狂狼は月下に吠え、龍とメイドは死線を潜る
続きでヤンス
「クロさん!?」
「なにやってんのバカ!?」
「呪具創成・呪怨藁人形!!」
エリナ様の悲鳴を無視して身代わり人形を作成し投擲、念動力でメイド服と浴衣めいた民族衣装の背中に張り付ける。
裂傷を疑似再誕で塞ぎ、迫る左フックを気合で躱し。
「こっちおいで?」
「ぐっ!?」
空間がグニャリと捻じれ、直後、俺の脇腹に拳がめりこむ。
メキャリと骨の砕ける音が脳に響き、激痛が走る中、狂ったような笑みを浮かべる顔を引っ掴み。
「いたずらネコ野郎」
暗転蝕で眠らせようとして、間に合わずに逃げられた。
仕方ないと割り切って、短剣を構え。
「裏ガエル」
「ジョウント!!」
投擲されたカエルのぬいぐるみを転移で吹っ飛ばして火球で破壊、追撃を受け止めて投げ飛ばし、ろくに受け身も取らずに頭からナナが落ちた。
ぐったりと力なく横たわったナナが、バネ仕掛けのように跳ね起き。
「雷電少女!」
「飛雷針」
「ぎにゃっ!?」
雷を纏って突っ込んだメスガキが、突如出現した避雷針に引きずられて遠方へ吹っ飛び、そのまま着水してスパークを散らす。
死ぬことは無いだろうが、復帰までしばらくかかるはず。
少しの間、俺とエリナ様だけで押さえる必要があるな。
武具創成で投網を作り。
「すみません、ナナ。少々手荒にいきます」
薙ぐように振るった網でナナを絡めとり、脱出される前に投げ飛ばした。
空中で身を捻って体勢を立て直したナナに、手のひらを突き付け。
「歪曲波!」
魔術で歪ませた空間の反発でナナを弾き飛ばし、爆破の反動で飛翔。
全力で魔力を練り上げ。
「龍鱗結界!!」
「剣脚・地奔り」
水面を覆うように200メートル四方の結界を張り、緑色の影のように駆けるエリナ様。
展開された剣脚が繰り出された銃身を切り飛ばし、鉄拳に叩き潰される寸前で転移させて回収。
ようやく満足に戦えるだけの足場を整えたが、それでも状況はこちらが不利か。
二足歩行の獣のように唸ったナナが牙を剥き出しにして吠え、背中のウェポンラックから現れる無数の重火器。
数えるのも億劫な数のソレが、エリナ様を照準し。
「氷壁!」
「付呪・硬鱗」
即席の氷壁に付呪を掛けて盾代わりに弾幕を凌ぎ、突貫してきたナナを正面から受け止める。
そのまま組みつこうとして振り払われ、離れ際に腕をへし折られた。
喉笛を噛み千切られかけたので半歩引いて躱し。
「キヒャヒャッ!!」
「元気が合ってよろしいですね」
怪鳥めいた笑い声をあげて放たれた蹴りを防ぎ、脚甲から突き出した刃に内臓を抉られる。
脇腹から肺まで貫かれ、喉の奥から血が溢れて吹き零れる。
頭から血を浴びて凄惨な笑みを浮かべたナナが、拳を振りかぶり。
「呪々刻怨縛鎖」
右腕でナナを抱きしめた直後、虚空から出現した無数の鎖が、俺ごとナナを縛り上げた。
対象から魔力を強奪して無制限に強度を上げる魔術の拘束は、ちょっとやそっとで解けるような代物じゃない。
もちろん俺だって魔力をゴリゴリ奪われるが、構うもんか。
このまま、終わらせる。
「エリナ様!」
「承知しました、クロさん」
抜け出そうとするナナにきつく抱き着き、背後から響く、刃が結界を蹴って駆ける音。
勢いよく蒸気を吐いた義手が、無防備なナナのみぞおちに突き刺さり。
「武装解除・攻性爆破装甲」
衝撃が奔り、視界の端で飛び散る血飛沫と翡翠色の髪。
血塗れのエリナ様がボロ雑巾みたいに吹っ飛んで、結界に叩きつけられて沈黙した。
呪怨藁人形のおかげでかろうじて息はあるようだが、出血が酷い。
咄嗟に万有引力で引き寄せ、疑似再誕と生命力譲渡を発動。
人1人分の結界を張って保護し。
「或る技師の最高傑作」
「鱗」
