クリスマススペシャル:狼の完璧で窮極な冒涜リスマス
遅れました。ニャルっとニャパパなクリスマスです。
「そういえば、もうすぐクリスマスですね。………ナナ、クリスマスにパーティーをしようと思うのですが、どうしますか?」
「くるしみます………ですか?」
「クリスマスです、ナナ。それだと拷問に掛けられた人みたいです」
ヴァルハリエ家帝都邸、リビングでひなたぼっこをしていたナナに声をかけて、そんな事を言われた。
そういえばもうそろそろクリスマスだったなと思い、パーティーでもしてみるかと思ったのだが………まぁ、ナナが知っているはずもないか。
ソファーに寝っ転がったままグルリと1回転したナナが、「ネクロノミコン」と書かれた本を机に置いて。
「それで、クリリマスって何をするんですか?」
「クリスマスです、ナナ」
「くるしみま」
「ナナ、天丼は3回までにしてください」
「わかりましたっ!」
仰向けに転がったままズビシッと手を挙げたナナの頭を撫で、満足そうな溜め息。
可愛い、ナナ可愛い、マジ天使。
ひっそりとカメラのシャッターを切りつつ、どう答えたものかと少し考えて。
「そう、ですね。俺が覚えている範囲では、部屋を飾ってみんなでパーティーをしたりとか、好きな人や家族にプレゼントを送ったりだとか、御馳走を用意したりだとか、まぁ大体そんな感じです。地域によっては、もっと色々な催しごとをする場合もあるようですが、そこまでしなくてもいいでしょう」
「なるほど………つまりみんなでワイワイするんですね?」
「そんな所です」
本来のクリスマスはキリストの降誕を祝うものだったはずだが、まぁ、そんな事を考えて祝ってるような奴はほとんどいないだろうし、そもそもこの世界にキリスト教はない。
別に気にしなくていいだろう。
準備が大変といえば大変だが、ナナのためだ、何だってやってやるさ。
とりあえずは。
「一応お嬢様に許可を取って、それから皆様に招待状を送りましょう。料理の準備もしなければいけませんし、飾りつけをどうするかも考えなければ」
「話は聞かせてもらったわ?」
突如、天井をブチ抜いてお嬢様が降ってきた。
何を言っているのかわからねぇと思うが、俺だって何が起こったか分からねぇ。
無秩序だとか偶然だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気分だぜ。
「ごっ、ご主人様!?」
「お嬢様。何が起こってそうなったのですか?」
「わからないわ?」
ゴゴゴゴゴゴゴとかそんな感じの香ばしい擬音が聞こえてきそうなポーズで立つお嬢様。
なんだか奇妙な冒険が始まりそうなのを務めて無視して。
「………それで、パーティーをするとして、準備はいかがなさいましょうか?」
「仔細任せるわ?」
「なるほど?」
「それと、仕事はフィリアに手伝ってもらってちょうだい?私はプレゼントを選んでくるわ?」
「は?ちょっとお嬢、オレそんなの聞いてな」
「蝙蝠傘」
どこからともなく取り出した日傘をくるりと回して広げたお嬢様が、コウモリになって空いていた窓から出ていった。
引き止めようかとも思ったが、まぁ、別にいいか。
気を取り直して。
「………なぁ、ペット」
「フィリア、どうかしましたか?」
「いや、大したことじゃないんだけどよ?天井の修理、パーティーまでに間に合うのかなって」
「………フィリア」
「なんだ?」
「成せばなります、きっと、たぶん、メイビー」
「やっぱダメじゃねぇか」
「うるさいですね無駄口叩いてないでさっさと仕事してください。………それと、ナナ。ちょっといいですか?」
「わふっ?」
「どうやらお嬢様が財布を忘れて行ってしまったようです。もって行くついでに、ナナもプレゼントを選んできてください」
「………!!わかりましたっ!!」
ぱぁっと顔を輝かせたナナがお嬢様の後を追って走り去っていくのを見送り。
「…………フィリア、その顔は何ですか」
「いいや?別に?ただ、ペットもお兄ちゃんなんだなって思ってよ」
「しばきますよ?」
「はいはいすいませんオレが悪かったって痛っってぇ!?!?テメェ、何しやがん」
「次はグーでいきます」
