真夏の夜の悪夢~前編~
本日中にもう一本上げます。マグロ、ご期待ください。
木の葉の合間から星影が覗く、薄暗い夜の森。
虫の鳴き声と木々のざわめきが、疲れた頭に心地よく響く。
思わず零れたあくびを噛み殺して。
「………ねぇ、そろそろ放してくれないかな?お姉ちゃん、さすがにちょっと辛いかなって」
「誰がお姉ちゃんだ、張っ倒すぞ」
鎖でグルグル巻きにされたまま宙に浮く変態。
エリナ様にセクハラ敢行したりメスガキに妙な事を吹き込もうとしたりといろいろ面倒くさいので、浮遊の魔術をかけて動けなくしたのだ。
………股間をまさぐられかけてマジで焦ったのは、ナイショの話。
ショタコンでシスコンで変態でバイとかいう、業のハッピーセット状態なのは気にしない方針で。
というか、気にしたら持たない。
「クロさんクロさん、コレ、どうするつもりなんです?」
「事故に見せかけて始末してしまいましょう。ナナのためにも、後顧の憂いは断つべきです」
「ちょっと酷くない!?私、これでも公爵令嬢なんだけど!?」
「人は人です。突然不幸な死を遂げたとしても、何らおかしくはないかと」
「許してくださいお願いしますなんでもしますから」
「何言ってんの?」
ミノムシ状態のまま器用に頭を下げる変態と、呆れ顔のメスガキ。
なんというか、無性にイラっと来る。
纏めてハゲにしてやろうか。
「ヘイ!いったんストップだ少年!!バリカンはさすがにシャレにならないかなって!!」
「頭皮ごと削ぎ落してやろうか」
「怖っ」
「ねぇ、お姉さん。肝試しってこんな感じなの?」
「私は経験がないのでわかりませんが、おそらく違うかと」
宝物庫から取り出したバリカンを構え、やたらコミカルに藻掻く変態。
若干猫を被ったメスガキと、いつも通り無表情ながら、呆れたような声音のエリナ様。
なんとなく気恥ずかしくなったのでそっぽを向いて、エリナ様に回り込まれた。
何を思ったのか、そのままワシャワシャと頭を撫でられる。
されるがままの俺を見て、何故か接近してくるメスガキ。
頬をつつかれそうになったのでとりあえずインフェルノスタンバイ。
涙目でビクッとなるメスガキ。
ざまぁみやがれ。
「………あの、クロさん。なにしたんですか?」
「少し前に2回ほど燃やしました」
「もやっ!?」
「えぇ………流石に酷すぎない?」
「正当防衛です」
1回目は向こうが襲って来た時に、2回目は八つ当たりで。
どちらもまぁ、正当防衛と言って差し支えないだろう。
知らんけど。
「というか、祠まであとどれぐらいなんですか?」
「もう着くんじゃないかな?結構歩いたし、そこまで遠くでもなかったからさ」
「クラリス様は、歩いたというか、浮いていただけのような………」
「仕方ないでしょ、グルグル巻きなんだしさ」
「そもそも、見境なさすぎるクラリス様が悪い気もしますが」
「そりゃまぁ、エリナちゃん可愛いから出来ればお近づきになりたいけどさ?私だって見境ないわけじゃないんだよ?」
「嘘だ」
「嘘だな」
「嘘ですね」
「信用なさすぎない!?」
「むしろ、何故自分が信用されていると?」
「酷いッ!?」
グルグル巻きにされたままグルグル回る変態。
気持ち悪い。
「まぁ………確かに私は女の子が好きだし、見境なく見えるかもしれないけどさ。これでも、手を出す女の子は絞ってるんだよ?