放たれた砲弾を逸らし、薙ぎ払う大斧の一撃を、刃を掴んで受け止める。
膂力に任せて引き寄せ、首に猛烈な回し蹴りを喰らう。
骨が砕け頸椎がイカれる、致命的な音。
だが、捉えた。
腕を掴んだまま軸足を払って転ばせ、押し倒す。
藻掻く体を組み伏せて、暗転蝕を。
「ご都合主義者の幻覚剤」
ザシュッと水っぽい音がした。
腹を突き破って生えた腕が内臓を掴み、掻きまわし、引き摺り出す。
ブチブチと音を立ててハラワタを引き裂かれ、殴り飛ばされた。
気合で立ち上がり、脳天を叩き潰される。
明滅する視界の中、ニタニタと狂ったように笑うナナが、大斧を振りかぶり。
「きゃあっ!?」
「うおわっ!?ナニコレナニコレ!?どういう状況なの!?」
ドーム状に周囲を覆っていた結界に亀裂が奔り、崩壊。
狂人の妄想めいた光景が霧散していく中、可愛らしい悲鳴と、状況にそぐわない間抜けな声。
牙を剥いたナナが、影のように駆け。
「アマナちゃんっ、盾!!」
「創星・不破の盾!」
巨大化した爪牙による連撃を、空間を軋ませながら出現した白銀の大盾が防ぎぎった。
盾に取り付いて引き裂こうとしたナナがシールドバッシュに吹き飛ばされ、ふわりと揺れるピンク色の髪。
琥珀色の瞳が、俺を捉え。
「って少年!?大丈夫なのそれ!?」
「これが大丈夫に見えるなら、さっさと死んでください」
「ってか、そんなこと言ってる場合ですか!?あれっ、ナナさんですよね!?なんであんなになっちゃってるんですか!?」
ふざけた声に言い返して、目がグルグルしてるアマナ様。
なんだか久しぶりに会ったが、元気そうで何よりだ。
疑似再誕を発動して回復し。
「気をつけてください、クラリス様、アマナ様。今のナナの攻撃は、基本的に所見殺しか防御不能攻撃のどちらかです。呪怨藁人形を預けておきますが、過信はしないでください」
「わかった。ありがとうね?」
「えっ、なんですか、そんなにヤバいんですか?」
「ヤバいですね」
「無理ですよムリムリムリ!!私弱いんですよ!?死んだら祟りますからね!?」
ポコポコッと作った藁人形を投げ渡し、わりと今更な悲鳴を上げるアマナ様。
跳びかかってきたナナを頑張っていなし。
「搔き毟る鋼爪」
「歪曲空間」
咄嗟に空間を歪曲させて、不可視の斬撃に額を割られた。
血飛沫が視界を塞ぐ中、風音が唸り、両足を半ばまで断たれる。
突き込まれた腕をわざと喰らって肉を引き締め、むりやりに拘束。
重力の腕で俺ごと押し潰して。
「電光石火!からのっ、電磁網!!」
文字通りの雷速で突っ込んできたメスガキが雷の網を放ち、俺ごとナナを拘束した。
感触的にあまり持ちそうにないが。
「アマナちゃん!ハリセン!」
「創星・不殺の剣!!」
一瞬稼げれば十分だ。
何故か上から降ってきた変態がナナの後頭部をハリセンで殴打し、威勢良く暴れていた体が、ぐったりと力なく倒れ込む。
慌てて脈を確認し、緩やかだが、確かに息はしている。
………一時はどうなるかと思ったが、どうにかなったようだ。
暢気にいびきをかくナナを、地面に横たえ。
「疑似人格の停止を確認しました。敵性存在健在、周辺状況の再確認を開始──────龍の存在を確認しました。上級監督官2名による対龍兵装の使用許可を求めます。繰り返します、上級監督官2名による対龍兵装の使用許可を求めます。繰り返します、上級監督官2名による対龍兵装の使用許可を求めます。繰り返します、上級監督官2名による対龍兵装の使用許可を求めます。繰り返します、上級監督官2名による対龍兵装の使用許可を求めます。繰り返します、上級監督官2名による対龍兵装の──────」
うわごとのように繰り返される、合成音声じみた無機質なセリフ。