「すいませんでした許してつかぁさい」
「ダメです」
「ギャアッ!?」
たわけた事を宣うフィリアのケツを蹴っ飛ばして黙らせた。
「メリークリスマス!はいっ、これプレゼントです、アマナさん!!」
「ありがとうございます、ナナさん。私からもこれ、プレゼントです。シャドルーのジンジャークッキーを買ってきたので、よかったら、皆さんと食べて」
「ありがとうございますっ、アマナさん!!」
「ちょっ、ナナさんっ、待っ、ゆわわーーーっ!?」
古式ゆかしいタイプのサンタコスのアマナ様が、感極まって「(≧∇≦)!!」みたいな顔になったナナに抱き着かれてグルグル回されて悲鳴を上げた。
ちなみに、今日のナナはどこから仕入れてきたのか、いわゆるミニスカサンタに分類されるタイプの服を着ていた。
そのせいでお腹とか肩とか太腿の露出度がやたら高いが、ナナのスタイルがかなりいいのもあって、不思議と絵になっている。
というかアレだな、ナナ、どんな服着てても似合うな。
そんな事を思いながら、カメラを構えて。
「ク~ロさん?どうしたんですか?そんなボケーッとして」
後ろからギュ~っと抱きしめられた。
首だけで振り返って、いたずらっぽくニヤニヤ笑うエリナ様。
そのままもたれ掛かってきた柔らかな体を背負い。
「いえ、ナナは何を着ても映えるなと思って」
「………ほほぅ。私という恋人がありながら、他の女にうつつを抜かすんですね?」
「冗談は顔だけにしてください」
「酷ッ!?流石に酷すぎですよクロさん!!人の心とか無いんですか!?」
「ないですね」
「まさかの即答!?」
耳元でギャーギャー喚くエリナ様を下ろして、半分泣きかけみたいな潤んだ目と、ハムスターよろしく膨れた頬。
子供じみた表情に、少し和み。
「エリナ様、カティア様はいらっしゃらないのですか?」
「お嬢様は此処に来る途中で転んで泥だらけになったので、服を着替えにマルチリルダ家の屋敷までお帰りになられました。私もついて行こうとしたのですが………まぁ、とにかく、私だけ先にこっちまで来たわけです」
「なるほど」
いつも一緒に居る2人組が1人だけだったのが気になって尋ねてみたのだが、妙にはぐらかされてしまった。
普段はチャランポランな感じのコンビだが、やはり大貴族の令嬢と専属メイド、色々と事情があるのだろう。
そんな事を考えながら、宝物庫を漁り。
「そうだ、エリナ様。少しよろしいでしょうか?」
「………なんですか、クロさ」
「メリークリスマス、エリナ様。ささやかながら、プレゼントを用意させていただきました。どうかお受け取りください」
「コレは………イヤリング、ですか?」
「はい。せっかくですし、皆様に何かプレゼントを贈ろうと思って」
とはいえ、エリナ様に何を贈ればいいのかよくわからなかったので、とりあえずイヤリングにしてみたのだ。
俺の鱗と骨を削ってイヤリングの骨組みを作り、俺の血と鱗の繊維と眼球から採取した体液を混ぜたものを凝固させて装飾に。
森銀と金の合金で細工を施し、魔術的・呪術的な付与と付呪を幾重にも施した自信作だ。
………もっとも、エリナ様の趣味に合うかは分からなかったので、正直言って渡す瞬間まで緊張しっぱなしだったのだが。
「………そう、ですか。なんというか、その、ありがとうございます」
砂糖菓子を口いっぱいに詰め込んだような顔でニマニマするエリナ様。
どうやら、プレゼントとしては間違っていなかったらしい。
文字通り、身を削った甲斐があって本当に良かった。
妙に激しい胸の動悸を、それと悟られぬように押さえつけて。
「一応、継続回復と魔術の行使速度を上昇させる魔道具になってますので、普段使いにはちょうど良いかと。まぁ、直接耳につけていなくても手元に置いておくだけで効果を発揮するので、無理につける必要は」
「何言ってるんですか使うに決まってるじゃないですか」
「………然様ですか」
エルフの血を引いているエリナ様的に問題があったかもしれないと思ってそう言ったら、爆速で否定された。
解せぬ。
………まぁ、本人がそう言うなら問題な。
「あと、その………クロさん、1つ、お願いしても、いいですか?」
