレーテッドリアリティ』である一説だ。


 これはコンピュータを使ったシミュレーションによって、真の現実と区別がつかないレベルでシミュレートすることを指す。

 内部で生活する意識は、それがシミュレーションであることを知っている場合もあるし、知らない場合もあるらしい。


 以上の話をまとめて、一つの仮説を提唱する。


 この世界が高度なプログラムで出来ているのなら、バグが生じている可能性はゼロではない。

 それ程までに、この世界に住む自分達は徐々に追い詰められているのだから。


「という事はバグを修正したらこの世界は良くなって、オマケにボクは女の子になれたりするのかな?」


 ──なんて、全ては自分に都合の良い妄想を口にする。


 ふと乾いた笑いがこぼれた。

 実に虚しい、ただの現実逃避だと思った。


「……あ、まずい。そろそろ学校に行く準備しないと」


 時間表示が6時30分になるのを確認。

 慌ててメニュー画面を操作し、ログアウトした。


 本日は二学期が始まる日。

 現実世界に戻ったボクは、頭がすっぽり入るサイズのVRヘッドセットを外す。


 お気に入りの猫さんパジャマから男子の制服に着替えると、眼鏡をかけて姿鏡の前で身だしなみを整えた。

 綺麗な鏡面に映っているのは、ゲームの中と同じ白髪の少女みたいな姿。


 ──()()()()()()()


 これがボクのリアルだった。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