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龍に生まれた少年は、異世界令嬢の奴隷になる  作者: 御星海星
龍国争乱編
9/78

トレー二ング・フルボッコ・ヴァンパイア


前前作といい前作といい、毎回毎回、吸血鬼を描いている気がする。

俺の作品にダレンシャンが与えた影響はあまりにも大きい。

というかぶっちゃけあれで性癖が歪んだ。

おすすめです、ダレンシャン。




「というわけで、戦闘訓練をしましょう?」

「はぁ?」


 場所は特権区、学院にほど近いカフェテリア。

 椅子に腰かけ、ホイップクリームたっぷりのケーキを口に運ぶリーンお嬢様。

 眉を寄せながらもカスタードプリンを頬張るカティア様と、顔を見合わせるミカ様とアサカ様。

 ついでに立ちっぱなしの俺と、面白いものでも見るような眼の通行人。

 放課後、リーンお嬢様の提案でここによっていくことにしたのだが。


「再来週、死の罠の迷宮(ダンジョンオブデッド)での実地訓練があるでしょう。戦闘速度での連携を練習しておいた方がいいんじゃないかしら?」

「だんじょん」

「おぶざでっど」

「リーン。あそこの迷宮、そんな物騒な名前じゃないでしょ。二人とも安心して、ちょっとした、遊技場みたいなものだからさ」


 一気に顔を青ざめさせた2人に対し、落ち着かせるように笑うカティア様。


「クロ殿。一つ宜しいか?」

「いかがなさいましたか?アサカ様」

「その、ダンジョンについて教えてもらえないだろうか?なにぶん、座学が苦手で………」

「この大陸の各地に点在する危険地帯の総称ですね。古代文明の遺跡や上位龍の領域、地脈に惹かれた魔物たちの棲家など、さまざまな種類と帰還難易度で分けられています。人形共の墳墓(マリオネットグレイヴ)………今回潜る迷宮は6階層、難易度は最低ランクのFです。腕っぷしに自信のあるゴロツキ程度でも、十分に攻略出来るレベルかと」


 もっとも、20人くらいで徒党を組んでいけばの話だが。


「問題があるとすれば、私たちはそれぞれが何をできるか知らないこと。別に、奥の手を晒せっていうわけじゃないんだけど、何が得意かぐらいは教えてほしいわ。というわけで、アサカさん。スリーサイズと得意分野を教えてもらえるかしら?」

「……………へ?」


 キョトンとするアサカ様に対して、可愛らしいしぐさで小首をかしげるリーンお嬢様。

 とりあえず。


「リーンお嬢様。アサカ様の性別は男です」

「胸筋力は戦闘能力に直結するわ?」

「……………職業(クラス)(サムライ)、回避主体の近接戦闘が得意だ。逆に、遠距離戦はからっきしだから、そのあたりはフォローしてもらえると嬉しい。奥の手……………というか禁じ手に近いが、前の戦闘訓練でクロ殿相手に使った抜刀術(ヌキウチノタチ)錆び腐れ(サビアザレ)が隠し玉だな。あらゆる肉を錆びつかせ、あらゆる鎧を腐らせる神代の大業物だ。抜きっぱなしにしていると自分も錆びつくせいで、居合抜刀にしか使えないのが欠点…………といったところか。我ながら、ふがいない」


 相も変わらず腰に差した太刀を鞘ごと掲げ、そんなことを言うアサカ様。

 本人はどことなく自信なさげだが。


「実際、凄まじいものでしたよ。まさか、リーンお嬢様やご当主様以外で、俺に四肢欠損級のダメージを与えられる人間がいるとは、思ってもいませんでしたので」

「その節は申し訳ない」

「別にいいわよ。クロの手足なんて、ほとんどトカゲのしっぽみたいなものよ?」

「リーン。一応、ワンコ君は人間なんだよね?」

「えぇ。ちゃんとしたヒトよ?」

「じゃあ、人間並みの扱いをした方が」

「痛くした方がクロが喜ぶもの。仕方ないじゃない?」

「へぁっ!?」


 奇妙な悲鳴を上げ、驚愕したような眼で俺を見るカティア様。

 はっきり言って、リーンお嬢様の仰ることは正しい。

 正しいが、まぁ、うん。

 なんというか。


「…………否定は致しません」

「……………リーン。君、どんな調教したの?」

「どんなって言われても……………ねぇ?」


 二コリと妖艶に微笑んだお嬢様が、しかし絶対零度の視線で俺を睨む。

 「何も言うな」ということか。

 そしてその態度から何かを察したのか、一様に黙り込む面々。

 沈黙と、周囲の客の目線が痛い。

 目を閉じたリーンお嬢様が、ナプキンで口を拭い。


「次よ次、ミカさん。自己紹介お願いするわ?」

「ええっと、職業(クラス)拳銃使い(ガンナー)で、いちおう、遠距離戦も格闘もこなせると思います。クロさんには、その、全部防がれてましたけど。………魔法で攻撃するのとか、広い範囲を巻き込んだりするのは苦手なので、そのあたり、よろしくお願いします」