割り切ろうとしたところで、なんだか酷く赤面したエリナ様に話しかけられた。
「どうかしましたか?」
「えっと、そのぉ………あ、いや、やっぱりなんでもな」
「話しかけてきておいて、何でもないなんてことは無いでしょう?ほら、さっさと言ってください。俺に出来る範囲なら聞いてあげますから」
「………聞いても、引いたりしないでくださいよ?『聞くとは言ったけど叶えるとは言ってない』みたいなのもナシですからね?」
「そんなことしませんよ」
「絶対っ、絶対ですからね!?」
「もちろんです。ほら、早く吐いてください」
やたらと念を入れてくるエリナ様を急かし、顔を真っ赤にして俯いて、「頑張れっ、頑張れ私!ここでやらずにいつやるんですか!」とか「何回シミュレーションしたと思ってるんですか!シチュエーションBです!気合入れてください!」とかブツブツ呟くエリナ様。
よくわからないが、下手に刺激しない方がよさそうだ。
待つことおよそ5分、何かを決したのか、エリナ様が顔を上げ。
「あっ、あの!」
「はい」
「そのっ、イヤリングつけてくらひゃい!!」
…………。
「ふっ」
「わらった!?今、私をバカにしましたね!?」
「バカになんてそんな。ただ、面白い人だなと」
「どっちも同じですよ!!」
「やめへふらひゃひ」
さっきとは別の理由で顔を真っ赤にしたエリナ様に、思いっ切り頬をぐにぃと引っ張られた。
人間の顔面はここまで変形するのか。
これぞまさしく人体の神秘、まるで頬がモチのようだ。
もっとも、俺は龍なのだが。
狂ったように頬っぺたを引っ張るエリナ様。
おとなしく、好きなように弄ばせ。
「………その、クロさん」
「はい」
「………すいません、少し、取り乱しました」
「はい」
「それで、お願いなんですけど………その、私の右耳に、イヤリングをつけてもらえませんか?」
「………それだけ、ですか?」
「………はい。それだけ、です」
………あれだけためらったのだから、てっきり無理難題を言われるのかと思っていたが、割と普通のお願いだったな。
2つ1組のイヤリングを片方だけつけて欲しいというのも妙な話だが、まぁ、これくらいなら別に拒否することもないだろう。
エリナ様からイヤリングを受け取り。
「エリナ様、とりあえずしゃがんでください。手が届かないので」
「………わかり、ました」
思いつめたような顔のエリナ様が、しゃがんで頭を下げた。
先の尖った、普通よりも僅かに長い耳に触れ。
「………エリナ様、ひょっとして、イヤリングつけるの初めてですか?」
「はい。ついでに穴もあけてもらえれば助かります」
「それは………まぁ、別に構いませんが」
「ああ、それと、麻酔は無しでお願いします」
「………相当痛いと思いますけど」
「大丈夫ですから、ほら」
急かすように耳を差し出すエリナ様。
なんとなく背徳的な気分になりながら、爪の先を耳にあてがう。
深呼吸1つ、集中して。
「熔鉱刀」
「んっ」
瞬間的に生成した針状の刃で耳を貫き、ナニカを堪えるような艶めかしい声。
努めて平静を保ち、傷口を焼いて塞ぐ。
化膿防止に浄化の魔術を使い、イヤリングの金具を通した。
「出来ましたよ、エリナ様。違和感や不自然な痛みはありませんか?」
「少しジンジンしますけど、大丈夫です」
「それなら、よかったです。………少し、話し過ぎましたね。俺は皆さまにプレゼントを配ってくるので、このあたりで」
「クロさん、最後に1つだけいいですか?」
「………なんですか?」
そろそろ切り上げてプレゼントを配りに行こうとして、エリナ様に呼び止められた。
振り返った俺を正面から見据える、何か覚悟を決めたような顔のエリナ様。
薄桃色をした唇が、躊躇うように開き。
「その、クロさんの耳にも、イヤリングを」
「ハイッ、ドーーーン!!!」
「げぶっ」
後ろからぶっ飛ばされた。
咄嗟の事態のたたらを踏み、俺にアームロックを仕掛けつつ据わった眼で酒臭い息を吹きかけて来るフィリア。
なんだか頭痛が痛くなってきたのを堪えて。
「何の用ですか、フィリア。見ての通り、今は立て込んでいるんです。用事があるなら後にして」