誰かに手を出すのは、その子を必ず幸せに出来ると確信した時だけ。その子の意志に背くようなことは絶対禁止、ほかの人に迷惑をかけるのも禁止、優先順位はアマナちゃんの安全、他の女の子、それから私。
メンヘラちゃんとかヤンデレちゃんとか背負いきれない子に手を出すのも禁止だし、他にも色々、結構厳しくやってるんだからね?」
冒涜的ブレイキンダンスを踊りつつそんな事をのたまう変態。
死んでしまえ。
というかマジで消えてくれ。
ナナの教育に悪い。
「やはりここで殺していくか………?」
「オッケー。とりあえず、平和的解決を図ろうじゃないか。こちらには交渉に応じる用意がある」
「冗談です。殺す価値もありませんし」
「あだっ!?」
バカな事を言う変態をぶん殴ってついでに拘束と浮遊を解除。
尾てい骨から落ちたのか「ギャンッ」と獣じみた悲鳴を上げるバカを尻目に、視線を前に向け。
「それに、もう着いたようです」
山が崩れでもしたのか岩肌が露出した斜面に埋まり込むように、洞穴が暗い口を開けていた。
「それで、ここの一番奥の祠にお札を置いてくるんでしたっけ?」
「そうそう。かなり古い場所みたいだし、雰囲気あるかなって」
「雰囲気、ねぇ?」
洞穴の中は、底冷えしそうなほどひんやりとしていた。
微妙に苔むした湿気混じりの地面を踏みしめ、義手に括りつけたランタンの明かりが、長らくとどまっていたであろう暗がりを駆逐していく。
湿り気を帯びた、わずかに土の匂いのする空気が、妙に心地いい。
「肝試しに適しているかどうかはともかく、涼を取るには良さそうですね」
「………ねぇ、私に対するあたり、強くない?」
「ご自分の行動を鑑みれば分かるかと」
「酷いッ!?」
「わぷっ!?」
オーバーリアクション気味に蠢く変態を無視してランタンを揺り動かし、バカの痴態を汚物でも見るような眼で見ていたメスガキが、クモの巣に顔面から突っ込んだ。
ざまぁみろ。
「………なんか今、邪悪な波動を感じた」
「頭を打ったのですか残念ですどうぞお大事に」
「ザッケンナコラー!」
どこかで聞いたことがあるような叫び声を上げて跳びかかってきたメスガキを空中で掴んで止め、ポカポカと殴られる。
一応力加減はしているようだが、それでも結構痛い。
小さくてもさすがは龍、怪力なのには変わりない、ということか。
むしろ、人間の体でこの馬力が出せることに驚きだ。
腐っても鯛、という奴なのかもしれないと一瞬思ったが、並の人間の体を風船に例えるなら、人化した龍の体の硬度は鉄筋コンクリート。
ガキにコンクリでぶん殴られたら痛いのは、まぁ、当たり前の話か。
「でも、雰囲気があっていいですよね。今にもこう、ヒュ〜ドロドロと来そうな感じがして」
「怨霊系の不死の魔物なら悪霊祓いで処分できますし、気にする必要はないかと。動死体や動骨格は物理攻撃で殲滅可能ですし、何より俺の得意は火炎系統の魔術です。首なし騎士程度までなら一手で火葬できます。心配無用です」
「………違うんです、クロさん。そうじゃないです、そうじゃないんです」
相変わらずの能面顔で「ヒュ〜ドロドロ〜」とやるエリナ様にそう返して、残念なものでも見るような目。
解せぬ。
「というわけでクロさん、もしよかったら、明日、買い物に行きませんか?」
「どういうわけでそうなるんですか」
「あれ、ひょっとしてデート?私もついて行っていいかな?」
「来たら殺しますが?」
「助けてヘルプミーライカちゃん!!」
「ちょっ、やめっ」
変態に冷やかされてキレたエリナ様がナイフを抜き放ち、逃げた変態がメスガキに抱き着いた。
そのままもみくちゃにされるメスガキを無視して、服の裾をつつかれる。
横を見て、至近距離から俺を覗きこむ金色の義眼。
微動だにしないそれを、押しのけようとして。
「それで、どうします?一緒に来てくれますか?」
「そろそろ祠が見えてくるはずです。気を引き締めていきましょう」
「も~………ちょっとくらい構ってくれてもいいじゃないですかぁ………」
「また後にしてください」
「そんにゃ~………」
しなだれかかってくるエリナ様を引っぺがして、後ろから抱き着かれる。