「安心しなさい。クロの鉄壁防御を抜けっていう方が無茶よ。それに、私もクロも、精密狙撃とかできないから、こっちも頼らせてもらうわ?」

「それじゃ、次はボクの番だね。職業(クラス)人形遣い(ドールキャスター)、中遠距離から一方的に殴るのと、強化するのが得意。ボク本体の戦闘能力はそこらの一般人と変わらないから、ちゃんと守ってほしいかなって」

「むしろ、私からすればカティが貧弱すぎるし、痩せすぎだと思うのだけれど?ちゃんとご飯食べてるのかしら?」

「……………まったく、リーンはいいよねぇ。昔っから、いろいろ、ほんっとうに、いろいろと恵まれててさぁ」

「?」


 ジトリと湿度を帯びた金色の瞳が、リーンお嬢様を睨みつける。

 その視線は、主に、上半身の1点に集中していた。

 …………なるほど、コレが格差社会か。

 惨いな。


「おい、ワンコ君、今、何考えた?」

「本日の夕食に何を出そうか、思考しておりました」

「ギルティ?!ノットギルティ?!」

「とりあえず、私の紹介をさせてもらおうかしら?職業(クラス)支配者(ハンドラー)、遠距離中距離格闘なんでもできるけど、精密攻撃と防御は苦手ね。六合一宇幻想曲(アストラファンタジア)も、鬼札の食人月(カニバルナ)英雄的蛮行(ヒロイッシュバーバリ)も、一撃必殺だし手加減も出来ないから、死にたくないなら射線上に立たないで頂戴?支援と防御はお願いするわ?」

「…………あの、ひょっとして、この戦術部隊(パーティー)盾役(タンク)がいないんじゃ」

「そこにいるでしょう?最高の肉壁が?」

「にく」

「かべ」


 リーンお嬢様に指さされる俺に、何かとてつもなく不憫なものを見るような視線を送る、ミカ様とアサカ様。

 わけがわからない。


「そう、ですね…………職業(クラス)奴隷(スレイヴ)、中近距離戦闘と魔術、それと防御が役目になります。出身故に息吹(ブレス)の魔術も使えますが、撃った後はほぼ間違いなく戦闘不能に追い込まれるので、火力としては期待なさらない方がよろしいかと」

「あれ、そうなんですか?」

「はい。魔力回路の過剰出力(オーバーロード)が発生するため、その後3時間は何もできなくなると、そう考えてください」

「………えっと、ワンコ君は援護と壁役に徹してもらおうかな?攻撃手(アタッカー)3人と支援手(サポーサポーター)1人、盾手(タンク)1人、回復手(ヒーラー)が1人もいないのが不安要素だけど………………」