「いいや?オレも邪魔だろうなと思って、後で声かけようと思ってたんだけどよ?」
「じゃあなんで」
「我慢できなくなっちった(=^・^=)」
ワイン瓶を持ったままてへぺろっするフィリア。
「殺しますよ?」
「ごめんってばよぉ~………んな怒んなくてもいいだろ?な?な?許してくれよぉ~………ていうか、えりなっち、いつの間にそんなピアスつけたんだ?」
「えりなっちって………フィリアさん貴女、私の事そんな風に呼んだこと、一回もなかったじゃないですか。急に何ですか、気持ち悪い」
「酔ってるからな!!」
ズビシッと謎のポーズをとるフィリア。
というか、俺を抱いたまま暴れるのはやめて欲しい。
切実に。
妙に強固な拘束から何とか抜け出し。
「取り敢えず、フィリア、貴女にクリスマスプレゼントです」
「おん?なんだなんだ?前みたいにキスでもしてくれんのか?」
フィリアがそういった瞬間、いつの間にか隣にいたエリナ様に肩をガッされた。
殺人鬼めいた目線に首を横に振り、見つめ合う事数秒、俺の肩を握りしめていた手がゆっくりと離される。
………証拠不十分により不起訴、といったところか。
なんだか疲れたのを押し殺して。
「H&K商会の機械油と研磨布です。使ってください」
「まっっじで!?うっっわ、つーかコレ、いっちゃんタケ―奴じゃん!!マジで貰っていいのか!?貰っちまうぞ!?」
「マジも何も、貴女以外に使う人間がいませんし」
「ありがとうなペット!大事に使わせてもらうわ!!」
「そうしていただければ幸いです。………それとフィリア、1つ、尋ねたいのですが」
「どった?」
「いえ、ナナとお嬢様の姿が見当たらないので、気になって」
「ああ、それならほら、あっこのソファーに」
おぼつかない様子でフィリアが指さした方を見れば、ソファーの背もたれの向こうで、銀色の大きな尻尾が揺れていた。
「ありがとうございます、フィリア。………エリナ様、俺は今から、皆様に一通りプレゼントを配ってくるつもりですが、エリナ様はどうなさいますか?」
「そう、ですね。………私も一緒に行きましょうか。プレゼントも、いくつか持って来てますし」
「わかりまし」
「メリークリスマスです!エリナさん!!」
「きゃあっ!?」
肩から吊るしたポーチを漁ろうとしたエリナ様が、巨大な真っ白い毛玉めいたサムシングに跳びかかられて悲鳴を上げた。
バランスを崩したエリナ様が、そのまま押し倒されて。
「って、ナナさん?何してるんですか?」
「プレゼントです、エリナ様!」
「はぁ………どういたしまして?」
「こちらこそっ、どういたしまして、です!!」
エリナ様に馬乗りになったままラッピングされた箱を押し付け、パタパタと嬉しそうに尻尾を振るナナ。
………狼よりも大型の愛玩犬の方が近いように思えるのは、きっと気のせいではないのだろう。
気を取り直して。
「プレゼントです、ナナ。受け取ってください」
「ありがとうございます、クロ兄さん!………えと、コレは?」
「御守です。神授の護符ほどの効果はありませんが、ナナを守ってくれるはずです」
俺がナナに贈ったのは、御守───防御に特化した携帯式の小型魔道具───に分類されるものだ。
俺の鱗をベースにして、心筋、骨髄、その他いくつかの体液を混ぜ合わせたもので呪符を作り、それらを互いに連動させることで、最大限の効果を発揮するように工夫した、会心の一品。
致命傷になりうる攻撃を3発まで防ぎ、更には一回きりではあるが、禁呪双頭の防壁の展開すら可能にした。
これなら、何があったとしても、俺がナナの元へ駆け付けるまでの時間は稼げるだろう。
「………あの、クロさん?」
「なんですか?エリナ様」
「あのお守り、なんか、禍々しいオーラみたいなの出してませんか?」
「龍血を使っていますから、そういう事もあるでしょう。ナナの健康に害のあるようなものではないので、大丈夫です」
「………そう、ですか。それならいいんですけど………」
なんだか煮え切らない様子のエリナ様と、その上に跨ったまま「わふっ?」と首をかしげるナナ。
可愛い。
可愛いので頭を撫でる。
「やふ~………」と妙な声を漏らして、頭を俺の手にぐりぐりと押し付けてくるナナ。