後頭部が何か柔らかいものに埋もれ、金木犀の花のような香り。
務めて無視して振り払い。
「おっ、もう着いたのかな?」
「なんというか………不思議なところですね、ここ」
「なんか臭くない?」
ようやく洞窟の行き止まりについた。
自然の洞窟をわずかに整備したような道から一転、なにか不透明な緑色の床材でタイル張りにされた足元と、蛍光色の明かりを滴らせる、見慣れない形状の照明。
ドーム状に造られた空間の正面には、壁に埋め込まれた謎の円形石板と、床と同じ素材で作られた祠があった。
何故か、本当に何故か、不快感に胸がざわつく。
驚きと、僅かな困惑を浮かべる変態とエリナ様の横で、顔をしかめて鼻をつまむメスガキ。
あいかわらず自由な奴らだ。
「それで、ここに札を置いて行けばいいんですよね?」
「うん。後は帰るだけだね」
「あれ?もう終わりなの?」
「そうなるね」
「ふ~ん………」
「どうしたの?お腹痛いの?」
「そんなんじゃなやうっ!?ちょ、どこ触って」
詰まらなさそうに口を尖らせたメスガキが、変態に絡みつかれて悲鳴を上げた。
どうでもいいが、レズでロリコンでショタコンでシスコンって、かなりヤバいんじゃないだろうか。
業が深いとか変態性癖とかそういう次元じゃない気がする。
溜息を飲みこんで。
「もうよろしいですか?なにもなら、そろそろ帰り」
祠の上に札を置こうとして、台上に刻まれた五十音表に気づいた。
パソコンのキーボードじみたソレの1つをなんとなく押して、ガゴンと大きな音を立てて目の前の円盤の一部が陥没した。
『一文字消す』と書かれたボタンを押してちゃんと元に戻るあたり、ムダにちゃんとしてるのが腹立つ。
「えっ、なにこれ?なんのギミック?」
「子守のオモチャか何かでしょうか?」
「いや、それはないでしょ」
ギャーギャー言い合うマヌケ共を無視して祠に目を凝らし、上の方に、『本能寺の変で殺された武将の名前は?』とやたらポップなフォントで描かれていた。
色々とツッコみたいのをグッとこらえて。
「皆様。少しよろしいでしょうか?」
「どったの少年?おっぱい揉む?」
「恐らくですが、この祠の仕掛けを動かす事が出来ます。放っておいても問題はないと考えますが、いかがしましょうか?」
「未知の遺跡ですか………ドキワクしますね」
「動かしていいんじゃない?やらない後悔よりやる後悔って言うし、当たって砕けろの精神で」
「砕けたらダメでしょ」
「またおっぱい揉まれたいのかな?」
「おいメイド!!こいつなんとかしろ!!」
「なんとか」
「ちが~う!!」
三文芝居を始めた変態とメスガキを尻目に第六天魔王なあの人の名前を打ち込み、『決定』と書かれたボタンを押す。
祠のキーボードと連動しているらしい石板が虫食いのようにへこみ、直後、重い音を立てて左右に開いていく。
継ぎ目の1つも見当たらない、薄緑色の一枚岩をそのまま磨いて埋め込んだような、不思議な材質の床面。
なんというか、少しだけ見たことがあるようなないような気がする。
気を取り直して。
「エリナ様、どうしましょうか。俺としてはこのまま奥へ向かってみるのも面白いかと思いますが」
「………そうですね、遺跡デートと行きましょうか」
「かしこまりました、エリナ様」
「お?ひょっとして少年、まんざらでもない感じ?年上のメイドさんとデートで内心ドキワクしてる感じ?」
「うるっせぇよハゲ」
「ハゲて無いもん!!フサフサだもん!!」
「おい、背中乗せろ。疲れた」
ニヤニヤしながら揶揄ってきた変態に混ぜっ返し、背中に飛び乗ってくるメスガキ。
引っぺがそうとして間に合わず、コアラよろしくしがみつかれてしまった。
首に手を掛けられているせいで若干息が詰まって苦しいが、わざわざ振り払うほどでもない気がする。
メスガキを背負いなおして、ランタンの火をかざし。
「それじゃ、行ってみましょうか。もしかしたら、何か面白いものがあるかもしれませんし」
「ですね」
「えっ?少年、その状態で行くの?首しまってない?」
「大丈夫です、問題ありません」
「えぇ………」
薄く埃の積もった通路へ、一歩踏み出した。




