真夏の夜の悪夢~中編~
俺は、約束は守る男だ(いっ敗)
「意外に快適ですね」
「そうですね。倉庫か何かだったんでしょうか?」
「う~………これ、ほんとに大丈夫?何か出たりしない?」
「ガキかよ、めんどくせぇ」
「ライカちゃん!?」
何かの樹脂で出来ているらしき床を踏みしめて、遺跡の奥へ向かう。
画一的で無機質な通路の両サイドに嵌められた横長の窓の奥に、人間ほどの大きさの薬莢のような形の装置がズラッと並んでいる。
曇りガラスのようになったその中に、ときおり影が揺れるのが見えた。
アレが何かはわからないが、妙に粘り気を帯びた弾力のある感触からして、少なくとも、廊下の窓はガラスではなさそうだ。
これもまた、遺物の1つなのだろう。
フィリアに訊いてみれば、何かわかるかもしれないな。
「というか、どこまで行くつもりなんですか?ここの規模にもよりますけど、一番奥まで行くのは無理な気がしますし」
「そう………ですね。あと10分ほど歩いて、めぼしいものが無ければ引き返しましょう」
「そうですね、そうしましょう」
「ねぇ………なんでそんなに平気そうなの?怖くないの?」
おっかなびっくりといった様子で後ろから突いてきていた変態が、そんな事を聞いてきた。
怖い、か。
不安定に揺らめく、心許ないランタンの明かり。
ともすればどこまでも続いているような錯覚すら感じさせる、先の見えない薄暗い道。
換気システムがまだ生きているのか、ときおり、老人が呻くような音が響く、人の気配さえない隘路。
総評。
「ただの遺跡ですし」
「たいていの相手ならどうにでもなりますし」
「私より怖がりとか恥ずかしくないの?」
「ぐぅ」
ありのままの事実を述べたところ、変態からぐうの音が上がった。
何かを堪えるようにプルプルと震えた変態が、ヒステリックに痙攣し。
「おかしいって!!絶対おかしいってばさ!!ガラス張りの窓じゃん!?培養槽じゃん!?明らかに何かやばい感じの実験施設でしょここ!!タイラントが居ても知らないからね!?」
「暴食山鯨がここにいるとは思えませんが」
「ちがう!!!」
奇怪にのけぞりながら訳の分からぬ事を喚き散らす変態。
とうとう気が狂ったか。
「うっがぁああぁぁああ!?」と叫び声をあげて暴れ狂う変態を取り押さえ。
「…………うん?」
ひた………と、ナニカの足音が聞こえた。
薄暗い通路の奥、能力職に溶けたその先で、ひたりと音が鳴る。
全員が前方へ注目する中、ずるりと、水っぽいものを引きずるような音が鳴って。
「………ね、ねぇ、皆、なにも見なかったし聞かなかったことにして帰るのはどうかな?ほら、なんというか、ね?」
「クラリス様」
「な、なに?」
「もう手遅れかと」
瞬間、迸った影が俺たちに襲い掛かった。
「クロさん!?大丈夫ですか!?」
「何コイツ何コイツ!?リヘナラドールさんですか!?」
「言ってないで手伝ってください!!」
「というかヤバいって!コイツなんかヤバいって!!」
迷いなく首を噛み千切りに来たバケモノを力づくで押さえつけ、義手がへし折られた。
苦し紛れに蹴り上げて、予想に反して軽々と吹っ飛ぶバケモノ。
蝋人形じみた気味の悪い白色の肌と、床に引きずるほど長い同色の髪。
砕けた琥珀を思わせる、濁った金色の眼。
膨れ上がった水死体のような体に似合わぬ馬鹿力と、全身から溢れ出す異常な量の魔力。
剛腕の叩きつけを、真っ向から受け止めて。
「気を付けてください!相手はおそらくホムンクルス、致命傷の2,3程度では止まらないかと!!」
「マジですか!?」
人造人間───魔力炉を搭載した、錬金術による人造生命───は、肉袋とでもいうべきその単純な構造による、圧倒的なタフネスを売りにしている。
知能が低く、専用の整備施設を要求する代わりに、並大抵の極限環境などものともしない耐久性を持つ、肉で出来た人形。
その歴史は意外に古く、古代の遺跡から稀に保存状態の良好な個体が発掘されて、裏市場で高値で取引されると聞いていたが。