可愛い。
そのまま俺に飛びついてきたのを受け止めて抱きしめ。
「クロ兄さんクロ兄さん」
「どうかしましたか?」
「はいっ、クリスマスプレゼント、です!!」
満面の笑みを浮かべたナナが、丁寧にラッピングされた小さなプレゼントボックスを渡してくれた。
思わず泣きそうになる。
グッと堪える。
「ありがとうございます、ナナ。大事に使わせてもらいますね」
「にへへ~………ねぇ、クロ兄さん?」
「はい」
「大好きです」
「………はい」
堪えられなかった。
「ちょっ、ちょっとクロ兄さん!?なんで泣くんですか!?大丈夫ですか!?どこか痛むんですか!?」
「大丈夫です、ナナ。ただのうれし泣きです」
「………そう、ですか。それならよかったです?」
「はい」
ナナの頭を撫でて、そのまま抱きしめる。
お日様のような匂いと、やわらかい銀髪の感触。
最後にもう一度、ぎゅっと抱きしめて。
「ナナ、お嬢様はどこにいらっしゃいますか?プレゼントを渡さなければと思ったのですが………」
「ここにいるわ?」
「うおっ」
背後からいきなり声を掛けられて、なんというか、こう、ドジャジャジャ~~ンとからそう言う感じのオノマトペがつきそうなポーズのお嬢様。
頭が痛くなりそうな光景に、思わずため息をつき。
「メリークリスマス!良い娘の皆に、サンタさんからのプレゼントだ!!」
「うっげぇ」
大袋担いだサンタコスの変態とか言う、最大級の頭痛の種が地雷背負ってやってきた。
泣きたい。
「なにそのリアクション!?お姉ちゃんショックなんですけど!?」
「うるせえハゲ、テメェの胸に手ェ当てて考えてみろ、その空っぽのオツムに、そうするだけの脳味噌が詰まってるんならな」
「めっちゃ罵倒された!?なんで!?私、今日はまだ何もやってないよ!?」
「まだってことはこれからするつもりなんだな?」
「そりゃあもちろん、可愛い女の子たちとくんずほぐれつ………はっ!?」
「やっぱ有罪じゃねぇか。前のハロウィンの時みたいに、妙な薬持ち込んだりしてねぇだろうな?状況によっちゃ、塵も残さんからそう思え」
「その心配はありませんよ、クロさん」
(゜д゜)!みたいな顔の変態を恐喝していたところで、アマナ様が割って入ってきた。
真っ白いつけ髭を付けたアマナ様が、真面目な顔で俺を見上げ。
「………ぷっ」
「笑った!?今っ、私の事をバカにしましたね!?」
「も、申し訳ございませんっ、くふっ、ちょっと喉にキャンディーケインが詰まって」
「嘘つくの下手ですね!?どうせならもっとうまくだまそうとしてください!!」
「かしこまりました、アマナさ………けひっ」
「また笑った!?もうっ、何で笑うんですかぁ!!」
目の前でプンスカ怒るアマナ様に、何故か笑いが止まらない。
腹が捩れる。
横隔膜の痙攣が終わらない。
笑い過ぎて脇腹が痛い。
というか、これ、やば。
「クロ、いったん落ち着きなさい?」
「承知いたしました、お嬢様」
お嬢様に声を掛けられた瞬間、感情の起伏が一瞬でゼロになった。
目頭を揉み、大きく息を吸って、吐いて。
「すみません、皆さま。少々取り乱していたようです」
「………えっ、こわっ」
エリナ様がぼそっと呟いた。
地味にショックだ。
「クロさん、急にスンッてなるのやめてもらえます?ちょっと怖いので」
「アマナ様、先ほどの御無礼、どうかお許しください。本当に申し訳ございませんでした」
「あ、や、別にいいんですけど………クロさん、大丈夫ですか?どこか調子が悪いんじゃ………」
「………俺にもよくわかりませんが、特に問題はないかと思われます」
「ねぇ、クロ?貴方、私に何か用事があったのでしょう?先にそっちを話してもらえるかしら?」
「かしこまりました、お嬢様………といっても、そんな大した話ではないのですが………メリークリスマスです、お嬢様。プレゼントを用意しました」
「コレは、お守り、かしら?」
「はい。ナナに贈ったものと同じデザインで作ってあります。機能も変わらないので、身に付けておいていただければ幸いです」
「ありがとう。褒めてあげるわ?」
「光栄です、お嬢様」
受け取ったタリスマンを、大きく開いたサンタ服の胸元に突っ込むお嬢様。