「一応、俺の疑似再誕(スー・リバース)なら、脳味噌と体の4割が残っていれば蘇生できます。回復手段に関しては問題ないかと」

「クロ殿が使用していたアレか……………なら、安心だな」

「ですね。私みたいな貧乏人は治癒の水薬(ヒールポーション)も買えませんし。回復手段があるのはありがたいです」


 安心したように笑う二人組。

 まぁ、確かに、死にさえしなければ治して見せるが。


「ミカ様、アサカ様。1つだけ言っておきますが、疑似再誕にも欠点がございます」

「欠点、ですか?」

「ええ。アレは本来、対象を内側から自壊させる呪詛です。装甲を無視した致殺の魔術を再生に転用したものなので、要するに、とても痛いのです」

「……………えっ?」

「致命傷を癒そうとしてショック死など、笑いの種にもならないでしょう?可能な限り負傷しないことをお勧めします」

「クロ殿。具体的に、どれくらい痛むのだ?」

「錆びたノコギリで首を切られるくらい、ですね」

「…………あの、痛くないように治すことは」

「残念ですが、諦めてください」

「………そこをなんとか」

「不可能です」


 捨てられた仔犬のような、潤んだ目で俺を見るミカ様。

 少しばかり良心が痛むが……………これくらい脅しておけば、「けがをしても大丈夫」などと甘い考えをするようなこともないだろう。

 下手に油断して死なれるよりも、おっかなびっくり戦う方が、まだマシだ。

 数少ない、リーンお嬢様がまともに話せる人間を、むやみに死なせるわけにはいかないのだ。


「ああ、そうだ。皆、この後、ちょっといいかな。特にミカちゃんとアサカ君に渡しておきたいものがあってさ」

「自分に?」

「まぁ、貰えるものならなんでもありがたいですけど…………」

「じゃあ、早速行こうか。きっと気に入ってもらえると思うからさ!!」


 不安げに顔を見合わせる二人と、それを見てニヤリと笑うカティア様。

 嫌な予感を、ため息交じりに吐き出した。

























 帝都外れ、カティア様の工房。

 併設された訓練場で、大きく息を吸って、ゆっくりと吐き出す。

 右手で握りしめるのは、ずしりと重い、棘鉄球。

 捻じるような回転を加えて投じたソレは、射線上にあった的を、一撃で粉砕した。

 散弾銃では不向きな遠距離狙撃を実現するために、原始的な投擲を使うのも妙な話だが、これが最適解だから仕方がない。

 岩石系魔術で弾丸を作れば実質無限に撃てるし、命中精度で銃撃に劣りこそするが、かなり便利だ。

 問題があるとすれば。


「むしろ、こっちなんだよなぁ…………」

「なにか言った、かしら?」

「ちょっ、待っ、リーン女史、激し」

「よそ見厳禁よ?」

「のわぁあ!?」


 縦横無尽に暴れ回る長鎖と、それに振り回される大鐘。

 鈍色の刀身を繰って必死に受け流すアサカ様が、あたり一帯を巻きこむ薙ぎ払いに、悲鳴を上げて撤退した。

 直後、鎖が波のように唸り、連続で放たれた銃弾を食い止める。

 前傾姿勢で駆けたリーンお嬢様が、ゴウンと音を鳴らして宙を裂く一撃を放った。

 ちょっとした破城槌のような勢いで飛んだ大鐘が、直後、衝撃音を鳴らして地面に落ちる。

 土埃の中、大鐘の側面を踏みつけにしたミカ様の姿。

 妙に複雑な形状をした脚甲と、その隙間から噴出する蒸気。

 確か。


激発内蔵装甲(インパクト・アーマー)……………か」

「攻めてよし防いでよし加速に使ってよし、ここ最近造った中で、一番のお気に入りだよ。不壊丸(アンブレイカブル)………アサカ君に貸した刀も、刀身に魔術障壁を織り込んで、強度を飛躍的に向上させている。いくら相手がリーンといえども苦戦は必定、今回のダンジョン程度なら問題なく踏破できるさ。ワンコ君の鉄球投げも、実戦投入できるレベルみた」