一瞬また暴れるのかと焦ったが、どうやらそういうわけではない様子。
「えっ、クロさん?これ大丈夫なヤツですよね?」
「………わかりませんが、警戒はしていてください。何が起きるか分からないので」
「いや、たぶん大丈夫だと思うよ?ナナちゃんだけだと動けないみたいだし、とりあえず結界で覆って様子見がベストなんじゃないかな?」
想定外の事態にも戸惑うことなく割とマトモなことをいう変態。
変態のクセに有能とかなんかムカつくが、一応の筋は通っているか。
謎の苛立ちを抑えつつ、龍の眠り籠を発動し。
「─────上級監督官の不在を確認しました。緊急時につき、対龍兵装の自律稼働を開始します。コードブレイク:[貴女と同じ声で啼く雲雀を、私は絞め殺した]──キーコマンドの入力、成功。対龍殲滅兵装【石喰】を起動しました。敵性存在の鏖殺を開始します」
回復作用を持つ繭状の結界を、無数の蛇が貫いた。
非物質の障壁が灰色化し、砕け散る中、赤い目が俺を睨みつけ。
「死紫光線」
「歪曲空間!!」
紫色の光線の軌道を歪めて外し、直撃した箇所の龍麟結界が消滅した。
乱射されるとマズいな。
首を抉りに来た腕を躱し、長く伸ばした短刀で蛇の群れを刈り払う。
深呼吸1つ、魔力を練り上げて。
「アマナ様、どうかお逃げください。今のナナは少々危険すぎます」
「………わかりました。クロさんも姉さんも、どうか、ご武運を」
「あれっ、私は逃げなくていいの?」
「アンタは死なんでしょう」
「えぇ………」
スッとぼけたことを言う変態を雑にあしらい、パタパタと走って逃げるアマナ様。
虚ろな目をしたナナが、そちらへ振りむいて。
「グランドスラム」
風切り音に空を見上げ、稲妻めいて落ちる一条の鉄塊。
まともに炸裂されれば確かにマズいが、その前に消してしまえば何も問題はない。
危険信号を奏でる本能に従って、消滅空域を放ち。
「しっちゃかめっちゃか」
爆弾が増殖した。
視界を埋め尽くすまでに増殖した爆弾が、逃げ場すらないほどの密度で振り注ぐ。
避け場も無ければ防ぎようもなく、この状況では、全員を守るだけの結界も間に合わない。
視界の端で、アマナ様を押し倒した変態が、庇うように覆い被さるのが見えた。
粘着質に鈍化した世界の中、魔術を発動し。
「誘引」
引き寄せた弾頭を自分ごと結界で閉じ込め、衝撃が奔った。
気の狂いそうな熱と、筋骨を破砕する激痛。
逆恨藁人形でダメージの大半を押し付けられた龍麟結界がひび割れて破綻し、海面へ落下する俺の頭を、獣の腕が捉えた。
万力じみた握力が頭蓋骨を軋ませ、俺を見据える無感情的な瞳。
血塗れの獣が、凄絶な笑みを浮かべ。
「ケキャキャキャキャキャッッ!!!」
ボロ人形のように振り回され、投げ捨てられる。
吹っ飛び、海面に叩きつけられ、何かに激しくぶつかってようやく止まった。
軋む体を堪えて立ち上がり、床に倒れ込む。
目をやれば、半ば炭化した左脚の肉を突き破って骨が飛び出ていた。
喉からせり上がった黒い血を吐き捨て、体が、動かない。
世界が、次第に暗転し。
「クロ!?しっかりしなさいっ、クロ!!」
血泥に滲んだ視界に、必死の形相で俺の体を揺さぶるお嬢様が映った。
朦朧とする意識の中、遠くくぐもった爆発音と喧騒が響く。
ともすれば千々に細切れそうになる意識を、必死につなぎ止め。
「カティ!早くクロの手当てをしてちょうだい!!」
「わかってる!今、医療キットを」
「不要です」
「っ!?」
かろうじてつながっていた右手を動かし、床を這う。
もうほとんど目も見えないが、十分だ。
焼け付いた喉で詠唱し、ありったけの魔力を絞り出す。
鉛を血管に流し込まれたみたいに重い体を引きずり、かすれた目が、壁際で座ったまま微動だにしない影を捉えた。