「まさか、こんなところで出くわすとは思いませんでした」
至近距離で爆裂させた火球を、大きく後ろに跳んで躱すホムンクルス。
確かに喰らわせたと思ったが、せいぜいカス当たりがいいところか。
弾速の速い息吹なら当たると思うが、こんな密閉空間でぶっ放そうものなら俺とメスガキ以外、全員ウェルダンになってしまう。
肩口を噛まれながら捻じ伏せて。
「頭っ、下げてください!!」
「おっと」
悲鳴じみた叫び声と、咄嗟にしゃがんだ頭上をぶち抜く銀色の光。
ぶった切られたホムンクルスの腕が、どしゃっと嫌な音を立てて落ちる。
はだけた浴衣から覗く太腿のラインと、義足から突き出した両刃の剣。
ずちゅりと気持ちの悪い粘液を噴出させながら腕を生やしたホムンクルスが、直後鳴り響いた銃声に額をぶち抜かれて転倒する。
どこから引っ張り出したのか大型のデリンジャーを片手で構えた変態が、立て続けに引き金を引いた。
頭を砕かれて痙攣したホムンクルスが、風船のように膨張し。
「誘引!!」
放たれた触手の群れを体で受け止めて、ハリネズミにされた。
咄嗟に張った障壁が割られたあたり、防御貫通系の付呪でもしてあったのか。
肉を引き裂き、骨を砕いて体を貫く激痛を、務めて無視して。
「吹っ飛べや、デブ人形が」
もはやよくわからない肉塊と化したホムンクルスに全力の掌底を叩きこみ、ゼロ距離で放った爆裂が合成組織を粉砕する。
疑似再誕で体を治し。
「無底沼」
「踊れ、高足ロメロ」
「一突き!」
全身から足を生やして祟り神よろしく突撃体勢に移ったホムンクルスが底なし沼に脚を盗られ、魔剣と刺突剣が盛大に肉を抉って飛び散らせる。
渦を巻いて放たれた肉腫を障壁で弾き飛ばし、無数に飛んだ魔力の刃が撃ち漏らしを切り刻む。
武具創成・鉄骨丸を発動、斜め上から引き潰し、掬い上げるように返す一撃が、強烈な蹴りに仰け反ったホムンクルスの胴を捉える。
虚空に弧を描いたレイピアの一閃が鉄骨を半ばから割断し、引き絞って投げ打った一撃が、肥大化した肉腫を床に縫い留める。
鎔鉱刀で炸裂させた金属塊が肉を焼き、破れかぶれの突撃に合わせて蹴り飛ばした鉄骨の片割れが巨体を押しとどめた。
範囲を絞った腐蝕滅が鉄塊ごとホムンクルスを腐敗させて。
「重圧の腕────今です、エリナ様」
「無尽脚・双月!!」
重力で押し潰されて動きを止めたホムンクルスに、両足から放たれた魔力の刃が直撃した。
ズタズタに引き千切られて吹っ飛んだ肉塊に追撃の火球をぶちかまし、そのまま鉄骨で轢き潰す。
渾身のラリアットを決めて触手の乱舞を障壁で防ぎ、後ろから飛んだナイフがホムンクルスに突き刺さって爆発四散。
内臓をぶちまけて倒れ伏したホムンクルスが、それでもなおバネ仕掛けのように跳ね上がり。
「弩弓・3連!!」
軋むような音を立てて放たれた刺突が、獣じみた脚を形成しかけた肉を抉り飛ばし、通路を塞ぐような巨体がもんどりうって倒れた。
右腕に、魔力を集中させて。
「再誕」
フィンガースナップ1つ、肉塊が沸騰して内側から爆ぜた。
「しっかし………えげつないことしたね、少年。コレどうなってんのさ?」
ビクンビクンと痙攣し続ける肉塊をレイピアでつんつんする変態と、少し疲れたような顔のメスガキとエリナ様。
予備の義手を装着し、ランタンに火を灯して。
「素の再生能力が非常に高かったので、それを限界まで活性化させてデタラメに再生し続けるようにしました。持って帰って後で焼却処分しましょう」
「え?コレまだ生きてるの?」
「はい。もっとも、まともに動けないのでちゃんと生きていると言っていいのかはわかりませんが」
「うげっ」
どこで拾ったのか木の棒で元ホムンクルスをつついていたメスガキが、妙な声を上げて棒きれを放り捨てた。
何を思ったのか俺の浴衣で手を拭いてきたのでデコピンをかまし、「ぎゃんっ!?」と野生動物じみた悲鳴。
ざまみろ。
細かな傷を疑似再誕で治し。
「申し訳ございません、エリナ様、クラリス様。お手数をおかけいたしました」
