HAPPY HALLOWEEN!!
俺は、約束は絶対に守る男だ(死守)
ちなみに、次回投稿は11月25日以降になるかもです。
理由は察してください。察しろ。
「はろうぃん………ですか?」
「ええ。そろそろ時期ですし、今週末にでも、皆様をお誘いしてパーティーを開こうかと」
「なる、ほど?」
ヴァルハリエ家帝都邸、リビング。
お仕事を終えてオオカミ柄のパジャマ姿に着替え、ナイトキャップを被ったナナが、ホットミルクのカップを持ったまま首を傾げた。
なんとなくカレンダーを見て、そういやハロウィンの時期だったなと思いだし、せっかくならパーティーでも出来ればいいなと思ったのだが………まぁ、そりゃ、ハロウィンの文化があるわけもないか。
渋谷のバカ騒ぎのイメージが強いハロウィンだが、アレは確か、れっきとしたケルト民族の祭事だったはず。
それがキリスト教に取り込まれ、更に極東の島国に渡って魔改造された結果がハロウィンなのだ。
そこらへんも含めて説明するとなれば、相当長くなるが………
「ハロウィンというのは、俺の故郷の祭りです。子供が怪物の仮装をして知り合いの家を巡ってお菓子をねだる、ちょっとした賑やかしみたいなものですね」
「なるほど、つまりお菓子が貰えるんですね?」
「そういう事です」
キメ顔のナナの頭を撫で、「やふ~………」と満足げなため息。
色々とすっぽかして説明したが、まぁ、たいして間違っていないだろう。
………間違ってないよな?
「形としては、参加者には仮装だけ用意してもらって、会場とパーティーの用意はこの屋敷ですることになりそうですね。それなら、皆様に迷惑を掛けずに済みますし」
「ですね!あ、あと、ご主人様に許可も貰わないとですね。ご主人様の事ですし、二つ返事で賛成してくれそうですけど」
「話は聞かせてもらったわ?」
バダァアアン!!とド派手にドアを吹っ飛ばし、ネグリジェ姿のお嬢様と、呆れ顔のフィリアが乱入してきた。
脳裏をよぎる『修理』の二文字を追い払い。
「ご主人様!」
「楽しそうじゃない、ハロウィン。クロ、フィリア。今日中に招待状を書き上げて届けてちょうだい?」
ふふんといい顔で笑うお嬢様。
壁掛け時計の針は、10時半を少し過ぎていた。
「うっげぇ」
「僭越ながら、お嬢様。郵便局はもう閉まっているかと」
「車があるでしょ?」
「つまりアレか?今から手紙書いて、直で配達して来いと?」
「そうよ?」
「………なぁ、ペット。オレ、もう泣いていいよな?な?」
「無駄口を叩く前に手を動かしましょう。やればできます………多分、きっと」
「なぁ、ムリっぽいって思っただろ、今」
「フィリア」
「なんだ?」
「タバコ、一本ください」
「ようこそ、こちら側へ。歓迎するぜ、お兄ちゃんふっ」
ニヤケ面を浮かべるフィリアを腹パンで黙らせ、手紙を用意しに2階へ上がった。
「ハッピーハロウィン!仮装似合ってますね、アマナさん!!」
「あっ、えっ、その、はっぴー………はろうぃん?」
「可愛い!!」
「ちょっ、やっ、ゆわーーっ!?」
盛大に飾り立てたヴァルハリエ家のリビング。
(≧∇≦)みたいな顔になったナナがゾンビメイクのアマナ様を抱きしめてグルグル回りだし、素っ頓狂な悲鳴を上げるアマナ様。
可愛い。
すごく可愛い。
ちなみに、今日のナナはいつものメイド服ではなく、赤と黒を基調にしたゴスロリっぽいフリフリのドレスに厚底のブーツ、頭に大きなとんがり帽子を被っていた。
昨日夜なべして完成させたこれは、ナナ曰く『魔法少女』の服らしい。
よくわからなかったが、まぁ、似合っているので良しとしよう。
それよりも気になるのは。
「あの、アサカ様。それは一体」
「ミカが作ってくれた夜会服だ。どうだ、似合ってるか?」
「え、ええ、確かにお似合いですが………」
いつものチョンマゲめいた変則的ツインテールではなくウルフカットに黒髪を整え、得意げに笑うアサカ様。
元々のスタイルがいいのと姿勢がしっかりしているのもあって、かなり絵になっているが、問題はその後ろ。