「ワンコ君!何する気か知らないけど後にして、早く治療を」
暗闇系統、精神系の魔術は、弱点が多い。
相手の意志力が強ければ容易く抵抗され、莫大な魔力を要求し、その割には強度も低いせいできっかけさえあれば一瞬で解除される。
だが、この魔術にそれは関係ない。
相手の精神を高度に侵食し、グチャグチャにレイプして乗っ取る、外道の技。
その危険性と術式の複雑さ故に禁呪指定された高難易度魔術も、龍種ならば容易に発動できる。
相手が重度のストレス環境下にあり、半ば呆然自失の状態にある人間ならば、尚更に。
ずっとうずくまってサボってたんだ。
せいぜい役に立て。
「精神浸蝕式」
バーナード。
「………なるほど、こういう感じか」
普段よりもだいぶ低い自分の声に若干笑いかけながら立ち上がり、背中に背負っていた大剣を引き抜く。
一見、ドラゴン殺しじみたナマクラの特大剣でしかないが、記憶通りに備え付けられていたレバーを引けば、蒸気と共にチェンソーめいた機構が露わにになる。
クッソ重いそれを、担ぐように構え。
「ガッ、ァアアアァァアアッ!!!」
「ぬうぅん!!」
跳びかかってきたナナを大剣の腹で押し返し、そのまま薙ぎ払って吹き飛ばす。
超重量の金属塊を爪先で蹴り上げ、迫る蛇の群れをまとめて切り払う。
刃を、盾のように構えて。
「万聖節の怪」
「輝ける宮の御盾は、いみじくも此の身を護りたもう!!」
結界を纏ってドクロを模した無数の魔力弾に突っ込み、付呪・柔剣を発動して横薙ぎに斬る。
反動に耐えきれずにゴムボートが大きく傾き、姦しい悲鳴と水しぶき。
………このままここで戦えば、皆様が巻き込まれるな。
左手を握りしめ。
「ナナ、ちょっと痛いぞ?」
ナナの脇腹に添えた掌底を、腕の力だけで振り抜いた。
盛大に吹っ飛んだナナが少し遠くに着水し、黒々とした水柱が上がる。
大鎧の胸元のダイヤルを弄り。
「聖鎧ノルクトゥス・海伐船形態」
足部分の装甲が2枚刃のスケート靴のような形状に変形し、光の方陣で編まれた力場が発生する。
対魔物用に開発された神教国の聖鎧には、特殊な状況を想定した変形機構が搭載されている。
これはその1つ、海上での戦闘に特化した高速機動形態。
特大剣を捨て、腰の大剣を抜き。
「殺戮鮫旋風」
「聖滅剣!」
突如として発生した無数のサメを内包する竜巻を黄金波で切り裂いて消滅させ、波の上へ出る。
足場もないのに波の上に裸足で立ったままのナナが、ゆるりと片足を振り上げ。
「凍殺する死の指」
「堅く築きし要塞は、遍く災禍を鎮めたもう!!」
踏みつけと同時に広範囲を覆う氷雪の嵐。
触れれば凍えて砕け死ぬであろうソレを金色の結界で受け止め、銀色の影が蠢く。
血塗れの爪牙が、俺の喉を捉え。
「ところがぎっちょん、この程度じゃ喰らってやれんなぁ?」
「がっ!?」
全力で気張りつつ障壁を張って爪を防ぎ、硬直したナナの首根っこを掴んで投げ飛ばす。
右手を掲げ、聖光弾を使おうとして、視界が揺らいだ。
二重に歪む世界に眩暈がして倒れかけ、気合で持ち直す。
………精神浸蝕式の効果切れが近いな。
隠し棘の毒とその他諸々でボロボロの身体では、流石に完全な魔術は使えなかったらしい。
ここは1つ、速攻を仕掛けるべきだろうな。
軽く首を鳴らして、手を伸ばし。
「ジョウント」
大型犬よろしく体を震わせて水気を払うナナの、ちょうど真後ろに転移した。
振り向こうとした肩を掴んで引き倒し、そのまま体重を乗せて首を絞める。
鉤爪に顔を掻き毟られるが、知ったことか。
このまま、終わらせて。
「取り替えっこしよ?」
内臓がひっくり返るような浮遊感と、俺の喉を絞め上げる、獣毛に覆われた腕。