一瞬それでいいのか問いただしたくなったが、どうせ無駄だと思いなおす。
宝物庫に手を突っ込んで。
「アマナ様、クラリス様、どうぞお受け取りください」
「えっ、私も貰っていいの?」
「はい。お二人とは、今後も長い付き合いになるでしょうから」
「………まぁ、それなら遠慮くなく受け取っておくよ。ありがとね?」
「ありがとうございます、クロさん」
「こちらこそ、喜んでいただけたなら幸いです」
それぞれ真っ黒い仔犬をプリントしたマグカップと紺色のマフラーを手渡し、こういう時だけは真人間みたいなことを言う変態と、人好きのしそうな笑顔を浮かべるアマナ様。
同じ血を引いているはずの姉妹で、なぜこうまで人格に差が出るのか、これが分からない。
「ほんとそうだよね~………ああ、あれじゃないかな、あのメンデルの法則とかいう奴」
「それは多分違うかと」
「だよね、そうだよね。ボクも言ってておかしいと思ったよ」
「じゃあなんで言ったんですか──────」
悪ふざけのような声に振り向き。
「────カティア様」
「なんとなく、かな?」
ニヤニヤとチェシャ猫のような笑みを浮かべるカティア様がいた。
いつから居たのか知らないが、とりあえず。
「クリスマスプレゼントです、カティア様。受け取ってください」
「ありがとね、ワンコ君。それじゃ………ボクからもハイ、君たち2人の分ね?」
そう言ったカティア様が、見た事ない言語と紙質の大判サイズの本と、少しくたびれたテディベアを渡してくれた。
………プレゼントのセンスが終わってるのは、百歩譲ってまだいいとしよう。
だが。
「カティア様、2人分というのは、どういう事でしょうか?」
「ああ、テディベアはシーザーちゃんの分だよ。直接渡すわけにもいかないから、ワンコ君に渡しておこうと思ってね。こういうのは、キミが一番の適任だろうからさ」
「んににににぃ~………」と悲鳴だか何だかおぼつかない声を上げて背伸びするカティア様。
どういうことなのか一瞬よくわからなかったが、神教国にいることになっているシーザー様に贈って欲しいという事なのだろう。
………俺が殺したシーザー様に、クリスマスプレゼントを贈れという事か。
セメントの塊でも飲みこんだような気分を押し殺して、テディベアを抱え。
「ねぇ、シーザーちゃんを嚙み殺したワンコ君?」
「っ!?」
なんでコイツがそのことを知っている。
どこでバレた?
いつばれた?
いや違うおかしいナニカおかしい。
そもそもなんで。
「カティ?何かあった………というか、いつからいたの?」
「メリークリスマス!リーン、これプレゼント、リーンが前から欲しがってたナトコ写本ね?」
「えっ?………ま、まぁ、ありがたく貰っておくわ?」
「はいっ!ナナちゃんにはコッチ!輝けるトラペゾヘドロンだよ!!」
「なんですかこの箱………って重っ!?」
「フィリアちゃんにはコレ、ド・マリニーの壁掛け時計!一点物だから大事にしてよ?」
「お、おぅ………というか待て今どっからだした!?」
問いただそうとした時には、カティア様はあちこちで奇妙なプレゼントを配っていた。
妙に心地悪い雰囲気の中、背負った大袋から手品のように贈り物を取り出していくカティア様。
ひとしきり配り終わったのか、芝居がかった様子でかいてもない汗をぬぐったカティア様が、こっちに来て。
「ねぇねぇワンコ君、ミカちゃんとアサカ君は来てないの?」
「あのお二人なら、クリスマスは2人きりで過ごす予定だったそうです。邪魔するのも悪いので遠慮させていただきました」
まぁ、なんというか、多感な年頃の恋仲の男女が同じ部屋に二人っきりでどうなるかなんて、古今東西1つだけなわけで。
聖夜というか性夜というか、今ごろは大いに爛れているだろうなという想像はつく。
「ふ~ん……ま、別にいっか。それとエリナ、キミにもプレゼントを」
「カティアお嬢様、何時ものようにエリィと呼んでくださらないのですか?」
「ん、ああ、ごめんごめん。ボクったらつい」
「クロさん」
「承知」
カティア様の顔面に全力の拳を叩きこんだ。
龍の膂力で以て振るわれた鉄拳が頸椎をたやすくへし折り、首を半ばから砕いて吹き飛ばす。