「あー、うん、別にいいよ。ちょっと危ない橋渡っただけだし」
「特に問題もありませんでしたし、デート1回で許してあげます」
「承知いたしました」
2人に向かって頭を下げて、のんきにあくびをしながらそんな事を言う変態と、口の端をわずかに歪めて笑うエリナ様。
………萌黄色の瞳が、獲物を狙う肉食獣のそれと被って見えたのは、きっと気のせいだ。
いやな予感を脳裏から振り払い。
「まぁ………なんというか、すごくやりやすかったですね。1人でも負けることは無かったと思いますが、クロさんが盾役に徹してくれたおかげで攻撃に専念出来ましたし」
「あっ、やっぱそうだよね。防御をあまり考えなくていいから、すっごい楽でさ。ほんと助かったよ、ありがとね?」
「自分の役割を果たしただけです。礼を言われるような事ではありません」
「それでもです。ありがとうございました、クロさん」
子供にするように頭を撫でに来た手を払い、微笑ましいものでも見るような眼。
むず痒いような気恥しいような感覚を、努めて無視して。
「それで、これからどうしますか?俺としては、この遺跡を塞いで帰った方がよいと思いますが」
「私は賛成です。ホムンクルスがこれ一体とも限りませんし、不測の事態が起きる前に戻るべきかと」
「私も賛成だね。私とかエリナちゃんはともかく、少年は結構きついでしょ?ムリしないで帰った方がいいと思うな」
「えぇ~………まだ遊びた」
「おん?何か言いたい事でもあるんか?えぇ?」
「………ひっぐ………ぐすっ」
何か言いかけたメスガキにインフェルノをちらつかせて封殺。
なんか冷たい視線を感じるが、気にしてはいけない。
いけないのだ。
「それでは、満場一致で帰還ということで」
「あれで満場一致ですか。面白い冗談ですね」
「黙っててください。ナナたちが来る前に、この遺跡を封鎖して」
グラリ、と視界が歪んで世界が乱回転した。
下半身が砕けでもしたように力が抜けて倒れ込み、酷く粘ついた音を立てて喀血が零れだす。
ゲル状に凝固した真っ黒い血が、リノリウムじみた床にぶちまけられていく。
腐敗した血と内臓を吐き散らして、ズチャリと湿っぽい音が脳内に響く。
粘つきながら広がっていく血だまりの中、半ば熟れたブドウのように膨れた眼球が転がっていた。
「ちょっ、少年!?」
「クロさん!?大丈夫ですか!?」
ここ最近、症状が出なかったから油断した。
目が蕩けて落ちた左目を庇って立ち上がり、切れずに膝をついて柔らかい感触。
回らない頭で見上げた視界に、泣きそうな顔で俺を揺さぶるエリナ様が映った。
グシャグシャに歪んだ表情が何故か無性におかしくて笑いが零れ、喉を占領した血餅が噴き零れる。
やけに痛む体をむりやりに起こし。
「大丈夫です、エリナ様。ただの発作です、何も問題ありません」
「問題ないって………何言ってるんですか!?血が、こんなに出て」
「この程度、くしゃみのようなものです。気にしないでください」
「クロさんは黙っててください!!急いで里に戻って、手当を」
通路の奥、うすぼんやりとした暗がりに佇む、マネキンじみた人形が一体。
大口径の銃が、こちらを照準し。
「エリナ様!!!」
意外に軽い体を突き飛ばし、前に出て。
「ぁっ」
キュキュキュンと奇妙な音が鳴って、世界が暗転した。
次回予告
突如現れたアンドロイド系ヒロイン(消費期限切れ)にハートを撃ち抜かれた主人公!!
ドリームランドまでトリップしたのもつかの間、背後から迫るは修羅と化した年上メイド!!
頑張れ主人公!!性癖全開ハーレムエンドはすぐそこだぞ!!!
「ク~ロさん♪どこいくんですかぁ~?」
「くぁwせdrftgyふじこ」
「マズい、クロ殿が壊れたぞ!!」
「エリナさん!拡散波動砲準備出来ました!!いつでも撃てます!!」
「なにやってんのナナちゃん!?」
「武士道とは死ぬことと見つけたり」
「お爺様、それなんか違う」
次回「龍国脱出!!危機を呼ぶ波動砲!!」