ちょっとナナに見せられない感じに表情を蕩けさせたメイド姿のミカ様が、カメラで激写していた。
ラブマイダーリン的なパトスが駄々洩れているのか、心なしか、周囲の空気が桃色に染まって見える。
………いや、違う、コレ、スモークだ。
わざわざ桃色のスモークまで焚いてやがる。
流石はクノイチ、芸が細か。
「ク~ロさん♪ちょっとくらい構ってくださいよぉ~」
「ちょうどいいところに来ましたね、エリナ様。少し手伝ってもらいたいこ、とが………」
後ろから肩を揺さぶられ、振り向いて絶句した。
エリナ様がいるのは、まぁいい。
カティア様も招待したのだし、専属メイドのエリナ様がついてこないと思う方がおかしい。
ばっちりしっかり仮装して来ているのも、まぁいい。
そういう場だと理解して、場に合わせようとするのは普通の事だ。
だが、なんで。
「どうしてよりによってソレを選んだんですか」
「むしろ私的には、なんでクロさんが私に気づけたのか謎なんですけどね。背格好も変えてますし、普通は分からないと思うんですけど………」
不思議そうな顔で首をかしげる、見知らぬ銀髪褐色ネコミミメイド。
いつもならメカメカしさ全開の義肢と義眼も、生身そっくりに造られた装飾用のソレに差し替えていたし、身長はいつもより頭1つ分くらい小さい。
確かに、普通は誰か分からないのだろうが。
「俺は人を、視覚ではなく嗅覚で判断しているので」
「つまり、私の胸の谷間に顔を埋めて心行くまで匂いを堪能したいと。なかなか極まってますね、クロさん」
「怒りますよ?」
「冗談です。ほら、小粋なメイドジョークって奴ですよ」
「笑えないんですが」
「ほ、ほら、あれですよ。場を和ませようと思って」
「アレで場が和むとでも?」
「………その、すみません。調子に乗りました」
「よろしい」
笑えないジョークをブチかましてくれやがったエリナ様を黙らせて。
「ハッピーハロウィン!ねぇねぇ、これどう?よく出来てるでしょ!?」
「ぐふっ」
後頭部を何か硬いもので強打され、ついでとばかりに後ろから首を絞められる。
何気に生命の危機めいた状況から何とか脱出し、場違いな鎧の騎士がいた。
ガシャガシャ音を鳴らしながら手を振るその様子に、妙なデジャヴを感じ。
「………もしかして、カティア様ですか?」
「イグザクトリー!仮装大会だって聞いたから、屋敷にあった旧時代の遺物を引っ張り出してきて魔改造してみたのさ!!」
「それは………本当に大丈夫なのですか?」
「誰もこんなのに興味ないから問題ナッシング!まぁ、ちょっと前が見えにくのわたぁっ!?」
なんだかふらふらした動きで踊るようなステップを踏んでいたカティア様が、足を滑らせて盛大にずっこける。
抱え起こそうとして、鎧を着込んだ体がバネ仕掛けよろしく跳ね上がった。
体操選手ばりの大回転を披露して着地を決めたカティア様に、拍手がまばらに降り。
「………あの、エリナ様?」
「なんです?ひょっとして私とセック」
「カティア様、お酒、飲まれてます?」
「………へ?」
変な事を言いかけたカティア様が、見事にフリーズした。
さっき近づいた時、息が妙に酒臭かったのでもしやと思ったのだが………どうやらこの分だと、思い当たる節があるようで。
頭を抱えて天を仰ぐエリナ様を肩を叩き。
「エリナ様。何かあったら相談してくださいね?」
「………大丈夫、です、はい。きっと、たぶん」
「俺に出来ることなら、可能な範囲で協力しますから」
「………はい」
なんだかチベットスナギツネめいた表情のエリナ様と、ご機嫌な様子で直剣をぶん回すカティア様。
危なっかしいので取り上げ、絡んできたのを引き剥がし。
「あと、その………1つ、いいですか?」
「どうか致しましたか?」
「いえ、ちょっと気になっただけなんですけど………クロさんのソレは、何の仮装なんですか?」
「シャーマンです」
「?」
「ですから、シャーマンの仮装です。結構上手くできたと思いませんか?」
「は、はぁ………」