存外に軽い手ごたえと、あっさり吹っ飛んで壁に激突、そのまま沈黙するカティア様。
場が騒めく中、軽い舌打ちが響き。
「………まったく、探索者って奴は、なんでこうも軽率な行動に移れるのかね?」
壁に埋まっていたはずのカティア様が、クリスマスツリーの星の上に立っていた。
「軽率ではありません、信頼です。俺はエリナ様を、エリナ様は俺を互いに信頼していたからこその行動です。そこを吐き違えないでください。不愉快極まりない」
「不愉快極まりないのは私の方だ。そんなジャンプに出てくるような安い動機で、計画を潰されてみたまえ、吐き気がするほど不愉快な気分になれるぞ?」
「韜晦は不要です。速やかに投降すれば、命までは取りません。もし抗うようなら」
「いのち?私に、この私に、命と、お前はそう言ったのか?」
カティア様の皮を被った正体不明の闖入者が、クハハと乾いた笑みをこぼし。
「………まぁいいだろう。今回は私の負けだ。敗者は敗者らしく、自分の巣に帰るとするよ」
「逃げられると思っているんですか?」
「いいや?」
両足の剣を展開したエリナ様が闖入者に迫り、隠し持っていた大型拳銃をフィリアが構える。
変態とお嬢様がそれぞれナナとアマナ様を庇うのを尻目に、サンタ服の背中に短剣を突き付け。
「君たちは、私を逃がすしかないんだよ」
後ろに、いる。
奴がいる。
見ずともわかる、わからされる。
圧倒的な存在感。
圧殺されてしまいそうな存在感。
「わかるかい?君たちに取れる選択肢はたった1つ、私を逃がして、おとなしく骰子を振る事だけだ。致命的失敗が出ないことを祈って、ね」
これ以上見るな、触れるな、奴を刺激するなと、俺の全てがそう叫んでいる。
奴は危険だ。
俺がこれまでに潜ってきたどの修羅場も、どの死線も、百億回束ねたって奴の脅威の1パーセントにすら満たない。
振り返ってはいけない。
そんな恐ろしい事、出来るわけがない。
恐ろしい。
恐ろしい恐ろしい恐ろしい。
だが、そrでも、それdも。
「喜びたまえよ、探索者諸君。君たちは命拾いしたのだ、この肉体の持ち主と違って、ね」
その瞬間、翡翠色の影が迸った。
虚無すら喰らうような絶無を貌に張り付けたエリナ様が、疾風怒濤の如く駈ける。
猶予は一刹那。
その行為を拒む体を、本能を、魂を、精神で捻じ伏せて。
「う・ァアアアァああぁぁアアァァアァァアア!!!!!!!!」
あ。
ああ。
見てしまった。
見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった見てしまった。
俺は、nてkとwo
「さらばだ、勇敢なる探索者諸君、覚める事なき現へ帰るがよい」
「おっ、目が覚めましたね。よかったです」
額にのせられた、なにかひんやりとして心地良いものの感触に目が覚めた。
少し心配そうな目をして俺の顔を覗きこんでいたナナが、ぴとりと俺の頬に触れ。
「クロ兄さんったら、急に倒れちゃうから心配したんですよ?クロ兄さんはいつも働き過ぎなんです。少しは休むことも覚えてください」
「………なんだ、夢、か」
「わふっ?」
「何でもありません、ナナ。看病してくれてありがとうございます」
「大した事はしてませんから。………お腹、空いてますよね?お昼の残りがあるので、温めて持ってきますね」
「ありがとうございます、ナナ」
トテチテターと走っていくナナを見送り、上体を起こす。
………少し頭が痛むが、それだけだ。
肉体的疲労は感じられないが………なんというか、凄まじい悪夢を見ていたような気がする。
この世界すらも冒涜して穢すような、外宇宙的悪夢を。
とめどなく取り留めない思考を頭の外に放り捨て、ナナが戻ってきたら改めてお礼を言おうと決めて。
「クロ兄さん、クロ兄さんが作ってくれたシュトーレンとザワークラウトがあったので、お昼はそれでいいですか?」
「そういえば、もうすぐクリスマスですね………ナナ、クリスマスにパーティーをしようと思うのですが、どうしますか?」
…………あ、れ?
To Be Continued………?
崇拝出演:とある無貌のトリックスター