視界を占有する狂気的な笑みに怯み、全力で引き剥がそうとして、びくともしない。
剛腕が、ベキリと音を立てて首の骨を砕き。
「月光脚・暗月!!」
暗い魔力の奔流が、ナナを弾き飛ばした。
両足の剣を展開したエリナ様が、血塗れのまま水面に降り立つ。
ぐらりと揺らいで倒れかけた体を咄嗟に支え。
「………すいません、バーナード様。ありがとうございます」
「どういたしまして、エリナ様。それと俺はクロです」
「………は?」
ありのまま今起こったことを話して、エリナ様がフリーズした。
宇宙ネコめいた表情のエリナ様が、再起動し。
「………クロさんって、あのクロさんですか?」
「はい、あの目つきが悪くて背の小さい執事兼奴隷のクロです」
「え?いや、でも、どこからどうみてもバーナード」
「体を乗っ取りました。あまり長くは持ちそうにないので、早くケリをつけましょう」
「………もう何でもいいですけど、後でちゃんと説明してくださいね」
「承知いたしました、エリナ様」
なんだかげっそりした顔のエリナ様にそう言って、剣を構えた。
「火急の窮・みんなくたばる爆殺輪」
「月光脚・乱舞!!」
「聖天昇!」
火花を吹いて回転する火車めいたサムシングの群れを、魔力の刃と光の柱が貫いて爆散させる。
なんとなく英国面を感じるそれらに辟易しつつ大剣を振り下ろし、爆炎に紛れて突撃してきたサメを頭から裂く。
血を振り払い、刃を突きだし。
「聖者の磔刑」
「ヨナの受難!!」
白鯨の幻像を持つ攻性防壁が青く捻じれた釘を防ぎ、特大サイズの鋏の一撃をギリギリで回避。
大剣の腹で叩いて吹き飛ばし、狼の尾がブワリと膨張した。
放たれた銀毛の針の弾幕を斬り払い、ナナが大きく跳び退る。
高々と掲げられた右手に、光り輝く刃が形成されて。
「魔獣創造・黒蟲の影」
「太陽の光の剣」
数発は持ちこたえられるだろうと踏んで繰り出した疑似生命が、一撃で破壊された。
わかってはいたが、やはりあの剣、即死技か。
持ち技の半分くらいが即死コンボとか、格ゲーなら秒速でナーフされるぞ、コレ。
「クロさんっ、今のって」
「まともに喰らえばああなります。くれぐれも注意してください」
「………マジですか」
「マジです」
一瞬でチベットスナギツネめいた表情になったエリナ様が大きく跳んで光の剣を躱し、追撃を放とうとしたナナを念動力で引っ掴んでグルグル回して放り投げ、乱射される弾丸の雨。
まともに当たれば致命傷は避けられないであろうソレを聖壁で防ぎ、そのまま突貫。
逃げるナナの首根っこを掴んで気絶させようとして、右腕を食い千切られかけた。
無理矢理距離を取らされて、狼のように四つ足ついて構えるナナ。
獣が牙を剥いて吼え、世界がどす黒く歪んでいく。
血のにじんだ空が渦巻く中、空間に亀裂が奔り。
「どこでも速達便」
巨大な影が轟音と共に降った。
盛大に水飛沫を上げて着水したのは、巨大な2隻の船だったものと、右半分がグズグズに消化されて融けた龍の頭。
船の方は見覚えがある………というか、俺たちと一緒に喰われたダビデとゴリアテだ。
察するに、近場にあった大質量の物体を持ってきたのだろうが………あやかしめ、悪食だとは思っていたが、龍まで喰うか。
このバケモノめ。
………まぁ、そちらはまだいい。
問題は。
「俺は、貴女にそんな戦い方を教えた覚えは無いのですが………妹の成長は早いものですね」
「いや、そんなレベルじゃないでしょ、アレは」
ナナの全身から発生した鈍色の触手が、龍と船に絡みついて、根を張るように侵食していた。
瓦礫の山と山のような肢体が蠢き、脈動し、巨大なナニカを形作っていく。
「ちなみにクロさん、アレは」