「WREEYYY?!?!」


 カティア様のセリフを遮って、奇声が鳴り響いた。

 泥まみれでぶっ倒れるアサカ様と、同じように目を回したミカ様。

 バラバラに砕かれた大太刀の切っ先が、墓標のように床に突き刺さっている。

 死屍累々と言った惨状のど真ん中で、握りしめた両拳を天に突きあげて叫ぶリーンお嬢様。

 なんというか。


「さすがです、リーンお嬢様」

「いや、ちょっとまって!?なんでそんなあっさり壊れてんの!?耐久試験もクリアしたはずなのに」

「裏拳で壊れたわよ?」

「ウソでしょ!?」

「事実です、カティア様」

「ウソでしょ!?」


 カティア様がドヤ顔で説明していた辺りで、カウンター気味にブチ折っていた。

 さらに言うなら、そのままお嬢様がアサカ様の肩を掴んで投げ飛ばし、次の瞬間には、ミカ様がパワーボムを喰らっていた。

 俺が認識し損ねるレベルの速度だ、二人に捉えられるわけもない。

 むしろ、気絶していないだけ上等だろう。


「すまない、カティア女史。せっかくもらった刀を折ってしまった」

「あぁ~………別にいいよ。相手がリーンだったし」

「すいません。私も負けちゃって」

「ミカちゃんに貸したのもアサカ君に貸したのも試作品だったし、いいデータになったと思っておくさ。でも、次は出来れば勝ってよ?」

「…………あぁ、わかった」

「2人とも、よくやったわ?」


 落ちこむミカ様とアサカ様に、リーンお嬢様が声を掛けた。

 それも何故か、ゾッとするような笑みを浮かべて。

 怯む二人に対し、薄桃色の唇が、三日月のように吊り上がり。


蝙蝠傘(フェーダーマウス)。…………アナタたちに見セるのは、ハじめテかしラ?」

「なっ!?」

「うわぁっ!?」


 リーンお嬢様がはじけ飛び、その場に現れるコウモリの群れ。

 バサバサと羽音を立てて、渦を巻いて飛行したソレが、数メートルほど移動したところでリーンお嬢様の姿に戻った。

 半吸血鬼(ヴァンピール)としての権能の1つ、蝙蝠化。

 知識としては知っていたが、見るのは初めてだな。

 神秘的だ。


「…………えっと、リーンさん、今のは一体」

「私のお母様は吸血鬼で、私のお父様は人間だった。これだけ言えば十分でしょう?」

「………半吸血鬼、か」

「その通り。頭を吹き飛ばされても、心臓を貫かれても死なず、血を啜ることによって力を得る、月と暴力と真夜中の支配者。それが私よ。……………もっとも、()()なのだけれど?」

「…………つまり、リーンさんは亜人の混血種ということですか?」

「その通り。異端審問官にバレれば、獄門からの極刑は間違いないわ?」

「きょきょっ」


 顔を真っ青に染めたミカ様が、奇怪な悲鳴を上げる。

 純血のヒトの貴族を至高とする異端審問組織は、この帝国固有の集団とはいえ、その熾烈さで名を鳴らしている。

 一度混血種と見れば、相手が生まれたばかりの子供であったとしても、浄罪という名の拷問にかけて殺す、その非道なやり口と特に必要がなくても一般市民を巻き込む傾向から、国からも危険視されている反社会勢力。

 ただ、その残虐性と金さえ積めばどんな殺しでも請け負うスタンス故に、一部の嗜虐趣味の貴族や政敵を排除したい閥族貴族から人気が高く、司法に裁かれることもない凶悪集団。

 たとえ大公爵家のご令嬢といえど、連中は躊躇せずに殺すだろう。


「異端審問官程度に私が殺せるとも思ってないけど、私が半吸血鬼だと知っているのは、ここにいるメンバーを除けば、本当に信頼できる数人だけなの。うっかり口を滑らせて審問官に狙われないように、注意してちょうだい?」

「…………、承知した。決して誰にも話さないことを誓おう」

「国家転覆といい、種族といい、リーンさんに関わってから、隠し事が一気に増えましたね」

「あら、ミステリアスで魅力的じゃない?」

「リーン、それ、多分違う」


 愉快そうに笑うリーンお嬢様と、一様にげんなりしたミカ様とカティア様。

 唯一、何か覚悟を決めたような表情のアサカ様は放っておいて…………まぁ、今のタイミングで開示したのはいい判断だったと思う。

 下手に隠しておくよりも、後戻りが出来なくなった段階でさらに引きずり込み、逃げられなくする。

 秘密を共有し、目的を同じくする仲間というものは、決して裏切れないものだ。

 必要なのは隠し事、乗り越えた死線の数だけ、信頼は強く、太くなっていく。

 俺のように絶対服従の奴隷ではなく、肩を並べて戦う『仲間』の存在は、きっと、リーンお嬢様の成長の糧になる。

 今回の迷宮攻略は、実際の殺し合いを経験してもらう、いい機会だ。

 せいぜい、リーンお嬢様のために利用し尽くしてやる。


「……………ねぇ、リーン。ワンコ君、めっちゃ悪い顔してるけど」

「平常運転よ。あまり気にしないでいいわ?」

「これが平常運転、か……………なんというか、クロ殿もだいぶアレだな」

「てっきり、クロさんだけはまともだと思ってたんですけど……………」

「ってことは、ミカちゃんは、ボクがまともじゃないと、そういいたいのかな?」

「いやあの、そんなつもりじゃ」

「ねじの外れっぷりで言えば、私といい勝負してるんじゃないかしら?」

「カティ!?」


 さんざん言われている気もするが、今はそんなことを気にしている場合じゃない。

 一週間後の迷宮攻略の対策を、頭の中で練り始めた。








次回予告


ついに始まった迷宮踏破訓練!!

順調に攻略を進める中、例のあの人が波乱を起こす!


「ウリィイィィイ!!」

「スペースリバースティンギー●イズ、だと!?」

世界(ザ・ワールド)!止まれい時よぉ!!」

「やめてくださいお嬢様!!著作権的にマズ」


次回「いともたやすくおこなわれるえげつないお嬢様」


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