眉をヒクつかせるエリナ様にスポッと外したシカの頭蓋骨を渡し、若干乱れたポニーテール風のウィッグを整える。
イレズミ風のペイントを塗りたくった肌の上に直接クマの毛皮の外套を羽織り、同じく毛皮を加工した腰巻と、なめし革のズボンと靴。
猪の頭蓋骨を先端に刺した、太くねじれた木の枝の杖を背負い、手首に蔦を編んだバンドを巻いて、なんとかそれっぽくでっち上げてみた。
我ながら、結構な完成度だと思っていたのだが………。
「やはり、まだ完成度が低いようですね。もう少し企画を練ってから挑むべきでした」
「いや、そういうわけじゃなくて、なんでシャーマンを選んだのかなって」
「なんとなくです」
「なるほど?」
不思議そうな顔のエリナ様に頭蓋骨を返してもらって被り直し。
「………ねぇ、クロ。本当に、これでよかったのかしら?」
「問題ないと思いますが………なにか、気になる事でもございましたか?」
「そういうわけじゃないのだけれど………」
「大丈夫ですよ、ご主人様。すっごく似合ってますから!!」
「そ、そうよね?似合ってる………わよね?」
いつもの傲岸不遜さはどこへ行ったのか、なんだかすっごく不安そうなお嬢様。
ダボっとした白黒のパーカーを被り、目の周りと鼻頭を黒く縁取ってパンダのコスプレをしたお嬢様。
実際似合ってはいるが、それにしても妙に落ち着きがない。
何か問題でもあったのか?。
「お嬢様?どうかしましたか?」
「いえ、何もな」
「まさか、こういうパーティーが初めてで、どうしたらいいのかよくわからない………なんてこともないだろ?初心なガキじゃあるまいし」
「………」
様子のおかしいお嬢様に、キョンシーめいたコスプレ姿のフィリアが冗談めかして尋ね、お嬢様が口を噤んだ。
妙に気まずい沈黙の中、灰色の脳細胞が唸りを上げ。
「お嬢様、別の衣装も用意してありますが、もしよろしければそちらを」
「………ありがとう、クロ。そうさせてもらうわ?」
「どうせかわらないってぇ………リーンが恥ずかしがり屋さんなだけなんだか」
「うるさいわよカティ!?」
「むぎゅっ」
顔を真っ赤にして俯くお嬢様が、余計な事を言ったカティア様をドナドナしていった。
………どうでもいいが、今日はなんだか、皆様のテンションが妙に高い気がする。
ある意味ハレの日だし、問題ないのかもしれないが、それでも少し変だ。
さっきから妙な臭いもするし。
なんというか、嫌に甘い匂いが。
「………なんだ、アレ?」
裏庭に面した窓に、開けた覚えのない隙間が空いていた。
その奥に覗く、僅かな煙と、特徴的な桃色の髪。
なんだか、嫌な予感がする。
不審者の真後ろに転移で移動し。
「クラリス様。ここで何をしていらっしゃるのですか?」
「えっ!?しょっ、少年!?アイエ少年ナンデ!?」
「ここが俺の職場だからです。エリナ様は、ここで何をされているのですか?変わった服装ですが、ハロウィンの仮装ですか?」
「えっ?あ、ああ、うん!そんな感じ!!アマナちゃんに黙ってついてきたんだけど、入りにくくってさぁ………ねぇ、今から参加してもいいかな?」
古式ゆかしい唐草模様のほっかむりを頭に装備し、往年の泥棒めいた格好の変態がいた。
見苦しく誤魔化そうとしているようだが、龍の眼は誤魔化せない。
「ソレ、媚薬ですよね。なんでそんなもん焚いてんですか」
「だってだってだって!!ハロウィンパーティーだよ!?可愛い女の子たちがコスプレしてキャッキャうふふしてるんだよ!?ぬっちょりねっちょりもっこり癒されたかったのにアマナちゃんには来るなって言われるし、だったらせめて、これくらいの悪戯は許されるでしょ!!トリックオアトリート!お菓子が無いんだからイタズラぐらいいいでしょ!!可愛い子たちがくんずほぐれつちゅっちゅしてる桃源郷くらい見せろ!!」
焚いていたお香を踏み潰して消火しつつ風呂敷を強奪し、小瓶に納められた、なにやらドロリとしたピンク色の粘液。
甘やかな匂いのするソレの蓋を開け。
「………ちょっと、少年?なにやってむぐうっ!?!?」