「わかりません。即死かガー不か、それともマップ攻撃か。いずれにせよ、注意してください」
「………わたし、もうツッコみませんからね」
やけにげんなりした顔のエリナ様がぼやき、直後、死んでいたはずの龍が目を見開いた。
腐って蕩けた肉と骨組みを半壊した船が奇妙に補い、大きく開いた顎の中央に、純白の極光が収束していく。
龍の身体を媒介に龍の息吹を撃つ気か。
普段の龍体ならまだしも、今の肉体なら即死だろう。
広範囲を焼き尽くすブレスを避けるだけの範囲も、ブレスを防ぐような結界を張る余力もない。
だからこそ。
「エリナ様」
「はい」
「5秒だけ時間を稼ぎます。俺が合図したタイミングで、全速力で突っ込んでください」
「………無茶なこと言いますね。私に死ねというんですか?」
「申し訳ございません」
「冗談ですよ、冗談。………クロさん」
「はい」
「これが終わったら、デートに付き合ってもらいます」
「かしこまりました、エリナ様」
ペコリと頭を下げて、エリナ様がクラウチングスタートめいた構えを取る。
煌々と膨れ上がる滅びを前に、真っ向から立ちふさがり、手を翳し。
「来い、エッケザックス」
大砲を放ったような轟音が鳴り渡り、吹っ飛んできた短剣を握りしめる。
黒く鋭く分厚い刃に魔力を流し込み、宝石を散りばめた黄金の大剣が姿を現す。
刃を高々と掲げ。
「強化術式・聖焔、聖律陣、付与術式・光輝の剣」
範囲内の味方の能力値を底上げし、武器に聖なる焔を付与し、更に攻撃力と攻撃範囲を増加させる高位奇跡を発動。
淡い青色の光が燐のように舞い。
「聖なるかな!聖なるかな!天にまします主よ!!その名、その力、その威を以て、汝が信徒に砕ける事なき剣を与え給え!汝の権能と威力を以て、敬虔なる信徒らに祝福を与え給え!聖浄なるその御光、黄金の剣を以て、我が眼前の敵を打ち滅ぼし給え!!」
歯車が噛み合ったような感覚がして、爆発的に膨れ上がった魔力の奔流が渦を巻いて刀身に収束していく。
膨大な光の群れを食らった黄金の聖剣が輝きを増し、明滅して。
「汝、神敵よ!神の名を聞き、以てひれ伏せ!!我らの主たる・神を崇めよ────極大無双閃斬哮!!!」
「偽龍兵装・龍の溜め息」
放たれた破滅の極光と振り抜いた切っ先から生じた黄金波が激突し、空間が軋んだ。
気の狂いそうな重圧と衝撃波が迸り、全身の肉が引き裂かれる。
ブチブチと、脳のあたりでナニカが千切れる音がした。
構うものか。
振り切った刃を、腰だめに構え。
「今ですっ、エリナ様!!」
「剣脚・水鳥!!」
強引に放った2発目の極大無双閃斬哮が龍の息吹を裂き、偽龍の頭の上半分を消し飛ばす。
どうせすぐに体勢を立て直すのだろうが、問題ない。
水面を蹴ったエリナ様が、ナナに迫り。
「逆茂木先生・死紫光線」
無数の棘が一瞬で生え、ナナの指先に収束する芥子紫色の光。
逆茂木を躱すには速度が出過ぎていて、躱したところで心臓を撃ち抜かれて終わり。
まさしくどうあがいても詰みな状況で、魔剣が、水面を切り裂き。
「付与術式・聖防護」
間一髪で飛ばした結界が杭と光線を防ぎ、義手による渾身の掌打が、ナナの内臓を揺らして気絶させた。
傷を負いながらも龍とメイドは狼を寝かしつけ、ようやく揃った一同は、巨大海魔、あやかしの腹からの脱出を目指す。
八方塞がりの暗がりの中、脱出の鍵は、まさかのアマナで────!?
「え、えぇ〜と、ちなみにクロさん、コレは……?」
「人間大砲です。アマナ様にはコレで俺を撃ち出してもらいます」
「正気ですか!?」
「ご安心ください、爆弾も抱えておくので破壊力は十分です」
「そういう問題じゃな」
「ファイヤっ」
「ナナさん!?」
次回「炸裂っ!!南斗列車砲!!」