変態の口に指を突っ込んでこじ開け、抵抗を捻じ伏せながら瓶の中身を流し込んだ。
ゲホッゴホッと咳き込んだ変態が、眼を瞬かせ。
「ちょっと少年!?いきなりなにするのさ!!いくらなんでも、お姉ちゃん、流石にやり過ぎだと思………ねぇ、少年。まさか、今、それを私に呑ませたの?」
「匂いからして致死毒ではないと判断いたしましたので」
「………瓶一本分、全部?」
「はい。ちなみに、この薬にはどのような効能があ」
「ごめんッ、私帰る!!」
踵を返して内股で走り去っていく変態。
媚薬だということは分かっていたが、強力な、それもかなり即効性の高いタイプの代物だろう。
家に帰るまで悲惨な目に合わないことを祈る。
正面玄関から屋敷の中へ戻り。
「トリック・オア・トリート!!」
「うおっ」
ばあっと上から降ってきた、カボチャ頭のローブの女。
特大サイズのカボチャをくりぬいた頭をグルグル回し、愉快そうにケタケタ笑ったそいつが、手に持っていたカゴを差し出し。
「トリックオアトリート!お菓子をくれなきゃイタズラするぞ?」
「お菓子、ですか………ちょっと、待っていてください。こっちに用意したパンプキンパイが………」
パーティー用に焼いてあったミニサイズのパイをとりわけ、油紙に包んで渡す。
嗅いだ覚えのない匂いの人間だが、ナナの学友だろうか?
どこかで聞いたことのあるような鼻歌を口ずさんだ女が、ぴょんと飛び跳ね。
「ねぇねぇ、そっちのお姉ちゃん!お姉ちゃんも、何かくれるの?」
「私………ですか?そう、ですね………ほら、これとかどうです?手慰みに焼いたマフィンとウィスキーボンボンです。少し作りすぎちゃったので、貴女にあげます」
「ありがとう、お姉ちゃん!そこの人と、上手く行くといいね?」
「なっ、何を言ってるのかわかりません。第一、私とクロさんは、そんなんじゃ」
「あれれ?私、誰もそこのお兄ちゃんだなんて言ってないけど?」
「~~~~っ!?!?」
顔を真っ赤にしたエリナ様がぴょんぴょこ跳ねまわるカボチャ頭を追いかけて去っていくのを傍目に後ろを振り向き、銘々にはしゃぐ皆様方。
愉快な光景に、なんだか笑みがこぼれ。
「あ~っ、クロ兄さん!どこ行ってたんですか!!」
「ナナ、どうかしましたか?」
「どうかしましたか?じゃないです!クロ兄さんはいきなりどこか行っちゃうし、ご主人様は酔いつぶれちゃうし、ミカ様は変わり身の術を披露しだすし、アサカ様とカティア様はもうよくわかんないしで、本当に大変で………」
俺の肩をガックガク揺さぶりつつ、なんだか覇気のないナナ。
頭を撫でて慰めながら、どう取り繕ったものか考え。
「そうだ、ナナ。いつの間に新しい友人が増えたのですか?どうせなら俺にも紹介してくれればよかったのに」
「………友達、ですか?」
「はい。カボチャ頭の身軽な女の子だったので、ナナの友人だと思ったのですが」
「たぶん、友達じゃないですよ?」
「………はい?」
「はい。招待できた人とシーザーさん以外に、私、友達なんていませんし」
予想していなかった返答にフリーズし、不思議そうに首を傾げてそんな事を言うナナ。
………今思えば、目の前に現れるまで俺が反応できなかったのも、妙と言えば妙だ。
というか、あのカボチャ頭、思い返してみれば足音が無かった。
元来、ハロウィン………すなわち万聖節は、祖霊や死霊が帰還する日、あの世とこの世の境界線が希薄化する、その一種の分水嶺だったはず。
人々は火を焚き、供物を捧げ、自ら怪物に扮することで、悪意ある異界の住人から身を隠し、収穫祭を祝う。
その古い源流がどこにあるのかは知らないが、あるいは彼女は、その1つの。
「…………いや、これ以上は野暮だな」
「クロ兄さん?」
「なんでもありません。さぁ、パーティーに戻りましょう。実はこっそり、パンプキンプリンも作っておいたんです。頃合いになれば、デザートに出しましょうか」
「カボチャのプリンですか!?楽しみです、クロ兄さん!!」
「ですね」
ご機嫌な様子で頭を押し付けて来るナナを抱きしめて、リビングに戻った。




